練武知真第32話 『長所を伸ばして、短所を補う為の武術』
自分の理想とする完璧な人間を目指す。
人は「なりたい自分」を目指して努力します。
その努力は、必ず現状より高みへと自らを導いてくれます。
努力はその方向性さえ間違わなければ、決して裏切ることはありません。
ただ、どれほどの年月をかけても
当初に描いていた「完璧な理想像」になることはないように思います。
これはネガティブな話ではありません。
欠点のない人間は存在しないということです。
パーフェクトな理想に向かって努力するなかで、知ることになります。
自分という人間の凸凹を。
こういった事は得意だけれど、ああいった事はどうしても苦手であると。
それは武術でも同じです。
武術は身体を使うので、そのことをとてもよく実感する事ができます。
体格(骨格・身長など)や体質(筋肉質・痩せ気味・太り気味など)が得手不得手を明確に生み出します。
また武術は「他者と争う」という性質上、性格(勝気、弱気、暢気など)や精神状態(イライラしやすい、落ち込みやすい、興奮しやすい、無気力など)についても、それらが技や動作に大きな影響を与えます。
ではどういう方向性で修行してゆけば良いのか・・・。
それにはまず、自分の凸凹を把握する必要があります。
自分の性格や体格を客観的に観察して、自分の特徴を把握するのです。
その特徴は「個性」といっても良いでしょう。
武術においては最終的には「自分の個性」にマッチングした戦術スタイルが、その人物にとっての「最強のスタイル」になります。
とは言え、あまりにも欠点だらけではやはり強くなることはできません。
自分の凹・・・つまり短所はある程度改善する必要があります。
体に力みが入りすぎる人は、「勁」と呼ばれるパワーの伝達が上手くいかなくなるので、力みの除去「放鬆(ファンスン)」をよく練る必要があります。
体幹が弱い人は、全身を統合することができない為、強い力を発揮できず、また移動力も貧弱になります。
その為、低い姿勢で鍛錬したり、対練(対人訓練)や武器術訓練によって体幹強化を図らなければなりません。
このように最低限修正しなければならない短所については、多少きつくても克服しなければならないのです。
ただ「短所」を補うことだけに集中していては、強くはなれません。
それは欠点を補ったにすぎず、他者に比べて有利な点がないからです。
強くなるには、「短所」を補うと同時に「長所」を伸ばし、
他者に対する強い優位性を持つ必要があるのです。
大柄で素早い動きの苦手な人が、必要以上の俊敏性を求めることには無理があり、下手をすればトレーニング中に脚や腰を故障します。
それよりも突進力と強烈な発勁(特殊な打撃方法)、そして強固な防御力を練り上げる事にエネルギーを注いだ方が効果的です。
小柄で細身で力強い動作が苦手な人が、必要以上の筋力をつけることに心血を注ぐことは非効率的であり、鍛錬効果としては低くなりがちです。
それよりも敵の攻撃に対する反射神経とフットワーク、そして「化勁」という相手の攻撃を受け流し、相手の体勢を崩してしまう技術を磨いた方が効率的に強さを発揮できます。
勿論、上記はあくまで例であり、例外的に大柄で俊敏な人や、小柄でパワフルな人もいます。
そして何より、短所は放っておけば良いという訳ではありません。
ある程度のレベルまでは克服しておく必要はあります。
大切なのは、「短所」ばかりに目を向けず、「長所」に目を向けた修行をしなければならないという事です。
そうする事によって、効果的で味わい深い『自分の武』へと至ることができるのです。
人間には凸凹があります。
それは「個性」でもあります。
自分の凸凹、「個性」を認めてあげるところから始めると、
何を補って、何を伸ばせば良いのか・・・
が明確になり、効率的な努力をすることができます。
他者の特定のスペックと単純に比較して一喜一憂する必要はありません。
他者にはない個性を伸ばしてそれで勝負してゆけば良いのです。
自分の個性を愛すること。
個性を活かして人生を歩んでゆくこと。
それが大事であると私は思うのです。
2024年9月25日 小幡 良祐
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