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動物のセルフメディケーションから学ぶ「食べる薬」

動物たちは「自然の先生」

オーストラリアに住むと、カンガルーやポッサム、多種多彩な鳥たち、毒蛇や大トカゲなど、日本では見かけないユニークな動物たちが、ごく自然に毎日の暮らしに登場するようになります。

駅のホームに集うカカトゥたち

庭の木立の高いところや屋根裏に、鳥やポッサムが住み着いていることも。
「一人暮らしだけどひとりじゃない」はあるあるなんですよ。

自分もしょっちゅう森に行っては、鳥の巣や動物のフン、足跡を見て、彼らのすみかや暮らしぶりを、あれこれ想像して楽しんでいました。

さて、自然界で生きる動物たちは、自分の体調を見極め、必要な植物や物質を本能的に選び取ります。

その行動を注意深く観察することで、私たち人間は「食べる薬」の知識を得てきました。

自然界には毒も多いけれど、それを上手に避けたり、逆に活用したりする動物の知恵に学ぶことで、安全に生きる術が人類に伝わったのだと思います。

ギリシャ医学のヒポクラテスやアリストテレスは、このような動物たちの振る舞いを観察し記録をとり、薬草への利用をするようになりました。動物のセルフメディケーションは人間の西洋医学と医術の発展に、大きな影響を及ぼしたのです。

今回は、人間が「医食同源」ができるようになる過程で観察して学んだ、動物たちの振る舞いについて書いてみたいと思います。

記事に出てくる植物等は、最後にマテリアメディカで作用などを詳しくご覧いただけますので、目次を利用して飛んでくださいね。

自然療法と自然界の揺るぎない深いつながりを感じるきっかけになれば嬉しいです。

記事の感想、いいね👍でぜひ知らせていただけたら本当に感謝です。

動物が教える薬効植物の秘密

冬眠後は水芭蕉を食べてお腹を整えます

1. クマと熊笹(Sasa veitchii)

クマは、冬眠前に大量の熊笹をむさぼるように食べます。そして松脂も。冬眠中はトイレに行かないので、腸にうんちが座ったままですが、抗菌作用のある松脂が肛門を塞いでくれるんです。そして、熊笹には腸内環境を整え、血液をきれいにしてくれる成分が、含まれているので、安心して長く眠れるわけです。古代の山人たちはヒグマを見てその効用を知り、熊笹を薬草として使い始めたと言われています。私もしょっちゅうお茶でいただいています。

現代のハーバルメディスンではタンジーを使うことはなく、
ラズベリーリーフのお茶が人気あります。
でも使用前は必ず専門家に相談しましょう。

2.タンザニアのゾウとタンジー(Tarchonanthus camphoratus

出産前のゾウがタンジーを食べる行動は、タンザニアの先住民族にも知られており、彼らの薬草利用に影響を与えています。この植物の成分が、母体と胎児にとって安全な出産を助けると言われています。

3. イグアナとカオリナイト(Kaolinite)

イグアナは毒のある植物を食べたとき、カオリナイトという粘土を摂取します。この粘土には解毒作用と豊富なミネラルがあり、イグアナの健康を守っています。人間もはカオリナイトを利用してミネラル補給をしたり胃腸を整えた歴史があります。イグアナだけでなく、オウムもモンモリオナイトという粘土を食べてディトックスをするそうです。冬眠明けの熊といい、野生動物はディトックスの大切さをよくわかっているのかもしれません。

4. チンパンジーとアスピリアの葉 (Aspilia spp.)

