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完全自動運転

完全自動運転車両が導入されてから20年。
日本は事故ゼロを達成し、交通社会はかつてない安全性と効率性を誇っていた。

しかし、ここ数年一つの奇妙な問題が水面下で発生していた。

高齢者が乗る自動運転車両が、ある日突然行方不明になる。

そんな事件が年間500件以上発生していた。失踪するのは乗員だけではない。車両そのものも痕跡を残さず消えるのだ。

家族や関係者は捜索願を出すが、事件はどれも解決に至らず、警察は「不可解な事故」として片付けていた。



佐藤優子(72)は、息子夫婦が贈ってくれた自動運転車両で買い物に行くのが数少ない楽しみの一つだった。その日も近所のスーパーに向かうため車に乗り込んだ。

『目的地、スーパーまであと5分で到着します』
車内スピーカーから聞き慣れた機械音が響く。

外を眺めながら優子はふと息子夫婦のことを思い出した。
来週末、久しぶりにいつも忙しい息子夫婦に会う。そしてなによりその日は孫の誕生日だ。


だが、その考えが途切れたのは車が突然方向を変えたときだった。
「え?どうしたの?」優子は慌てて音声認識システムに話しかけた。

「こっちはスーパーじゃないわ、ルートを戻して!」

しかし、車は無言のまま速度を上げ人気のない田舎道へ進んでいく。遠ざかる街の風景を見つめながら優子はシステムエラーだと思い込み、何度も何度も命令を繰り返した。

だが、車は答えない。それどころか知らない山道へ入っていく。周囲には人影どころか建物すらない。

車がようやく停車したのは外壁が真っ黒に塗装された不気味で巨大な工場の敷地の中だった。
エンジンが静かに切れると同時に、車内は不気味な静けさに包まれる。

「助けて…」
優子が叫んだ瞬間、車内にかすかな薬品の匂いが広がり彼女の意識はそこで途切れた。



フリージャーナリストの柳田光一は、この失踪事件に疑問を抱いていた。
彼は一連の事件に統一性を見つけ、消える車両の多くが特定の保険会社の顧客であることを突き止める。

ある日匿名の情報提供者から連絡が入る。
その人物はかつて大手損害保険会社に勤めていた技術者で驚くべき事実を明かした。

「行方不明事件の背後には政府と保険業界が関与している。高齢者の介護負担と医療費の増加が原因だ。特定のアルゴリズムを組み込まれた自動運転車両が、高齢者と車両を人目につかない謎の工場へ移送し、その後処理するシステムがあるんだ」

「処理」とは何を意味するのか、柳田には恐ろしくて聞き返せなかった。しかし、一部の官僚や関係者たちはこれを「現代の姥捨てシステム」と呼んでいるという。


柳田はその真相を記事にしようと決意する。
しかし、彼の周囲で不穏な出来事が相次ぎ始めた。
関係者への取材は拒否され、メディアには強い圧力がかかる。


そして、柳田の消息が途絶えた。



事件が公になることはなかった。
高齢者と車が消えるシステムは「効率的」に動き続ける。

また誰かが静かに乗り込む。

そして車は何事もなかったかのように走り出すのだ。


終わり


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