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来生輝@名前変えました
2020年2月22日 20:25
「朝ご飯できてるわよ~」 カーテンの隙間から覗く光を感じた瞼が、開くのを拒む。 お母さんの声が幾度となく名前を呼ぶので、頭からかぶった布団を仕方なく引っぺがして起き上がる。 目は殆ど閉じたまま、昨夜用意しておいた制服に袖を通し、鞄を持ってリビングに向かう。「おはよう」 あくび交じりに声をかけた背中からは同じ挨拶が帰ってくる。 制服の上着と鞄を隣の椅子に置いて、洗面所に向かう。 顔を
2020年2月15日 03:31
その出会いは、鮮烈に私の脳裏に焼き付いている。 休学明けの初登校日。 久方ぶりの学校に、緊張から早く目覚めた私は人気のない通学路を一人歩く。 春の日差しが心地よく、春の香りの漂う朝。 そんなうららかな日差しを浴びながら、少し離れた視界の隅で人影がすくっと立ち上がった。 突然の人の気配に驚いて、目をやる。 その人は、手にした紫色の花弁にそっと口付けを落とした。 ただそれだけの動きが
2020年2月15日 03:21
【 こがらし 】 景色が流れていく。 がたん、ごとん、時折大きく縦に揺られながら、窓の外を眺める。 遠くに見える、紅く色づいた山の木々。「いつか、一緒に」 薄明りの中、指と指を絡ませて約束した場所。 彼方まで続く線路を見つめながら、目を閉じる。心地いい揺れに身を任せた。 そう。ちょうど、——あの人と出逢った頃と同じように。「牡丹、本当に店辞めるの?」 最後の客がママを伴っ
2020年1月8日 11:24
ひんやりとした空気を肌に感じた気がして、クオーレは服の前をかき抱くように合わせようとした。 そうして、自分が薄布一枚しか身に纏っていないのだということに気が付く。 部屋に――というよりは住居内に、一つしかない窓。くもりガラスのような板が嵌められたそれは隙間なくぴったりと閉まっている。 空間の温度の管理は一定で、暑いも寒いもない。 半袖の薄いワンピース一枚で、十分に過ごせるのだ。 だから