練武知真 第29話『時間の概念を変える為の武術』
スピード・・・
武術は勿論のこと、多くのスポーツで重視される要素です。
誰よりも速く走り、
誰よりも速く投げ、
誰よりも速く動く。
武術や格闘技の世界でも、
速いパンチを放ち、
速いキックを繰り出し、
速い投げ技を極める。
その純粋な速さは、勝負の結果に大きく影響します。
私の教える伝統武術「形意拳」や「八卦掌」においても『速さ』は重要視します。
しかし・・・
少し『速さ』の概念が異なるかも知れません。
武術に必要な『速さ』とは、スピード測定器で計れるものとは異なるからです。
形意拳を例にとってお話しましょう。
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形意拳の基本的な練習は、前進しながら行われます。
一歩踏み出し、一打を放つ。
踏み込んだ力を掌や拳に伝える「発勁(はっけい)」を放ちながら進んでゆきます。
フットワークと打撃が融合しているのです。
さらに高度になると、打撃の一瞬前に崩しを掛けます。
腕の微細な円形のムーブにより崩しと打撃を連続させ、結果、「崩して打つ」を瞬間的に行います。
つまり、形意拳では
◯間合いを詰める
◯崩しを掛ける
◯打つ
という3つの要素を一瞬の間に行っているのです。
このように武術でいう『速さ』とは戦いにおける総合的な速さであり、
単位時間当たりに、どれだけの異なる作業を行えるかで表されるものです。
他者が1つの事を行う間に、
自分は3つ、4つの事を行う感覚です。
言うなれば、
『時間の概念を変える』
という事です。
この概念は、時間の有効利用に繋がるのと同時に、
物事を俯瞰で捉えることにも繋がります。
何かの目的に向かって努力する時、その目的を叶える為に必要な要素は複数あるはずです。
一つのものに執着し過ぎないで、目的までの道のりを俯瞰して、複数の要素を同時進行させてゆく。
その結果、目的に比較的早く到達する。
かくいう私もこうした思考は本来苦手で、一つの物事に没頭したい性質なのですが、
俯瞰とマルチタスクの必要性を武術は教えてくれています。
・・・頑張ります。
2024年9月4日 小幡 良祐
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