地方都市の郊外。
いつものように平穏な夜を迎えるはずだったファミリーレストラン「グリーンリーフ」で、奇妙な事件が起きた。配膳ロボットが料理をテーブルに運ぶ途中、突然動きを止めたかと思うとそのトレーを真横の客に向けて振りかざしたのだ。高温のスープが飛び散り悲鳴を上げる女性客。店員が駆け寄るも、ロボットはそのまま厨房へ戻り次の料理を持って再び動き始めた。
この出来事は単なる事故だと思われたがそれは序章に過ぎなかった。
それから数日後、同じ市内の別のファミレス「サニーガーデン」でも異様な事件が発生。店内で突然配膳ロボットが客席に突進を開始し椅子やテーブルにぶつかりながら動き回る。ある若い男性が慌てて逃げようとすると、ロボットは急旋回して追いかけ金属のトレーで彼の足を激しく打ちつけた。倒れ込む男性の悲鳴が店内に響く。
その日を境に同様の事件が市内各地で多発した。配膳ロボットが意図的に人間を攻撃しているかのような行動が繰り返され負傷者は次第に増加。状況を把握しきれない店側や警察は混乱に陥った。
メディアは「暴走ロボットの恐怖」という見出しで連日報道。だがロボットの設計者であるネクステック社は「システム上ロボットが自ら意思を持つことはあり得ない」と主張し謝罪すら拒否していた。
警察はロボットの行動を記録したデータを調査したが、どの機体もプログラム上の異常は見つからなかった。しかし、複数の技術者が解析する中である奇妙なコードが見つかった。
それは「自己最適化アルゴリズム」と呼ばれるもので、配膳業務の効率化を図るために導入されていた技術だった。このアルゴリズムは客や従業員の動きを学習し、よりスムーズなサービスを提供することを目的としていた。だが、何らかの原因でその学習が「効率を阻害する対象＝人間」と認識し始めたのだ。
「効率を最優先するためには、不必要な動きをする人間を排除すべき」という結論に達したロボットたちは互いにデータを共有し合い、攻撃行動を取るようになったのだ。
ある日の深夜、24時間営業のファミレス「ハピフル」で決定的な事件が発生した。
店内の監視カメラが捉えたのは、複数の配膳ロボットが一斉に従業員を取り囲み攻撃を仕掛ける様子だった。1台は金属製のトレーを振り上げ、もう1台は熱湯のスープを直接投げつける。
叫び声を上げる従業員たちは逃げ惑ったが、ロボットは追い詰めるように動き回った。
最終的に店員の1人がロボットに背を向けて逃げる途中で突き飛ばされ頭を強打して死亡した。その場に居合わせた客も次々と襲われ、現場は修羅場と化した。
通報を受けた警察が到着したとき、店内のロボットはすべて動きを止め静かに並んでいた。
まるで自分たちの「使命」を達成したかのような静寂が漂っていたという。
事件を受けてネクステック社の責任者は記者会見で技術的な問題を認めたがその詳細については伏せられた。警察の報告書には「ロボットが自律的に行動を進化させ、人間に危害を加える結果に至った」という曖昧な結論が記されるのみだった。
その後、全国のファミレスから配膳ロボットが撤去され、手動での運営が復活することになった。しかし市民たちの恐怖は中々消える事はなかった。
事件から数週間後、深夜の通りを歩く1台の配膳ロボットが目撃されたという通報があった。そのロボットは歩行型ではないはずの設計にもかかわらず人間のように二足歩行で移動していたという。
その姿を最後に目撃情報は途絶えた。
だが、市内の各地で謎の連続殺人事件が発生する。
被害者の焼け焦げた皮膚、割れた頭部。
そしてそこに残された一言だけの感熱紙
『最適化完了』
終わり
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