ブラジル国 E-wasteリバースロジスティックス改善プロジェクト 広報エキスパート/主に2016~2017年
2015~2017年の約3年間に渡って実施された『ブラジル国 E-waste リバースロジスティクス 改善プロジェクト 』に広報エキスパートとして参加し、広報全般の戦略、PR業務の実行責任者を担当しました。
こちらのプロジェクトは、国際協力機構(JICA)のブラジル国と日本国間の国際協力プロジェクトです。私は、主にプロジェクトの後半2年間の中で設計・実施したサンパウロ市でのE-wasteのリサイクルのパイロットプロジェクトに関わり、行ったり来たりで合計約6ヶ月間サンパウロに滞在し、業務を遂行しました。
サンパウロでの市民広報の経験は、いろんなかたが興味を持ってくださるので、今では、自己紹介や紹介いただくときの鉄板ネタのようになっています。
テーマは電化製品リサイクルという新しい政策の条例化に向けたパイロットプロジェクト広報
企業クライアントの広報戦略設計の背景や業務内容の詳細の公表は基本的にクライアントの要請以外ではNGですが、本プロジェクトは、JICAプロジェクト報告書として公表されており、報告書内に広報活動目的、内容、成果が明記されています。
ただ、パイロットプロジェクト広報活動資料だけでも30ページを越すので、ここでは経験のご紹介として業務の概要を記載します。
3つの広報活動の目的
目標を以下の3つに定め、広報活動に関する制作、PR活動の実践は現地のWEB制作会社、PR会社とともに行いました。
設定した広報活動の3つの目的
1. プロジェクトの周知
2.サンパウロ市に置けるE-waste適正処理の必要性の啓蒙およびプロジェクトへの参加価値の理解促進
3.広報側面からのE-waste回収量目標達成促進
現地メディア環境や広告環境の調査から、制作・PR会社調査、その後、選定のためのプレゼンコンペ設計、選定審査等も、もちろん実施しました。
結構な時間がかかりましたが、PR会社を0から探し、面識のない様々なPR会社にアポを取り、会いに行くのは、とても刺激になりました。
日本のPR業界よりも、よりポップでデザインエクセレンスな印象を受けました。
広報活動概要
3つの目標達成のため、現地PR会社と企画し、実行した施策は、以下です。
プロジェクトおよびパイロットプロジェクトのアイデンティティ、ルール設計および運用
・プロジェクトおよびパイロットプロジェクトのタイトル・ロゴ企画制作
・パイロットプロジェクトキャラクターの企画・設計・運用
・ステークホルダー(政府・メーカー・小売業・流通・リサイク業者など)との広報活動合意形成およびアラインメント、および広報表現ルールの設計および運用
広報物制作
・WEBページ制作
・配布用広報物制作(リーフレット、ポスター、バナー、店内ポップなど)
メディア対応
・プレスリリース
・メディア対応
SNS運用
・SNS企画・運用設計
パイロットプロジェクト"descarte ON" @Instagram Facebook
・セレブリティを巻き込んだアンバサダーキャンペーン
イベント
・関係者向けローンチセレモニーの企画、実施
・市民向けイベントの企画、実施
・プロジェクト対象地域の学校での講演
・プロモーターを使った店頭キャンペーン企画、実施
毎回0.8~2.5か月の滞在という限られた時間のなか、これらの施策実行が叶ったのは、現地PR会社と常に目線が合っていた、プロジェクトリーダー、サブリーダーの専門業務への理解・尊重があった、チームの多大な協力を得られた、おかげだと思います。
利害関係もある様々な現地ステークホルダーが参加するこのプロジェクトでこれらの一つでも欠けていれば、プロジェクト名から考える、これだけの量の広報活動を丁寧に行うことは不可能だったと思います。
リサイクルに対する"ポジティブな想起”を徹底して丁寧に作る広報活動にフォーカスする
”リサイクル”というと、日本では「環境のために推進されるべき」と、大体の場合ポジティブに捉えられますが、当時のサンパウロには(廃家電がその後どのような経路をたどろうとも)目の前の困っている人に譲渡する、必要な人が拾ってお金にするから家の前に廃家電を出しておく、などの慣習がありました。彼らにとっては、その捨て方も社会への貢献です。
