練武知真第33話 『心と体の繋がりを学ぶ為の武術』
中国伝統武術である【形意拳】や【八卦掌】は、「内家拳(ないかけん)」と呼ばれるカテゴリーに分類されます。
内家拳とは、「内功」と呼ばれる外見上からは認識されにくい、「繊細な身体操作」や「気の運用」、「意識の活用」などの鍛練に重きを置いた門派の総称。
その重要な要領の一つに『内三合(ないさんごう)』というものがあります。
【心と意の合】
【意と気の合】
【気と力の合】
がそれです。
【心】とは、感情や心理状態のこと。
【意】とは、イメージや集中力などの意識操作のこと。
【気】とは、生命エネルギーのようなもの。
【力】とは、物理的な運動のこと。
例を挙げると・・・
攻防時において、
①「これは打つチャンス!」と感じるのが【心】。
②瞬時に殴るというセレクトをして、拳を意識するのが【意】。
③意識すると同時に拳に集まる【気】。
④状況に応じた拳技を行うのが【力】
これら①~④が一瞬のうちに行われます。
『心が意を導き、意が気を導き、気が力を導く』と昔から言われています。
武術の世界でよく耳にする「反射で自然に動く」というのにも、実はちゃんと瞬間的な心の動きはあるのです。
何かしらの認識が無ければ、体は正常に動きません。
【心】が動いて、【意識】が動いて、【体】が動くのです。
意表をついた攻撃を受けて「あっ!」と思う。
これもまた「心の動き」なのです。
たとえそれが一瞬であっても。
武術で言うところの『心が動いて体が動く』というのは、
日常的な意味での「いちいち考えてから動く」というのとは少し違います。
武術においては『心の動き』について何種類もの意味があるのです。
【站椿功(特定の姿勢をとり続ける鍛錬法)】によって姿勢を整え、体の感覚を養い、天地との繋がりを感じる場合は、「無心」という状態を長く保ちます。
何も心に浮かべない事もまた「心の動き」の一つです。
そうする事によって、気が巡りやすくなり、また体の感性が高まります。
頭を思考から解放し、安定化を図る効果もあります。
また戦闘状況においては、【闘争心】を発揮して、反応性を高め、技のスピードや威力を高めます。
この場合、戦闘継続中はこの心の状態を維持します。
そして、攻防中の一瞬一瞬の技のやり取りにも「心の動き」は存在します。
例えば、
先に述べたように、意表をついた攻撃を受けた際に「あっ!」と思う・・・
この瞬間的な『心の動き』に対して、
可能な限り、素早くかつ正確に体が動く事を武術では求められます。
敵の攻撃を受け「あっ!」と思ったら、もうその敵が倒れている・・・
自分自身、どんな技を出したのか覚えていない・・・
形意拳にはそのような話が伝わっています。
つまりはそれだけの瞬間のうちに、心が動き、体が動いたということになります。
形意拳ではこの境地を目指すべく、黙々と各技の反復練習を行うのです。
武術ではあらゆる場面において、【心と体が繋がっている】ことを認識することができるのです。
『心と体は一つである』
その本来あるべき心身の状態を、ハイレベルに追求するのが武術です。
自分の心を見つめ、理解し、
心に即した行動をする。
実にシンプルな事ではありますが、日常の社会生活においてはなかなか簡単ではない。
勿論、何でも思うがままに好きにすれば良いという訳ではありません。
そこに、頭=知性・理性を介入させなければ、社会生活を営むことはできません。
ただ頭で考え過ぎて、
思考の迷宮に入り込んでしまったら・・・
一旦、思考から離れ、
自分の本心と繋がってみると良いかも知れません。
そこには自分の本心・・・
本当の望み、
本当の想い、
本来の自分がいるからです。
自分の体を心配することはあっても、
自分の心を見つめ直すことはあまりしない風潮がありますが、心と体は繋がっています。
「自分の心を知る」ことは、生きる上でとても重要なことだと思っています。
2024年10月2日 小幡 良祐
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