見出し画像

【森高千里】レッツ・ゴォーゴォーツアー 札幌2日目 奇跡の55歳、本当の奇跡とは

おそらくここ最近のライブでは屈指であろう一体感を感じさせた北海道、ZeppSapporo2日目。横浜もそうだったが、一都市で2回、同じ会場で2日連続公演となる今回のツアーは、2日目の空気が抜群にいい。初日と楽日を街ごとに繰り返しているようなもので、初日は固唾をのむような心地よい緊張感、2日目はリラックスした中に「明日はもうない」という高揚感をはらんでどちらも見逃せないのだけれど、何十年来の知己であるかのような(ようなではなく、多くのファンにとってそれは事実なわけだが)、ホームグラウンドのようなリラックス感が2日目にはある。

さらに札幌では800人強という実に絶妙な規模感もあり、特にMCでは仕込まれていないくだけた「素」の発言、表情がたびたび見られ、それが客席、ステージ両方の空気を温め、歌唱、演奏に逆照射されるというまさに理想の展開。ライブハウスとはいえ、キャパシティ1000人を超えるとホールツアーのような「よそ行き感」も滲み出てくるから。

ツアーはまだ序盤。選曲についてまだ言うべき段階にはないのだろうけれど、定番曲ではなく「時々」もしくは「初めて」ライフで演奏される曲目から、ツアーの隠しテーマを考えるのは楽しいものだ。今回で言うとそれは「振り返り」ではないか。と言っても後ろ向き、ということではもちろんなく。

復帰後の十数年、さらには1999年のライブ休業までの前期12年の活動を振り返り、そこから今後どのように動くのかを演繹していく。それは現在の活動が順調でなければできないことだし、活動が順調だという手応えを得るためには、がむしゃらに走らなければならない時期も必要だ。

ましてやコロナ禍があった。理想とはほど遠いツアー形態を余儀なくされた足かけ4年間が過ぎ、2023年夏前から今年7月まで展開された前の全国ツアーでついに手応えをつかんだからこそ、今後どんなふうに活動していくのかに思いを馳せる境地に至った(のかもしれない。わかりようもないけれど)。その意味で、コロナ前から展開された「この街」ツアーを受けた前回ツアーのタイトルが「今度はモアベターよ」だったことが腑に落ちる。なんせ「今度は」「モア」なのだ。

それでは、森高千里は自身の来し方をどのように振り返ったのか。意外なのかそうでもないのか、それはリスナーが想像するよりもずっとビターなものだったかもしれない。

たとえば中盤に披露されるメロウな某曲。実らなかった恋に想いを寄せ、その理由は自らの経験不足だったのだ、と言い聞かせるように「振り返る」。ひっくり返せば、現在の自分自身の精神的成熟に自覚があるくらいには時間が過ぎたという証左でもある。派手な曲ではない分、セットリストの中でその存在感が浮かび上がる(わーわー言ってた客席が我に返るのだ)。過去に対する苦い思い(韜晦)と、現在の自分に対する自信。双方をよくよく考えた中で選ばれた曲なのだろう。パブリックイメージを遥かに超えて真面目な人である。

さらには古参のファンの皆様待望といわれる某曲。MCでは「キーが高くて難しい曲だから(これまで歌わなかった)」なんてかわしていたけれど、これまた実らなかった恋を題材に、かつて二人でたどった道のりを一人で再訪するという詞の内容から推し量るに、歌われるべきタイミングを待っていた感がある。長いキャリアを持つアーティストでありながら、まだ機が熟していないのでステージでは歌いたくても歌えなかった、という類の。

こうした振り返りはMCにも顕著だった。97年のデビュー時、まだ売り出しの方向性が定まらない中での映画主演。ロケは雪の北海道だったと話していた。。「1ヶ月くらい撮影してて、すっごい寒くて、マイナス40度くらいになる日もあって」。近くの席の道民の皆様が一斉に「ないない」って突っ込んでたのはおもしろいやり取りだった。森高さんもすぐ「ちょっと大げさに言いました」。聞くところによると、その(幻の)主演作についてライブのMCで話すのは初めてだったそうだ。

いまツアーはステージごとに進化の一途をたどっているし、そうでなくでもあまり「懐かし話」をするタイプではないように思う(それよりはきょう食べたおいしいものの話をすることを好む食いしんぼう。客席との掛け合いはほんとうに楽しそうで、モリタカライブの見どころの一つだ)が、札幌2日目ではリラックスしていたこともあってついつい話したくなった、という印象だった。自分の現在の立ち位置に自覚的なときって、出発地点のこと、特にその時の自分がどんなふうに考えていたかを考えるもんね。「演技が下手で監督さんに怒られていた」「でも馬に乗るのは上手かった」なんて言っていた。余談だが馬の話はわざわざ言い直していた。「馬だけに」って。

そして。そのように来し方と現在位置を確かめながら構想した今回のツアーで、最終盤で久しぶりに取り上げたあの曲。あれこそが森高千里を森高千里たらしめている、当初からずっと変わらない森高千里の芯となるものだ。強烈な自意識。それを前面に激しく打ち出しながらも、そんな自身をどこかで客観視しているような(ある意味奇妙な)あのバランス。優れたアーティストはそうでなくちゃね。どっちかしか持っていない人が大多数の中で、両方を持ち合わせているモリタカ。まさに奇跡としか言えない。そんな奇跡的な状況を俯瞰してみる視点も併せ持っているモリタカは(以下略。ぐるぐるー)

2024/10/19

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?