見出し画像

幸せの花

路地裏に一軒の小さな花屋があった。
店主の老紳士はいつも優しそうな笑みを浮かべ、色とりどりの花を手入れしている。

実はこの老紳士、人々の感情を花に変える特殊な能力を持っていた。
喜び、悲しみ、怒り、絶望…。
あらゆる感情は彼の手にかかれば美しい花へと姿を変えた。そして、その花を贈られた者はまるで魔法にかかったかのように抱えていた負の感情が消え去り幸福に包まれるのだ。

ある日一人の若い女性が花屋を訪れた。
彼女は最愛の恋人を亡くし深い悲しみに暮れていた。老紳士は彼女の不幸を吸い上げ一輪の赤いバラを咲かせた。
そのバラを受け取った女性は不思議と心が軽くなり、再び笑顔を取り戻した。


一方、別の場所では一人の男が深い絶望の淵に立たされていた。
たった今、彼は愛する家族を失い生きる希望を失ったのだ。彼の絶望はどこかで咲いた赤いバラの美しさを際立たせるための養分だった。

老紳士はその事実を知っていた。
彼は人々に幸福を与えるために誰かが不幸になることを受け入れていた。
神様でもない彼にとって、決して許されない罪なのは承知している。

しかし、人々が花を求めて店を訪れるたびに彼はその誘惑に抗うことができなかった。

ある夜、老紳士は夢を見た。
夢の中で彼は無数の花に囲まれ人々の笑顔に祝福されている。しかしその花の根元には地獄の様な無数の悲しみと絶望の世界が何処までも渦巻いていた。


翌朝、老紳士は店の奥にある地下室に閉じこもり二度と姿を現すことはなかった。

彼の秘密を知る者は誰もいない。

しかし街では今日も誰かが花を贈り、誰かが絶望している。その連鎖は永遠に続く。

老紳士が夢で見た地獄のように。


終わり


Xで呟いています フォローやいいねを待っています👍


Instagramは神奈川、横浜の風景がメイン


調査の無料相談、お見積りはLINE公式アカウントから


公式HP:横浜の探偵ブルーフィールドリサーチ


リンクまとめ


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集