社会課題に向き合う企業の「社会的インパクト」 測定指標やロードマップで「見える化」し支援 紺野貴嗣さん〈前編〉
6/22放送は、トークンエクスプレス株式会社 代表、紺野貴嗣さんの前編でした。
さまざまな社会課題の解決の担い手として企業への期待が高まる中、同社は《企業がビジネスを通じて人々に変化を与え、社会全体をより良く変えていき「社会的インパクト」を生み出す》ためのコンサルティングを行っています。
顧客とのビジョンの共有、社会的インパクトを測定する指標の策定、それに向かってのロードマップづくりといった一連の流れや、コンサルティングに関する具体的事例などを前編でうかがいました。
「社会的なインパクト」で世界のシステムを変えていく
私が代表を務めるトークンエクスプレス株式会社は、企業が社会にもたらす「社会的なインパクト」に関するコンサルティングなどを提供する会社です。「社会的なインパクト」とは少し聞きなれない言葉だと思うので、このニッポン放送さんを例にあげて説明してみようと思います。
ニッポン放送さんには日本一有名なラジオ番組「オールナイトニッポン」がありますが、今から20数年前、私も深夜に試験勉強をしながら聴かせていただいていました。親も近所も寝静まってシーンとする中、一人で勉強していると孤独感があったのですが、このラジオを聴くことでエネルギーをもらって試験勉強に臨むことができました。翌日きちんと試験もクリアできて、学校でも自分に自信を持って活発に活動できる。オールナイトニッポンを通じて、こういった変化が自分に起こっていたと思うのです。
実際にニッポン放送さんがそれを狙っていたかどうかはわかりませんが、このように企業がビジネスを通じて人々に変化を与え、社会全体をより良く変えていこうとするのが「社会的インパクト」と言われるものです。弊社は、この「社会的インパクト」の創出に真剣に取り組む企業をコンサルティングで支援しています。
「社会的インパクト」の見える化=数値化はもちろん簡単ではありませんが、その企業がどういう社会変化を目指しているかを丁寧にお聞きして、それをしっかりと具体化していくと取るべき指標が自然と見えてくるようになります。
もう一つわかりやすい例としてよくご紹介するのが、民泊サービスで有名なAirbnb(エアービーアンドビー)という会社です。弊社のクライアントではないのですが、サンフランシスコに拠点を置き、空き部屋を貸したい人と借りたい旅行者とを仲介するWebサービスを主として展開しています。
この会社の魅力は「全ての人がどこであっても居場所があると感じられる世界をつくる」という社会的なビジョンを掲げてサービスを行っているところです。そして、このサービスが社会に普及した結果、人々の生活や旅行のあり方に大きな変化がもたらされました。同社が現れたことで、それ以前にはまったく考えられないような社会変化が起こった、という意味で「社会的インパクト」の良い例だと思っています。
Airbnbは、自社のサービスがもたらす社会的インパクトを測定するため、創業期から2つの指標を立てていました。一つは、宿泊体験の予約数、もう一つが予約された金額の総額でした。この二つの究極の指標を掲げた背景には、同社が示したビジョンの主語、つまり「旅行者」あるいは「部屋を借りる人」の中に、「見知らぬ人の部屋を借りたい」と思う人が本当にたくさん存在しないと成り立ちません。と同時に「見知らぬ人に部屋を貸したい」と思う人もたくさんいなければならない。しかも、旅行者はいろんなところに行きたいと思うので、世界中に「部屋を貸したい人」が広まっていなければならないわけです。
こういったポイントがすべて重なりあうと、最後に両者がマッチングするという現象が起こりますが、その背景には、どのような変化が積み重なってどこに至ればこの指標に結実するというロジックがあります。それに従って、この二つのビジョンに紐づく指標を立てているという好例です。
実際にAirbnbが行っていることは、ウェブサイトを用意して、部屋を借りたい人と貸したい人を集めて掲載しているだけなのですが、最終的に両者がしっかりマッチングすることで社会に変化が起きたことをアウトカムに設定していて、そこを測る指標を立てたという点でとても面白いと思っています。