また、ブラジルの政治・経済はまだまだ安定しているとは言えません。プロジェクト中にも、政権交代でパンフレットに掲載するブラジル国政府のロゴが変わるということがありました。
このような環境下でリサイクル料金も発生する家電リサイクルが市民の慣習になるには、どのようなコミュニケーションが有効か。
これらを考えたとき、日本人としての常識や感覚を全面的に捨てることの重要性を強く感じ、文化や所得分布、市民感情を改めて注意深く観察しました。
そして「市民にE-wasteのリサイクルを”ポジティブに想起させる”ことを徹底したコミュニケーションが必須」と判断し、その実現を広報活動の最低ラインかつ核としました。そのため、行政 対 市民という構図が想起されそうなものも、なるべく排除しています。
(写真)「サンパウロの都市文化の一つでもあるグラフィッチ・アーティストの手で、イベント開催時間中に、回収トラックにプロジェクトキャラクターの絵を描かせてほしい」 という私の突然のお願いに、トラックの持ち主であるリサイクル団体の代表は「まずは下書きが見たいんんだけど...できれば... でも...いいよ」と、戸惑いつつOKを出してくれて、こちらのトラックが完成しました。この結果に代表はとても満足していました。
今でも、このトラックがサンパウロ市内を走っているかもしれません。
広報活動詳細および成果は公開活動報告書内
全体のプロジェクト事業完了報告書はこちらにあり、本報告書内にプロジェクト広報がまとまっています。
また、上記ページ内PDFリンク;12293031_03.pdfに、パイロットプロジェクトに関する各広報活動の詳細や活動結果報告資料(英語)です。
http://open_jicareport.jica.go.jp/pdf/12293031_03.pdf
ブラジルサンパウロでの市民広報は、とても貴重な経験でした。JICAプロジェクトでの広報エキスパートの起用は初と聞いています。そのチャンスをいただいたこと、大変感謝しています。
(写真)プロジェクトローンチセレモニー開始前の様子。
日本、ブラジリアから関係者が列席したこのセレモニーの開催前日に、予定していた会場から「電気が通らなくなり、使えない」と連絡が入りました。
プロジェクト期間中は、計画や予定を綿密に用意する一方で、”紐渡り”がずっと続いているような日々でした(綱ではない)。
用意していた座席の形状や座り位置などを全部捨て、当日の朝、初めての会場を見てボディランゲージを駆使しながらセッティングを決めたことも、今となっては、いい思い出です。
雑記:広報・PR業務関連以外で感じたこと
サンパウロ市は、人口1218万人(2019年)という、南半球最大のメガシティ(東京都の人口は約1300万)。
インド料理屋のポルトガル人のような顔をしたシェフが「I'm SATO」と挨拶をしてくれたり(祖父が日本人で、イタリア、ポルトガル、ブラジルの混血とのこと)、サンパウロ(またはブラジルの)混血具合はかつて”人種のるつぼ”といわれたNYと比べ物にならないほど進んでいる印象を受けました。
日系人も多く、日本人としてブラジル移民の歴史を学ぶことできたこともとてもいい経験でした。今回のプロジェクトメンバーも日系人の方が多く、彼らとの交流はかけがえのないものでした。紳士的な方が多かった。
ご飯は美味しく(フルーツとお肉が最高で飽きません)、美女も多く(しかも優しい)、人々は人情があり、治安は悪く、現代アート好き。もちろんサンバも重要です。
仕事の現場は働きやすいと感じました。行政の方達がメインパートナーでしたが、女性の管理職は日本よりも多く、ビジネスのシーンで遠慮や控えめにすることが求められない空気感が、やりやすかったです。
ブラジルの方にとって、サッカーはアイデンティティの一つ。商談相手が応援しているチームを知り、敵チームの色の洋服は着ないくらいのレベル感で捉えた方がスムーズです。(そのレベルの熱狂です)
(写真)本当に辛い時には、メンバーと一緒にメキシコ料理屋さんでテキーラを1杯(弱いのと、その後も仕事をしていたのでそれで十分)。懐かしいです。
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