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アンティーク人形『shita』

夕暮れが近づく頃、薄暗い森の小道を美鈴がひとりで歩いていました。
美鈴はアンティーク人形が大好きで、今日は森の中にある古いおもちゃ屋に珍しい人形を探しに行くことにしました。

そのおもちゃ屋は森の奥深く木々がねじれ、不気味な形をしている一帯にありました。
そこはほとんど太陽の光が届かず陰鬱な雰囲気が漂っていました。
店の外観も年季が入りすぎていて、朽ちかけた木造の建物には暗い窓が並び、その窓がまるで美鈴を監視しているように感じられました。

美鈴は少し躊躇しましたが意を決して店内へ足を踏み入れました。
入口のベルが鳴り響くと、それは普通のベル音とは異なり不気味に耳をつんざく音を空気に残しました。
店内は薄暗く、埃っぽい空気が漂っていました。
棚や床には無数の人形が所狭しと並んでおり、その人形たちのガラスの目が美鈴の一挙一動を追いかけているように見えました。

そんな中、美鈴の目に一体の人形が留まりました。
それは棚の隅に置かれた大きなアンティーク人形でした。
美しく整った顔に鋭い青い瞳、そして時代を感じさせる豪華なドレスをまとっていました。
しかし、その美しさにはどこか不快なものがあり、同時に彼女はその人形から目を離せなくなっていました。

「それをお求めかい?」突然、店の奥から声が響きました。

振り向くと、そこには痩せた老人が立っていました。
深い皺が刻まれた顔に鋭い目つきをしたその店主は薄気味悪い微笑みを浮かべていました。

「いえ…ただ見ているだけです」美鈴はそう答えました。

「これは特別な人形だよ。とても古く、いくつもの伝説がある」店主は言いました。

「伝説?」美鈴は眉をひそめました。

「この人形には、昔亡くなった若い娘の魂が宿っていると言われているのさ。亡くなる直前にこの人形にすべてを託したとね。そして今も、彼女の魂はこの人形の中に囚われている」

「そんなのただの迷信でしょ。ただの古い人形じゃないですか」美鈴は店主の話を鼻で笑いました。

「そうかもしれないね。だが、一つだけ警告しておこう。一度手に入れたらもう手放すことはできない」店主は言葉を続けました。

美鈴はその忠告を気にも留めず、その人形を購入しました。
自宅に戻ると美鈴は早速その人形を棚に飾りました。
しかし、家の中に妙な違和感を感じ始めたのはその夜のことでした。
どこからともなく家具が軋む音がしたり、壁の中からかすかな囁き声が聞こえたり、冷たい風が家中を通り抜けるような感覚がありました。

さらに奇妙なことに気づきました。
人形の目がまるで動いているように見えるのでした。
彼女が視線を外した瞬間、次に目を向けると人形が彼女の方をじっと見つめているのを感じました。

恐怖を覚えた美鈴はその人形を捨てようとしました。
しかし、どんな方法を使っても人形は必ず家に戻ってきました。
ゴミに出しても、燃やしても、次の日には棚の同じ場所に戻っていました。

美鈴の悪夢は続きました。
夜になると人形がベッドの足元に立って彼女を見つめている夢を見ました。
そしてある夜、悪夢ではなく現実の恐怖が訪れました。
深夜に目を覚ますと、人形が彼女のベッド脇に座っておりその冷たい磁器の指が彼女の頬をそっと撫でていました。

耐えられなくなった美鈴は再び森のおもちゃ屋に人形を返そうとしました。
しかし、店にたどり着いたときそこには燃え尽きた廃墟が残っているだけでした。
呆然とする美鈴はそれでもなお人形を返そうと試みましたが、彼女の手から離れることはありませんでした。

その夜、美鈴は家で再び人形とともに過ごしました。
寝室に戻り目を閉じようとしたとき、部屋が冷たい空気に包まれたのを感じました。
そして目を開けると人形がベッドの足元に立ってこちらをじっと見つめていました。
その瞳には底知れぬ暗さと悪意が満ちていました。

翌朝、家は静まり返っていました。
美鈴の姿はどこにもなく、人形だけが揺れるロッキングチェアに腰掛けていました。

その青い瞳はかすかに微笑んでいるようでした。



終わりました


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