さらにAirbnbがもたらした社会的インパクトの意義として重要なポイントは、「どこへいっても居場所がない」と感じる人々が増えてきた昨今、この社会課題の対極ともいえる「どこであっても居場所があると感じられる世界をつくる」ことをビジョンとして掲げた点ではないでしょうか。つまり、Airbnbを利用することで人々の行動に変化が起こり、現状の延長線上にはないものが生み出されて世界のあり方が変わる。その「現状との差分」が目に見えるようにビジョンを立てた点がポイントだと思います。
クライアントと共に、社会の変化を測る「指標」をつくる
弊社のクライアントさんの中には、ビジョンがまだ漠然としていたり抽象的だったりする段階で相談にこられる会社も多いです。その場合は創業者か経営者、もしくはチームのリーダーなどに、今言葉で説明されている抽象的なイメージの芯に何があるのかを丁寧に聞き取っていく必要があります。その芯の部分を汲み取ったうえで、クライアントが目指す社会像に至るさまざまな社会の変化を具体的に考え、その変化をどういった指標で測れるのかを一緒に考えていくわけです。
ここで重要なのが、クライアントからの情報の聞き取りです。ウェブなど外部に出ている情報ももちろん見るのですが、聞き方をブラッシュアップさせる訓練をして、キーとなる質問を行うことで、あまりコミュニケーションコストをかけずにコアな部分を聞きだすようにしています。
現在お手伝いさせていただいているクライアントの一つに、パナソニック株式会社エレクトリックワークス社さんがあります。この会社は、異業種の企業や自治体、大学、個人などと一緒に社会課題解決ビジネスを生み出す共創型コミュニティ「everiwa(エブリワ)」というプラットフォームを展開しています。彼らが大事にしているのは「このコミュニティに参加すると儲かる」ということではありません。「こういう社会変化を目指します」という指標を明確にすることで一緒にやりたい人たちが現れるという点に期待をいただいています。
事業によっては10個ほど課題となるテーマがあるのですが、既に展開されている事業として、電気自動車の普及をテーマにしたビジネスがあります。実は、電気自動車を普及させるための大きな課題は「給電」なのです。つまり、充電する設備をいろいろな場所に密度高く設置しなければならないのですが、その情報をきちんと集約して電気自動車を使う人が充電しやすいシステムをアプリケーションとして提供するサービスを行っています。私たちはこのサービスがもたらす社会的インパクトを測る指標づくりをお手伝いさせていただきました。
このサービスは、モデル事業として千葉県市川市と提携して重点的にリソースを投下し、充電設備を拡げていく活動を行っています。うまくいけばもっと大きなエリアに拡げていくことになりそうで、そのためにはもっと多くの仲間を呼び集めなければいけませんし、さらなるインパクトの指標も立てなければならないと思っています。それを達成するためには資金も必要になりますし、そういったコーディネートの役割も期待されていると思っています。
行政にも「社会的なインパクト」をー世田谷区とのコラボレーション
行政との連携では、もうひとつ東京都世田谷区の産業政策において成果を測る指標づくりに参画した例をご紹介します。
(https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/shigoto/009/d00209039_d/fil/logicmodel.pdf)
企業の場合は、独自の世界観でどんどん指標を作っていくことが可能ですが、自治体の場合はいろいろな方のご意見を視野にいれなければなりません。そのため、この指標を作る際には17名の委員の方々の議論を聞く必要がありました。
もともと「社会的インパクト」という言葉は、行政がいかに少ないリソースで大きな社会の変化を生み出すか、という考え方からきています。それを思うと、自治体が「社会的インパクト」を前面に出した政策を打ち出すというのは原点回帰というか、改めて見直すようになったのだろうと感じましたね。
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