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小説『ワンルーム』①

片道1時間半。

新幹線はガタゴト揺れることもなく、まるで瞬間移動したかのような時間の流れすら感じさせない。

夢に見た街、東京だった。

父さんには「東京なんか行ったら田舎もんはいじめられる」と何度も言われた。しかし、そんなもんへっちゃらだと思った。受験鬱に耐えながら毎日10時間の勉強を重ね、ついに夢叶った。

西武新宿駅にたどり着くまで、新宿で2時間彷徨った。最終的に新宿アルタの店員に半笑いで道案内され、やっと電車で一息つくことができた。

「『各停』しか止まらない駅だ」と不動産屋の社会人二年目だという若いお兄ちゃんが話していた。社会人という響きだけでだいぶ大人に見えたが、父ちゃんが「お前」呼びで偉そうに話しかけているのが気に入らなかった。

一駅一駅進んでいくごとに胸の鼓動が高まる。初めて乗る電車は初めて来るディズニーランドと同じだ。しかし、人のいない車内は期待とは裏腹の絶望すら感じさせる。

6駅目。それが私の今日から住む街だ。

商店街には店が多く立ち並び、移動せずとも生活が完結するというのがこの街を選んだ理由だった。

商店街を抜け出ると住宅街が立ち並ぶ。道中では猫がお出迎えだ。

木造2階建てアパート。それが今日からの住処だった。

六畳一間ワンルーム。ユニットバス、ロフト付き。父ちゃんと二人で内見し、3件目に見たのがこの物件だった。ベージュの古風な外見、こじんまりとしていて小人が住んでいるようなおとぎ話に出てくる建物に見えた。「ここがいい」そう言った時父ちゃんは元々のへの字眉毛が縦になるくらい顔をしかめた。「ユニットバスはやめた方がいい」「家賃もっと出してやるから広い部屋にしな」そんな父ちゃんのアドバイスにはちっとも耳を貸さなかった。

人生初めての一人暮らし。中に入ると茶色のピカピカのフローリングがお出迎えだ。仰向けに寝転び、手の届かない天井を見上げる。「ピンポーン」私の家具のお出ましだ。

大学生の三人に一人はここで家具を買い揃えるだろう大型家具量販店で揃えたベッド、棚、ハンガーも。全て白色で揃えた。
家具を置くと一気に部屋は狭くなった。だが、私は自分だけの秘密基地を手に入れたような充足感に満たされていた。だが、もう夜だ。食料を買いに行かないと。

商店街には、焼き鳥、タコス、コロッケなど様々な色とにおいが混ざり合っている。迷いに迷って買ったのは豚丼500円。東京最初の晩餐を10分で終え、私は眠りに落ちた。

4月は流れるような日々だった。大学に行くと、叩き売りのスーパーのような新歓コンパの勧誘に揉まれた。人の良さそうな先輩のいたテニスサークルに顔を出したらビールの洗礼にあった。ビールを一杯飲むとすっかり眠くなってしまい、起きたのは0時ぴったり。ダッシュでホームまで向かう時、階段でハイヒールのヒールが折れてしまった。それを拾う間もなく終電に飛び乗った。

片足が義足になってしまったかのような感覚で、足の長さがバラバラな私は惨めな気持ちで家まで続く道を歩いていた。

猫がいた。しゃがんで、手を出して近づこうとすると逃げられた。大学に入ったらすぐ出会いがあるもんだと思っていたけど、男の子の隣には可愛い垢抜けた女の子は既にいた。

アパートに、ピンク色の自転車が横付けされていた。私の隣の部屋の人の自転車だ。

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