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『人生論ノート』 ー孤独についてー

君と寂しさは きっと一緒に現れた
間抜けな僕は 長い間解らなかった
側にいない時も 強く叫ぶ心の側には
君がいる事を 寂しさから教えてもらった

手と手を繋いだら いつか離れてしまうのかな
臆病な僕は いちいち考えてしまった
掌が覚えた 自分と近い 自分のじゃない温度
君がいない事を 温もりから教えてもらった
                   bump of chicken 「グッドラック」

バンプいいですよね。上述の歌詞はグッドラックの歌いだしの部分です。間抜けな僕、臆病な僕、自らの弱さをここまでさらけ出すかという歌詞ですよね。だけど歌詞全体は卑屈ではなく強い意志に満ち溢れている。

寂しさは一人だけの世界では感じないということをここで彼らは歌っています。君がいることを寂しさから、君がいないことを温もりから、普通は逆だろというところをあえてこのように表現する。ちょっとしたレトリック。

自分は昔、集団で帰ることが苦手でした。5,6人で帰るとまず、自分が話の中心になることはないし、自分が話すと変な空気になってしまう。2,3人で帰るときはそんなことはないので楽だったのですが、集団で帰るときには自分がその集団から疎外されているような感じになりました。

さて、今回取り上げたいのは孤独についてです。三木は人生論ノートの中で孤独について、次のとおり書いています。

孤独は山になく、街にある。一人の人間のあるのでなく、大勢の人間の「間」にあるのである。孤独は「間」にあるものとして空間の如きものである。「真空の恐怖」―それは物質のものでなくて人間のものである。
                    人生論ノート 孤独について

三木は別の箇所で隠者のような生活をしている人は孤独なのではない、むしろ孤独だと感じることを避けるためにそのような生活をしていると書いています。では、三木は孤独をいいものか良くないものかどのように捉えていたのでしょうか。

感情は多くの場合客観的なもの、社会化されたものであり、知性こそ主観的なもの、人格的なものである。真に主観的な感情は知性的である。孤独は感情でなく知性に属するのでなければならぬ。
                     人生論ノート 孤独について

感情は客観的と知性は主観的という普通逆だろがまた出てきました。これもレトリック。岸見一郎さんの三木清『人生論ノート』を読むと次のようにこの箇所を解説しています。

孤独感といってもそれが他人に認められたいという社会化された気持ちの表れであれば、さびしいという感情ですが、私は一人であるという自覚に立つ意識であれば、むしろ知性に属する。
               岸見一郎 三木清『人生論ノート』を読む

孤独感を感じるというのは、寂しさを感じると同時に、ほかの人とは違う自分自身を自覚するチャンスだということですね。さて、グッドラックの歌詞を進めると次のような歌詞が現れます。

僕もいた事を さよならから教えてもらった
                   bump of chicken 「グッドラック」

あなたといた事とで僕が見つけられた。一人ではわからなかった、あなたとの関係の中ではじめて自分の存在を理解できた。孤独な自分を発見することができたのだと。三木の言うところの知性に属する孤独感でしょうか。

三木は孤独を超えるための方法を示して孤独についてを締めくくります。

物が真に表現的なものとして我々に迫るのは孤独においてである。そして我々が孤独を超えることができることができるのはその呼びかけに応える自己の表現活動においてほかならない。アウグスティヌスは、植物は人間から見られることを求めており、見られることがそれにとって救済するであるといったが、表現することは物を救うことであり、物を救うことによって自己を救うことができる。かようにして、孤独は最も深い愛に根ざしている。そこに孤独の実在性がある。
                     人生論ノート 孤独について

三木の言い方を借りれば、私と社会の関係を秩序立たせるために孤独は必要なのものだということができるのかもしれません。孤独な自分を認識しない限り、社会の中で虚無のなかにうもれてしまうと。そして孤独な自己を表現することで虚無から解放されると。

さて、bump of chicken のグッドラックですが最後このような歌詞で締めくくられます。

笑われても迷っても 魂の望む方へ
思い出してもそのままで 心を痛めないで
君の生きる明日が好き その時隣にいなくても
言ったでしょう 言えるんだよ いつもひとりじゃなかった
                                                                     bump of chicken 「グッドラック」

あなたが教えてくれた僕のままに僕は生きていく、だからあなたもあなたままを生きて欲しい。そんな強い意志が伝わってきます。この詩をかいた藤原さんも孤独を知る人なのだと思います。そして、そのことはまさに孤独は最も深い愛に根ざしているという三木の言葉を証明しているように思えてなりません。

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