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忘れた心強さと探偵

横浜の港から少し離れた場所。
潮風は届くけれど、波音は遠い。
かつてはネオンが煌めき、人々の嬌声がこだましたであろうこの場所は、今はひっそりと静まり返っている。
遠くで電車の音が響き、街の喧騒が微かに届くばかり。

錆びついた鉄骨が空を切り裂き、コンクリートのひび割れからは雑草が逞しく顔を覗かせる。
古びた雑居ビル、その最上階、誰も寄り付かぬ屋上で探偵Aと探偵Bは既に何時間も対象者のアパートを監視していた。


探偵A:「なあ、今までで一番くだらない調査ってなんだった?」唐突に話し出した。

探偵B:「うーん、そうだな。前に猫の浮気調査した時かな。依頼人が心配性でさ、飼い猫が他の猫と遊んでるのを見て浮気だって騒ぎ出して」退屈しのぎにはちょうどいいと、顎を上げて答えた。

探偵A:「猫の浮気って...。で、証拠写真とか撮ったのか?」

探偵B:「撮ったさ。二匹の猫がじゃれ合ってる写真とか、一緒にご飯食べてる写真とか。依頼人には申し訳ないけど正直笑いが止まらなかったよ」

探偵A:「それは確かにくだらないな!俺も前にあったぞ。依頼人が自分の浮気を疑ってるってやつ。結局、ただの妄想だったんだけどさ」

探偵B:「そんな依頼もあるのか。探偵も楽じゃないな」

二人の探偵はしばらく過去のくだらない調査について語り合った。

探偵A:「お、もうこんな時間か。そろそろ対象者も動き出す頃だな」

二人の探偵は気を取り直してカメラを構えた。
しかし、対象者のアパートからは一向に人の気配がない。

探偵B:「おかしいな。いつもならとっくに出てるはずなのに」

探偵A:「もしかして、今日はもう出かけないつもりかもな」
二人は焦り始めた。このままでは今日の張り込みは無駄になってしまう。

探偵B:「このままじゃ依頼人に合わせる顔がないぞ」

探偵A:「そうだ!俺にいい考えがある」自信満々に言った。

探偵A:「今から俺が対象者のアパートに行って、わざと音を立ててみる。そうすれば対象者も出てくるはずだ」

探偵B:「それは名案だ!さすが頼りになるな!」肩を叩いて褒めた。

探偵Aは誇らしげに頷きアパートへと向かっていった。


数分後、アパートから大きな物音が聞こえた。

探偵B:「よし、作戦成功だ!」興奮してカメラを覗いた。
しかし、次の瞬間彼の顔から笑みが消えた。

アパートから出てきたのは、対象者ではなく警察官に連行される探偵Aの姿だった。

探偵B:「ちょっと待ってください!彼は探偵なんです!誤解です!」必死に叫んだが、警察官は聞く耳を持たなかった。


結局、その日の張り込みは失敗に終わった。探偵Bは探偵Aを釈放するために警察署へと向かい、探偵Aは留置場で一晩を過ごすことになった。


後日、釈放された探偵Aは探偵Bに言った。

探偵A:「なあ。俺たち、もしかして世界一くだらない探偵コンビなんじゃないか?」

探偵B:「そうだな。でもそんな俺たちだからこそ、この仕事が楽しいんだと思うよ」苦笑しながら答えた。

二人の探偵は愛しさと切なさを内包した顔を見合わせて笑った。
そして、また新たな調査へと向かうのだった。
たとえそれが、どんなにくだらない依頼であろうとも。

終わり


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