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疾病・障害福祉窓口での話②

(行政職からの目線のお話です。)
20代半ば頃に働いていた、中規模の都市の、疾病・障害福祉窓口のちょっとした日常を参考にした話を幾つか。

本件はフィクションであり、特定の個人に関わる事例ではありません。 (似たような件が大量にあります。)
制度自体がちょこちょこ変わる性質上、あえて特定の制度名は出しません。
読みやすさを重視するフィクションであるため、一人称を「私」や「僕」にしています。
あとがきは、筆者個人の感想です。

来年なんて誰にも分からない話

5月のある日

障害のあるご本人が窓口に来た。癌の影響で障害が残ったとのことだった。

利用したい制度のことで説明、所得制限をクリアしているか確認したところ、制限額を超過していた。

就労状況を聞き取ったところ、現在は無職で去年の12月末に退職。所得制限をクリア出来る見込みがあるのは来年の夏以降。まだあと1年ちょっと先になる
…と、説明した。

お客様は「障害が残った箇所以外にも癌の転移があり、来年どころか半年も余命持たないから、そんな先まで自分は居ないだろうよ」と、強い口調で答えた。

私は、しまった、と思った。
「失礼いたしました」としか言えなかった。

それ以上私が何か下手なことを言っても、落ち込ませるだけだろう。



法律に基づく制度上の事実を伝えるのは、とても繊細な仕事だ。条文に書かれていることは、必要な言葉の何万分の一かに過ぎないのだ。

言い訳にしかならないが、持参した書類の中に診断書がある場合は必ず目を通してから話す。

行政職が読んでも余命が少ないことが明らかな文面があるのか、医療について専門では無いなりに気をつけているつもりだった。

寝たきりや入院中ではなくて、本人が来ており油断したのだと思う。ぱっと見で判断できないことはたくさんある。



その方は、ちょうど半年後くらいに亡くなり、遠方の親族が死亡手続きに来た。

残り少ない時間だったのに、暗い気持ちにさせてしまったな…と思った。
それなら、何か出来るか?といえば、何も出来なかったかもしれないけど、とにかくそう思った。



また別の日。
ホームページで見た制度について、電話で問い合わせが来た。

電話口の人は、患者さんご本人。
聞けば、全身に転移した末期癌で体のあちこちに麻痺が出ており、在宅で緩和ケアのため、そう長くはないだろうとのこと。

使いたいという制度が申請から利用開始まで2ヶ月くらいかかることを内心恐る恐る伝えたところ、

「構わない。残り少ない人生を楽しく過ごしたいし、そのためには使えるものを使いたいんだ。」と言って、笑ってた。

その方は、制度を申請し、利用開始時点では存命だったが、最初の電話から数ヶ月程度で亡くなった。


強い口調だったお客様も、笑ってたお客様も、もしかしたら両方とも、心の中で泣いてたかもしれない。

人間と人間との間の話なので、完璧な対応は難しいのかもしれないが、相手への敬意を持って最適解に近づけることはできる、と信じてやるほか無い。

(終)


あとがき

本当のところ、自分自身の半年後や来年のことすら、分かるわけもない。

ただ、制度上で間違えたことは言えない都合上、致し方ない。法律に縛られるとは、こういうことだ。


所得制限について補足すると、
今年の所得制限は、前年(時期によっては前々年)の、1~12月の収入(確定申告した額)を基にした所得から諸控除を差し引いて計算している。

例えば、2024年2月時点で考えると、2023年分の確定申告の処理が課税部門の方で6月頃まで終わっていないので、2022年1~12月の収入が所得制限に引っかかっているかどうか審査しないといけない。

申請するタイミングによっては実に1年以上前の収入が制限に引っかかってるかを見られるので、バリバリ働いていて、急に病に倒れて余命いくばくも無い人からすると、不本意そのものだと思っている。
今まで散々税金払ったのに、この仕打ちか?と。

末端の役人1人の努力でどうにもならずに歯痒い。
政府には所得制限について、根本的に撤廃してほしいと、個人的には思っている。

事故や病気は、誰でもいつそうなるか分からないし、努力だけで100%避けるのなんて無理だから、誰にとっても自分事だ。

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