オランウータンはいちじく、ゴリラはセラストラスと、
居住地域に原生する薬効作用のある植物を、ちゃんと探し出す。
賢いですね🧐

アフリカの野生のチンパンジーは、お腹に虫が入って腹痛を起こしたとき、キク科の植物アスピリアの葉を噛んで回復します。葉には寄生虫を排出してくれる薬効成分が含まれています。このことから、付近の先住民はこの植物の根や樹皮を民間療法に応用するようになりました。

5. 鳥とグアバ (Psidium guajava)

南米の鳥たちのなかには、傷を負うとグアバの果実や葉を食べる行動が見られるそうです。グアバに含まれる抗菌成分と抗酸化物質が、彼らの自然治癒力を支えていると考えられています。実にはビタミンCが豊富に含まれ、葉には血糖をコントロールする作用があります。インスリン耐性が高まるとミトコンドリアの活性を持続的に高く保つことが可能になり、長く飛ぶことができるわけです。ちなみに南米のリスもグアバが大好きなんだそうです。

6. 黒クマとベリー類(Vaccinium spp.

北米の黒クマは冬眠前にブルーベリーやクランベリーなどを1日20時間約9キロも食べます。ベリー類はクマにとって高カロリーでビタミンが豊富な食料源。抗酸化作用も豊富、冬を越すための栄養バランスを調整できるのです。最近の懸念は、地球の気象変化により、ベリー類収穫のピークシーズンとクマたちの準備行動に”ずれ”が生じていること。十分にお腹を満たす前に冬眠しなければならなくなるクマもいるそうです。

7. リスとクルミ (Juglans spp.)

埋めた食糧の回収率は60%と高いのだそうです

記憶力抜群のリスが好んで食べるクルミには、オメガ-3脂肪酸と抗酸化物質が豊富に含まれています。研究によれば、オメガ-3脂肪酸は記憶力だけでなく認知機能を向上させる効果もあります。さらにリスのすごいところは、越冬前に穴を掘って貯蔵食料を埋めるときに、情報をグループ化して覚えやすくしていること。木の実の種類を判別できるので、種類ごとに分類して隠し場所を覚えていて、しっかり回収もできるのです。オメガ3のパワーはすごいですね。

8. イノシシとドクダミ(Houttuynia cordata)

イノシシがドクダミの葉を食べる行動は、抗菌作用と解毒作用を狙ったものと推測されています。日本の民間療法でもおなじみですよね。祖母が中耳炎の時に、母がドクダミを摘んで鍋で煮て彼女に湿布を作っていたのを思い出しました。耳下腺がぷっくり腫れていたのが、きれいに治った祖母は、とても嬉しそうでした。

9. カバとアロエ(Aloe vera)

カバが皮膚炎を起こした際にアロエの葉を食べたりその液を塗布する行動が観察されています。アロエの成分は炎症を抑え、皮膚の治癒を促進します。アロエは植物の中でもトップ10に入るぐらい研究されていると思います。
内服でも外用でもオールマイティーなハーブです。

10. レッサーフラミンゴとアルカリ性の藻(Spirulina spp.)

フラミンゴは塩湖でスピルリナを摂取し、鮮やかなピンク色の羽毛を保つだけでなく、抗酸化成分を体内に取り入れて健康を維持しています。このフラミンゴの生息地域に住むアフリカの先住民は、栄養豊富なスピルリナをタンパク源にしていた歴史があります。

11. アライグマとマシュマロ(Althaea officinalis

アライグマがマシュマロ植物の根を好んで掘り起こして食べる行動があり、これには消化器系を保護する効果があると言われています。今ではハーバリストの定番ハーブですが、消化器官を含む身体のあらゆる粘膜を保護してくれる素晴らしい植物です。

12. ヒツジとマツヨイグサ(Oenothera spp.)

