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会えなくても

「ねえ、おばあちゃん。どうしてもういないおじいちゃんのことをそんなに覚えていられるの?」

幼い頃からずっと僕の疑問だった。

おじいちゃんは僕が小学校に上がる前に亡くなった。だからおじいちゃんの記憶なんてほとんどない。ぼんやりとした笑顔と優しい声、それくらいしか覚えていない。

それなのにおばあちゃんはいつもおじいちゃんの話をする。
楽しかった思い出、ケンカしたエピソード、そしておじいちゃんの優しさ。
まるで昨日も会ったかのように話すのだ。

「だって、海斗や。おじいちゃんはもういないけど、ずっと私の心の中にいるんだもの」

そう笑って、おばあちゃんは僕の頭を撫でた。

「心の中にいるってどういうこと?」

僕が聞き返すとおばあちゃんは少し考えてこう言った。

「例えばね、海斗が誰かを好きになったとする。その人がもし遠くに行ってしまっても、海斗の気持ちは変わらないでしょ?
それと同じなの。おじいちゃんはもういないけど、私の中にいるおじいちゃんへの気持ちはずっと変わらないの」

僕はおばあちゃんの言葉を理解できなかった。
それでも、おばあちゃんが寂しそうではないことはわかった。


それから数年が経ち、高校生になった僕は部活に打ち込む日々を過ごしていた。
忙しくも充実した毎日でおじいちゃんのことを考えることは少なくなっていた。

そんなある日、おばあちゃんが体調を崩して入院した。
幸い、大事には至らなかったもののお見舞いに行くとベッドに横たわるおばあちゃんが静かに窓の外を眺めていた。

「おばあちゃん、具合はどう?」

僕が声をかけるとおばあちゃんはゆっくりと僕の方を向いて微笑んだ。

「大丈夫よ。でもね、こんな時おじいちゃんがそばにいてくれたらなってふと思うのよ」

「……寂しくない?」

僕がそう尋ねるとおばあちゃんは小さく首を振った。

「寂しくはないわ。だってずっと心の中にいるもの」

幼い頃にも聞いたその言葉を今の僕は少し違う気持ちで受け止めた。
おばあちゃんにとって、おじいちゃんは"いなくなった人"ではなく"今も共にいる人"なのだ。
それはおじいちゃんとの思い出を大切にし続けるおばあちゃんの強さであり、優しさだった。

「ねえ、海斗。誰かを大切に想う気持ちは時間が経っても消えないのよ。それが愛というものだから」

その言葉を聞いた時、僕はようやくおばあちゃんがずっとおじいちゃんを語り続ける理由を理解できた気がした。

人は心の中に大切な人を抱き続けることができる。
たとえ会えなくなっても、たとえ時間が経っても決して消えない想いがあるのだと。

いつか、僕も誰かをそんなふうに大切に想える日がくるのかもしれない。



終わり


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