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【創作】輝石の彩り 1

「うわ、起きた」
 リュウールはそう、声を上げた。
 真っ黒な、人のような姿形をした生き物は、暗い緑青色の瞳を瞬かせる。
 その様子を見て、「目もあるんだ」などと思った。
 何せ、全身が真っ黒なものだから、目を閉じている間、それがあるのかないのかさえ判別がつかなかったのだ。
 彼は何かを抱えるようにして、その場所に倒れていた。
 見つけてから、今日で五日目。
 最初に頭を見つけたときには死んでいると思ったし、身体は全部埋もれていたので生きていたとしても何もできないと思った。
 周りを掘り進めながら、数日かけて瓦礫をどけ続けて、ようやく身体が全て見えたところだった。
 瓦礫をどけたのは、進行上邪魔だったからに過ぎない。
 目を覚ますとは今の今まで思っていなかった。
「……カラダが軽くなったと思った」
 ポツリと低い声で呟いた彼に、リュウールは目を丸くする。
「お兄さん、魔物だよね。人の言葉も話せるんだね」
 声をかけてみると、そのことに驚いたように彼は瞬いた。
 ゆっくりと起き上がったうつ伏せの上半身の下の腕の中から、大きな水晶玉が見える。
「加工品? そんなに大きいのは珍しいね」
 滅多にお目にかかれないその澄んだ大きな玉にリュウールは目を輝かせた。
 その声には羨望の色が含まれている。
「助けてくれたお礼に、と言いたいところではあるけど、ゴメンね。これはダメなんだ」
「……お礼?」
 彼が思いがけず項垂れて言うので、リュウールは首を傾げてしまう。ややあって、「ああ、そっか」と思い到って、付け足すように続けた。
「いや違うよ。おれ別に、お兄さんのことを助けたつもりはないから。死んでると思ってたし」
「ボクのこと、怖くなかった?」
「こわい……?」
 彼の意外そうな問い掛けに、リュウールは疑問を返すほか無い。
「生きてて驚いたけど……。お兄さん、怖い生物なの? 俺のこと、取って食ったりする?」
 思わず腕を持ち上げ、手にしていたピッケルを頭上に振り上げる。
「しない。食べたりしないよ!」
「そ? なら、別にこわくはないかな」
 慌てたように手を振る彼に笑いかけ、振り上げた腕を下ろした。
「お兄さん、その水晶玉さぁ……」
 どこで手に入れたの? と口にするよりも早く、先ほど確かに彼の手の中にあった玉が、その場から忽然と失われていることに気付く。
 同時に、彼の黒い体を這う白い何かを発見する。先ほどまでは無かったそれは、じっくりと彼の体の上でうごめいている。
「それ、蛇だよね? 食べるの……?」
「食べないよ」
「じゃあ、もしかしてお兄さんが食べられるとか? それとも、俺を食う? でかくなったりする? 毒はないの?」
 矢継ぎ早に言いながら、ピッケルを小さな身体の前で構えるように持ち、じりじりと距離を取る。
「誰も食べない。食べられないし、毒もない」
 彼がそう告げる間、白い蛇は逃げるみたいに、動きを早めて彼の体の上をぐるぐると這い回った。
「ふうん」
 逃げ場にするには、存在が丸見えだと、呆れたように思う。
 消えてしまった水晶玉の行方はきになったが、リュウールはそれ以上聞かなかった。
 いずれにせよ手に入らないものだから、自然と興味も薄れる。
 蛇も害はないようだし、と無言でリュウールは元の作業に戻った。崩れた土砂を掘り、山道を通れるようにするのが目的だった。
 辺りの土や、岩壁をピッケルで砕いて掘っていく。
 ピッケルが何か固いものに当たれば、手当たり次第に近くに置いてあった籠に投げ入れた。見るからに輝きを放つものは選別して、腰につけた麻袋に放り込む。
 小さな麻袋が膨れ上がり、籠の中が半分より少し多くなった頃、リュウールは手を止めて汗を拭った。
 籠を背負い上げたリュウールは振り返って、まだ己の背後で鎮座していた黒い魔物に声をかける。
「まだいたんだね、お兄さん。帰らないの?」
「……帰る?」
 リュウールの問い掛けに、彼は心底不思議そうに首を捻る。
 その様子からリュウールは何かを察した。
「おれ、明日もここに来るけど、お兄さんどうする? 一緒に帰る?」
「一緒に……?」
 身体ごと傾ける勢いで首を傾けるので、リュウールは思わず笑う。
「そう。うちにおいでよ。一緒に帰ろう」
 黒い彼は、何度かの瞬きをくり返した後、こっくりと頷いた。
「お兄さん、名前は? ある?」
「フィーロ……」
「フィーロだね。俺はリュウールって言うんだ。よろしくね」
 リュウールが黒い彼、フィーロに手を差し出すと、彼はその手を困惑しながらも握り返す。

 そうして、二人の物語は幕を上げたのだった。

よくわからないんですけど美味しいもの食べます!!