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練武知真 第22話『伝えることを学ぶ為の武術』

中国武術を知る者が必ず一度は耳にしたことがある『勁(けい)』。

 

力は流れるものだという思想に基づいて、大地からの反動力を体内を通して、拳や掌へと伝えます。

 

各関節の力みを抜いて、チカラを次へ、その次へと伝えてゆくのです。

 

どこか1つの関節が力んで動かないでいると、

チカラはその先へとは送り出されません。

 

また、一つの関節があまり大きく動き過ぎると、

伝達してきたチカラはそこで消費され、次へと伝わりません。

 

関節の動きがある程度で止まることによって、『勁』というエネルギーは次へと伝わります。

つまり、関節は一つ前の関節からやって来た『勁』を、

受ける為に緩み、

次の関節へと伝える為に動き、止まります。

これを一瞬にして行っているのです。

しかも足裏から拳掌へ至る各所において。

 

こう聞くと、『発勁(中国武術で用いられる特殊な発力法)』は一朝一夕ではできない事がお分かりいただけるかと思います。

勁道または勁路と呼ばれる『勁』のルート上の各所で、『勁』の受け渡しをしているのです。

 

さらに自分の体内でのみ完結している訳にはゆきません。

『勁』は相手に与えて初めて武術的な意義を持つのです。

拳であれば、拳面から『勁』を飛ばすイメージ、

掌であれば、掌面から『勁』を飛ばすイメージ

をもって訓練します。

そうすることによって、相手に『勁』を与える最終的な関節稼働を行えるようになります。

拳打であれば拳が自然に締まります。

掌打であれば手首が自然に甲側に曲がります。

 

さらに樹木などを打つことによって、自分以外の物体へ『勁』を伝える感覚訓練を行ってゆきます。

こうして『勁』が完成してゆくのです。

 

年月を掛けて『勁』を練り上げていると、無駄なモーションが除去され、その伝達効率が格段にアップし、研ぎ澄まされ、

外から見ているとそれほど動いているように見えないのにも関わらず、強い打撃を発することができるようになります。

この段階を形意拳では『暗勁』と呼びます。

力強さが外に現れなくなるからです。

 

単に拳という物体を対象にぶつけるのではなく、

チカラを伝えるという『勁』の概念。

 

これは一種の理性的なコミュニケーションにも思えます。

感情に任せた動きではなく、

闘争心を持ちながらも、

調整された動き。

 

私はこの『勁』の世界をとても面白く感じるのです。

先程「完成」と書きましたが、『勁』はどこまでも進化します。

武術としてのフィジカルな意味は勿論ですが、

他人とのコミュニケーションにおいて「思いを伝える」という感覚ともリンクしてきます。

 

単に自分の考えだけを乱暴に相手に叩きつけるのではなく、

言いたいことがあっても何も言わずにいるのではなく、

機をみて、

自分の心の奥深くから来る思いを上手に相手に「伝える」感性。

 

自分の身体から離れて相手に伝わる『勁』。

自分の身体から離れて相手に伝わる『思い』。

 

身体が止まるからこそ、見えないものが相手に届く。

 

武術は他者との対立を前提とした文化ですが、

他者と繋がることへと発展してゆくチカラも秘めているのです。

 

 

 

2024年7月10日 小幡 良祐

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