歪な歪み(イビツナユガミ)
気づけば、俺は全てが歪んだ世界にいた。
家や建物は歪に曲がりくねり、空は紫と赤の奇妙な色合いで渦巻いている。住人たちの顔は引き伸ばされ、笑っているのか泣いているのか分からない。彼らは歪んだ動きで街を行き交い、誰一人として俺に気づいていないようだった。
嫌悪感に吐き気を覚えながらもこの世界で暮らすしかなかった。食べ物は奇妙な色と形をしていたが、食べると意外と普通の味がする。
仕事もある。歪んだ同僚たちと歪んだ会話を交わしながら、歪んだ書類に目を通す日々。
俺はまるで異物として存在しているような感覚に苛まれながらも、この世界に順応しようとしていた。
しかし、どうしても理解できないものはスマホで撮影して記録していた。例えば建物の中に突如として現れる巨大な手の形をした構造物や、空中で無数の目玉が回転している様子。あまりにも異様な光景にシャッターを切らずにはいられなかった。
ある日、街を歩いていると空から巨大な影が迫ってきた。
それは歪みすぎて形容できない何かで、俺を押しつぶすように降りてきた。
恐怖で身動きが取れず、そのまま目を閉じた――
そして目を開けると、俺はベッドの上にいた。
悪夢だったのか。いや、夢にしてはあまりにも鮮明すぎる。汗ばんだ体を拭い、現実感を取り戻すように深呼吸をした。
出勤途中の電車の中で上司からのLINE通知が来た。
『朝から悪い、お客さんからの要望で前回下見した物件の画像送ってくれよ』
眠気が残る頭で画像フォルダを開く。しかし、そこには仕事で撮ったはずの物件写真は一枚もない。
代わりに、歪んだ世界の写真が大量に保存されていた。
建物がねじれた街並み、人間とは思えない住人たち、空中を漂う巨大な手、無数の目玉。
――どれも夢の中で見たものばかりだ。
震える手で画像をスクロールする。
どれもリアルすぎる。いや、リアルそのものだ。
夢ではなかったのか?背筋が凍る中、ふと最後の画像に目が止まった。
それは俺自身だった。
歪んだ顔、引き裂かれた口、空洞の目。
――間違いなく俺だ。
電車が急停車する。
乗客たちがざわめく中、スマホの画面に通知が現れた。
『君だけが歪に歪んでいる』
気がつけば
周りの人間たちの顔や電車の中がゆっくりと歪み始めていた。
終わり
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