【歌詞考】歌詞における男言葉と女言葉 その理論と実践 「この街」を題材に
森高千里の歌詞は、今ではあまり(ほとんど?)使われなくなってしまったいわゆる女言葉が多く使われる。語尾が「〜わ」とか「〜よ」とかになるやつ。それがモリタカの味だし、彼女の声質で歌われると実によく合い、自作詞ということもあって言葉がジャストで入ってくる。
同世代、というより一世代上のたとえば松田聖子だと、意外にそれほどあからさまな女言葉は使われない(曲にもよるけど)。これは、初期を除く全盛期の作詞家が松本隆だということにも関係があるのかもしれない。そして三浦徳子が作詞を手掛けた最初期は女言葉が比較的多いようにも思う。デビュー曲しかり。ここでは検証はしないけど。
では、森高千里の歌詞を男言葉に置き換えたらどうなるのだろうか、とつい思いついてしまい、そうなるとやってみたくて仕方がなくなった。サンプルは「この街」。いや〜、先に書いておくと、実に気持ち悪いことになった。
この街(オトコ版)
街のはずれの駅でお前(きみ)を見送ったのは
2年も前のことさ 元気にしてるかい
この街も変わったさ(よ)
あの海も埋め立てられ
砂浜もなくなった みんな思い出だぜ(さ/なのさ)
子どもの頃遊んだ広場は大きなビルが
みんな消えていく空に浮かぶ白い雲のように
でもこの街が好きさ(だぜ) 生まれた街だから
空はまだ青く広いさ(よ/ぜ)
田んぼも
この街が大好きさ(だ/だぜ)
のんびりしてるから
魚も安くて新鮮
卒業してみんなはこの街を出ていくけど
方言を使わなくなるのは淋しいぜ
古い校舎も建て替えられて記念碑さえ
みんな消えて行く空に浮かぶ黒い雲のように
でもこの街が好きさ(だぜ) 育った街だから
星はまだ夜空いっぱい
ほたるも
この街が大好きさ(だぜ) きれいな泊川
このまま変わらないでいて(ろよ)
でもこの街が好きさ(だぜ)す 生まれた街だから
空はまだ青く広いさ(よ/ぜ)
田んぼも
この街が大好きさ(だ/だぜ)
のんびりしてるから
魚も安くて新鮮
[ここまで]
嘘くせ〜。わざとらしくて全然入ってこない。森高版(版って)のこの曲を知っている人なら、おぞましくて総毛立つに違いない。それくらい違和感ものすごい。小学校の国語の先生なら採点に困るだろう。もしかしたら0点を付ける先生もいるかも知れない。
日本語は男言葉と女言葉があり、日本のポップスもそれを使って書かれている(た)。とりわけ、ロックなどポップミュージックで使われる男言葉は、通常の話し言葉とちょっと違う、ある種演劇的で大げさな言い回しが使われることが多いように思う。
一つは二人称。「お前」でも「きみ」でもいいけど、あんまり日常会話では使われない。使う人は何か意図があって使っている感もある。もう一つは、やっぱり語尾。「だぜ」とか絶対使わないけど、でも「だぜ」にしないと歌詞として収まりが悪くなるんだよね。
その結果が上記の惨状だ。作詞家を仕事にしなくてほんとうによかった。
森高さんに悪いのでオリジナルも載せておく。ほら、変じゃない。いや、ずいぶんと変わった詞なんだけど、そういう意味ではなくて、変だけどちゃんとオリジナリティーをもって成立しているという。曲に乗せて歌われると、よけいにまったく違和感はないはず。
この街
街のはずれの駅であなたを見送ったのは
2年も前のことよ 元気にしてるかな
この街も変わったわ
あの海も埋め立てられ
砂浜もなくなった みんな思い出だわ
子どもの頃遊んだ広場は大きなビルが
みんな消えていく空に浮かぶ白い雲のように
でもこの街が好きよ 生まれた街だから
空はまだ青く広いわ
田んぼも
この街が大好きよ
のんびりしてるから
魚も安くて新鮮
卒業してみんなはこの街を出ていくけど
方言を使わなくなるのは淋しいわ
古い校舎も建て替えられて記念碑さえ
みんな消えて行く空に浮かぶ黒い雲のように
でもこの街が好きよ 育った街だから
星はまだ夜空いっぱい
ほたるも
この街が大好きよ きれいな泊川
このまま変わらないでいて
でもこの街が好きよ 生まれた街だから
空はまだ青く広いわ
田んぼも
この街が大好きよ
のんびりしてるから
魚も安くて新鮮
[ここまで]
ああ、ホッとする。思いつきを何でもやればいいというわけではないことがよく分かる。
でも、「だぜ」多用のオトコ版で一人だけしっくりしそうな歌い手がいる。忌野清志郎。もしRCがこの曲をカバーしてキヨシローがあの声で歌ったら、、、八高線が田んぼの真ん中を走っていく多摩の風景が浮かぶような気がする。多摩にはもともと海はないけど。それはともかく、これはキヨシローの天才たるゆえん。ただし、さしものキヨシローでも「魚も安くて新鮮」は歌えない気がするんだけど。
2024/10/20
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