見出し画像

本と元彼

江國香織さんのエッセイを貸していた。別れてから返してもらった。

私はすっかり忘れていた。とても好きだった本なのに。

「とるにたらないものもの」という短編エッセイで、本当にとるにたらない、だけど、どこかで愛おしく、大事にしたくなるようなものものを一つ一つ丁寧に描いている。個人的には、小学生の日曜日を詰め込んだエッセイだと思っている。何も特別じゃないのに、毎日何を楽しもうかワクワクしていたような時間を思い出してしまう。

インターンが終わって帰国してから、耐えられなくなって、元彼に連絡して神保町で会うことにした。4月に会ったから、別れてから半年経ってからかな。

地下鉄の出口で開口一番に「これ返してなかった、遅くなってごめん」って渡された。忘れてた私も悪いけど、返してないけどどうすればいい?くらい聞いてくれればよかったのに。インターンに行くまでは私はこういうものが好きだったんだな、となんだか懐かしい気持ちになった。

私は、結構読書家だと思う。大学生になってからは年間100冊以上読破していることは、ささやかな誇りだ。趣味なんだから、誇ることはないんだけど。

私があまりに「今日読んだ本は〜」とか「この作家さんが〜」とかを話すから、流石に影響を受けて何冊か読んでいた。何を薦めたのかちゃんと覚えていないけど、沢木耕太郎の「深夜特急」は読んでいたな。久しぶりに会った時に、読み終わったのか聞いたら「とっくに読み終わってるよ」って笑っていた。

読書に関しては、自分が影響を与えた側だから、映画や旅行ほど大きな影響なく楽しむことができている。しかし、本がコンテンツである限り、大きな地雷を踏んでしまうこともある。

先日、唯川恵さんの「燃えつきるまで」を読んだ。

ストーリーとしては、多分よくある恋愛小説。なんだけど、自分のことかと思うほど、共感して、そして辛くなった。日比谷線の中でめちゃくちゃ泣いて、バイト始まるギリギリまでメンタル死んでいた。

主人公は31歳のバリキャリ。仕事を優先して5年間付き合った男性に振られるシーンから始まる。

結婚も考えていた相手から突然理由もわからず別れを告げられて混乱する主人公。しかも、しばらくも経たないうちに自分と似たバリキャリタイプの女性と交際を初めて、しかもデキ婚すると聞く。

もう、そのショックたるや。

主人公は徐々に精神的に追い詰められて、どんどん様子がおかしくなっていくので、その部分はぜひ読んで確かめてみてください。

この本にはいろんなディスカッションポイントがあると思うけど、まずはキャリアと恋愛・結婚ってなんで二択なんだろうね。別れた理由がこんな感じだったから、余計にそう思うのかな。私はバリキャリでもないし、結婚も真剣に検討するような年齢じゃないけど、とても共感できた。仕事頑張りたい時に、彼氏の存在が必要じゃないって思ってしまったけど、でも好きではある、みたいなバランスがうまく取れなかったな。初めてだったから仕方ないけど、その初めてで失った人が忘れられていないんだよなーとか自分と重ねてしまった。

それから、主人公の取り乱し方がものすごいインパクトがある。この描写が一番の見どころだと思う。みっともないくらいに、自分のことを嫌いになるくらい泣いて縋る主人公をみて、私はここまで行動できていたかな、と内省してみた。でも、そんなことをしたら、失望されるんじゃないか、彼が好きだった私から遠のくんじゃないか、と思って結局中途半端に電話したりしたな。好きだから諦める、なんてそんなにかっこいいことはできていない。ずっと小さな自尊心に縋っている。元彼には連絡しない。心の中であっちから連絡があることを期待しながら。連絡をする時には平気なふりをしている。なんなんだろう、これは。とにかく、この微妙な心理描写に脱帽&共感。(ちょっと私の語彙力が全体的に適当すぎてすみません。)

あとは、狂っていく主人公の様子を見て、正直自分はまだましかな、と思いました。31歳で結婚が差し迫った問題ではなかったし、5年も付き合っていなかったし、まだ別の人とやり直せそうな年齢だし、狂気じみた行動もしていない(はず)だし。自分より状態が酷い人を見ると自分はましだと思えます、本当に。そういう意味では、まだこのタイミングで良かったのかもしれない。

最後に、希望を持たせられた最後の一節を引用します。ただ、この部分の深みは通読しないと感じることは難しいと思うので、恋愛で苦しい人はぜひ読んでみてください(ただし、傷治ってきたなーってくらいのメンタルの時に)。

いつも耕一郎と一緒だった。いろんなところへ行き、新しい知り合いも数多くできた。毎日楽しかった。幸せだった。
決して間違えたのではない。出会うべき人にちゃんと出会い、恋すべき人にちゃんと恋をした。
たとえ別れてしまっても、出会わなかったことより確かな意味がある。あんなに耕一郎が好きだったことを覚えていよう。それだけはずっと忘れずにいよう。
顔を上げた時には、もうすっかり涙は乾いていた。
そんな自分も悪くないと、怜子は思った。

唯川恵「燃えつきるまで」 p.306


いいなと思ったら応援しよう!