乾燥地帯のヒツジはマツヨイグサを食べて皮膚や毛並みの健康を守っています。マツヨイグサは月見草とも言い、種子には保湿作用の高いγリノレン酸(GLA)が豊富に含まれています。また、ヒツジはアルカロイドなど毒性のある植物はすぐに学んで自然と避けるようになります。人は、羊が食べない草を特定することにより、毒性のある植物を学ぶことができたのですね。

動物たちの知恵を私たちの生活へ

詳細はIMSI 公式サイトへ

リスは冬に備えてクルミをせっせと埋めるんだそうですが、たまにどこに埋めたか忘れてしまうらしい。でも、忘れられたクルミがいつしか芽吹いて森の一部になり、さらなる生態系を作り上げてゆきます。

鳥がタネごと食べた果物は安全に長距離移動をし、フンとなって種を蒔く。森は拡大し、土壌の豊かな生態系が保たれます。
こうした自然の連鎖の中で、人間もまた恩恵を受けているのです。

私たちが食べる薬草や食材は鳥や動物ともシェアをしていますから、いろんな意味で汚染のない地球環境を維持しないとなあと思います。

今年の収穫に感謝しつつ、来年もまたその恵みを受けられるように願いたいものですね。

自然界との共生で成り立つ西洋薬草療法の活用法あれこれ、
動物たちも恩恵を受ける果物や木の実を自分の暮らしで実践する方法、
鳥や小動物にフレンドリーなオーストラリアのガーデンデザインなど、
来年120日開講のIMSIナチュロパシー講座で、深く解説してゆきますよ。

興味のある方はぜひご参加ください!

この記事に出てきた植物(と鉱物)のマテリアメディカ


1. クマザサ

  • 学名: Sasa veitchii

  • 一般名: 熊笹

  • 使用部位: 葉、新芽

  • 歴史的利用: 日本では胃腸の健康を保つためや、炎症を抑えるために使われてきた。

  • 作用: 抗菌作用、炎症を抑える作用、免疫の調整作用、体内の浄化作用

  • 適応症: 胃炎、消化不良、免疫力の低下、細菌感染

  • 注意点: 多量摂取すると胃腸に負担をかける可能性がある。


2. タンジー(薬用カンファーウッド)

  • 学名: Tarchonanthus camphoratus

  • 一般名: 薬用カンファーウッド

  • 使用部位: 葉、樹皮

  • 歴史的利用: アフリカで出産を促したり、虫除けや呼吸器の不調を和らげるために使われてきた。

  • 作用: 子宮を収縮させる作用、抗菌作用、炎症を抑える作用、リラックス効果

  • 適応症: 出産の補助、感染症予防、気道の炎症緩和

  • 注意点: 妊娠初期に使用するとリスクがあるため避けるべき。


3. カオリナイト(白粘土)

  • 学名: Kaolinite

  • 一般名: 白粘土

  • 使用部位: 粘土全体

  • 歴史的利用: 胃腸の不調を改善したり、体内の毒素を吸収するために使用されてきた。

  • 作用: 胃腸を保護する作用、毒素を吸着する作用、炎症を抑える作用

  • 適応症: 胃腸の不快感、食物中毒、寄生虫の排除

  • 注意点: 長期間の使用により、体内のミネラルバランスが乱れる可能性がある。


4. アスピリア

  • 学名: Aspilia spp.

  • 一般名: アスピリア

  • 使用部位: 葉

  • 歴史的利用: 寄生虫の排除や体内の解毒作用を期待して使用されてきた。

  • 作用: 寄生虫を排除する作用、抗菌作用、炎症を抑える作用

  • 適応症: 寄生虫感染、細菌感染、消化器系の炎症

  • 注意点: 長期間の使用は消化器に負担をかける可能性がある。


5. グアバ

  • 学名: Psidium guajava

  • 一般名: グアバ

  • 使用部位: 葉、果実

  • 歴史的利用: 消化を助けたり、感染症を予防したり、傷の治癒を促進するために使われてきた。

  • 作用: 抗菌作用、炎症を抑える作用、抗酸化作用

  • 適応症: 消化不良、傷の治癒促進、感染症の予防

  • 注意点: 果実の過剰摂取により便秘になる場合がある。


6. ベリー類

  • 学名: Vaccinium spp.

