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米大統領戦TV討論会

 9月10日、アメリカ大統領選に向け、ハリス、トランプ両氏が出席するTV討論会がNHKで中継された。トランプの「移民はこの国にきて犬を食べている」という何のエビデンスもない発言は、しかしXでトレンド入りし、アメリカ国民の、この討論会の注目度の高さがうかがえる。

 TV討論会において両氏が頻繁に使用した単語のNHKによる分析をみると、その違いが明らかになる。まず、トランプとハリス、両氏ともに “people” (人々)という語を繰り返し用いたが、それが指すものは異なっている。例えば、トランプは “people” と言うとき、特定の集団をさす。移民や麻薬の密輸、暴力行為に加担する人々、といった風だ。一方ハリスは “people” と言うとき、「アメリカの人々」というように、国民全体を表す傾向にある。また、トランプに比べハリスは具体的な政策内容を示す単語を使う。

 当然、ハリスの演説のほうが論理的であるのは明らかだろう。しかし、ここで忘れてはならないのは、トランプのインパクトの強い、そしてわかりやすい言葉は、国民により伝わりやすく理解されやすい、という点である。アメリカには実際多くの移民にルーツを持つ人々が暮らしており、英語が母国語でない人も少なくない。その中で、具体的な政策を指し示すハリスの言葉より、トランプの単純明快な言葉のほうが届きやすいのではないだろうか。例えそれが何のエビデンスもない数字であっても、トランプは躊躇なく、力強く、million, billionという数字を用いる。アメリカ国民の皆が経済の専門家なわけではないのだから、この数字が正しくなくても、トランプがそれによって不利になることは少ないだろう。寧ろこのような大きな数字を自信たっぷりに発することで、トランプは自身の「力強いリーダー」のイメージをより強固なものにすることができるのではないだろうか。

 米大統領選挙は、学問の世界の討論と比べ、かなり特殊だ。合理性や整合性よりも、いかに人々に強い印象を残し、大国のリーダーにふさわしいリーダー性を示せるか、という要素が非常に大きく選挙結果にかかわってくる。もちろんハリスの、女性や子供、中間層に寄り添う政策は理想的だろうが、わかりやすい言葉で大統領選を押し勝った過去がトランプにはあるのだ。アメリカという国の多様性と、その特殊な性質が大統領選を通して見えてくるだろう。11月の選挙に向け、これから激化していくであろう両氏の論戦に目が離せない。

参照:Trump Harris debate: Breaking down the words used | NHK WORLD-JAPAN News , 情報BOX:米大統領選TV討論会、経済・中絶・移民などを巡る主な発言 | ロイター (reuters.com)

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