  • 一般名: ブルーベリー、クランベリーなど

  • 使用部位: 果実

  • 歴史的利用: 視力の改善や抗酸化作用を目的に食用として使われてきた。

  • 作用: 抗酸化作用、免疫を強化する作用、炎症を抑える作用

  • 適応症: 老化防止、視力低下の予防、尿路感染症

  • 注意点: 果糖の過剰摂取により体重増加のリスクがある。


7. クルミ

  • 学名: Juglans spp.

  • 一般名: クルミ

  • 使用部位: 種子、殻

  • 歴史的利用: 脳の健康を促進し、栄養補給として利用されてきた。

  • 作用: 神経保護作用、抗酸化作用、血管保護作用

  • 適応症: 認知機能低下の予防、心血管の健康維持、炎症軽減

  • 注意点: アレルギー反応を引き起こす場合があるため、初回摂取時には注意が必要。


8. ドクダミ

  • 学名: Houttuynia cordata

  • 一般名: ドクダミ

  • 使用部位: 葉、茎

  • 歴史的利用: 解毒作用や炎症緩和のために用いられる。

  • 作用: 抗菌作用、解毒作用、炎症を抑える作用

  • 適応症: 皮膚感染症、毒素の排出促進、消化器系の不調

  • 注意点: 大量摂取は腹痛や下痢を引き起こす場合がある。


9. アロエ

  • 学名: Aloe vera

  • 一般名: アロエ

  • 使用部位: 葉肉、ゲル

  • 歴史的利用: 傷の治癒促進や消化器系の健康維持に利用されてきた。

  • 作用: 抗炎症作用、保湿作用、腸内環境の改善

  • 適応症: 便秘、火傷、乾燥肌

  • 注意点: 妊娠中や授乳中の使用は避けることが推奨される。


10. アルカリ性の藻

  • 学名: Spirulina spp.

  • 一般名: スピルリナ

  • 使用部位: 全体

  • 歴史的利用: 栄養価の高い食材として広く使用され、エネルギー供給源としても利用されてきた。

  • 作用: 抗酸化作用、免疫力強化、デトックス作用

  • 適応症: 栄養不良、体内の毒素排出、免疫低下

  • 注意点: 一部の人では胃腸に軽い不調を引き起こすことがある。


11. マシュマロ

  • 学名: Althaea officinalis

  • 一般名: マシュマロウ

  • 使用部位: 根、葉

  • 歴史的利用: 喉や消化管の不快感を和らげるために使用されてきた。

  • 作用: 粘膜保護作用、鎮静作用、抗炎症作用

  • 適応症: 喉の痛み、胃の不調、乾燥肌

  • 注意点: 多量摂取により吸収障害を引き起こす可能性がある。


12. マツヨイグサ

  • 学名: Oenothera spp.

  • 一般名: マツヨイグサ

  • 使用部位: 種子(主に油)、花

  • 歴史的利用: ホルモンバランスの調整や肌トラブルの改善に利用されてきた。

  • 作用: 抗炎症作用、ホルモン調整作用、皮膚再生作用

  • 適応症: 月経前症候群(PMS)、アトピー性皮膚炎、ホルモン不調

  • 注意点: 妊娠中の使用は医師に相談することが望ましい。


このnoteでは、どなたにも日々役立てていただける食と健康に関する情報を提供していますが、医療専門家のアドバイスに代わるものではないことをご確認ください。効果や結果は個人差があるため、特定の健康問題については医師や専門家にご相談ください。情報は最新を心がけていますが、変更される場合もありますので、自己責任でご利用ください。

また、私のブログ記事を参考にしていただく際は、ぜひ出典を明記していただき、内容はそのまま正確にご使用ください。転載や複製をご希望の場合はご一報ください。どうぞよろしくお願いします。

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参考文献:https://www.researchgate.net/publication/333221055_The_origins_of_zoopharmacognosy_how_humans_learned_about_self-medication_from_animals


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