世の中に“問う”なら「新聞広告」
オンライン・WEB全盛時代。もはや新聞購読者は減るばかりで、新聞広告を伝えるメディアとして選択することは時代遅れなんじゃないか。そんな声を打ち合わせ現場で耳にすることもあったかと思います。(例に漏れず、吉本の中でもそんな経験がありました)
下のグラフは、年齢階層別平均行為者率を示したもの。「行為者率」とは該当する区切りの期日、本件の場合は1日単位でその行為をした人の割合。いわば利用者率のことです。
事実、新聞購読者の中心は50代以上が過半数を超え、10代・20代にいたっては7〜8%程度。次世代へリーチしていきたいトゥモローゲートとしても、あまり縁がないメディアとして目にうつるかもしれません。
けど、今回この記事を書いたのは、そんな状況下においても「新聞広告」には、まだまだ可能性があるんじゃないか。むしろ、クライアントのブランドを育てていく上では必要となる手段のひとつとなるんじゃないか。そんな想いを抱いたので記事にしました。
ふだん僕らが目の前にしているクライアントは、世の中に何か問いたいことをもっている企業、経営者です。その「問う」ことをお手伝いするための知識・知恵として、この記事がみなさんのプランニングサポートになればうれしいです。
これまで学んできた新聞広告の6つの特長・メリットにふれながら、その可能性にせまっていきます。では、どうぞ。
1.物理的優位性(デカい/実物大)
世界最大のアウディ折込広告(2015年)
最初に紹介する広告は、朝日新聞の折り込みとしてつくられたアウディの広告。とりあえずデカイ。実寸サイズがいいですよね。クルマ好きな人、購入を検討している人にとっては、いきなり高級車が納車されるような体験を演出できていたと思うんです。これがSUZUKIの軽自動車だと、またちょっと違いますよね?(SUZUKIさん、ほんとすいません)
新聞は家の中に届く。家の中に侵入できるプッシュメディア(新聞は、元祖サブスクリプションでもあります!)。こういった側面は、他メディアにはない特殊性なので活かさない手はないですよね。今回のアウディでいうと折込み広告、見開きの物理的な大きさを活かして、自宅をガレージに変えるという演出をしました。にくいですね〜。あぁ。こんなことやりたい。
どんどんいきます。続いては、ヨシモトが心打たれた広告。
神戸新聞「#並べる防災」(2017年)
阪神大震災や東北の震災が起きたとき。(ちょっとトゲのある言葉をつかいますが)広告業界は「震災大会」になります。有事になるとクリエイターは、CMやWEBサイトをつうじて、企業の口をかりて、いまそのときに問えることを訴求していきます。そして、広告賞にエントリーをしていきます。おなじ業界で生きる者として、別にそのことを否定する気も僕自身はありません。実際、いい広告、被災者を勇気づけるような広告もたくさんありました。
でも、問いたいのは、その震災大会のあと。
”そのとき”は防災意識を醸成できたかもしれないけれど、どんどん風化していくことがほとんどです。残念ながら、実際にその痛みを体験していない人から、その意識は風化していきます。痛み止めの薬くらいの効果で、根本的な解決にはなっていないのです。いわゆる、やり逃げ広告と名づけられています。
けど、今回ピックアップした神戸新聞はちょっとスタンスが異なりました。継続して「防災意識」を高めていくための施策として、このような新聞広告を2017年に掲載しています。見開きの広告をとおして、実物の防災グッズを準備していく。家族で災害があったときのことをコミュニケーションする。そんな機会を提供しています。
実際、どのくらいの人がこの広告をとおしてアクションしたかはわからないですが、継続して被災時の課題を考え続けること、想い続けることの大切さを提起することは、ブランドや文化を育てていくことにもなると思うのです。1年や2年の期間で、インスタントにできあがるものではないもの。それがブランドであり、文化だと考えさせてくれます。
2.二次利用できる(使いまわせる/扱いやすい/遊べる)
赤城乳業の「ガリガリ君の新聞広告」(2020年)
この春にSNSでも話題になったので、みなさんの記憶にも新しいと思います。赤城乳業の「ガリガリ君の新聞広告」。これは広告がぬり絵になっています。
緊急事態宣言で自粛が続く中、ガリガリ君は何をお客様に提供できるか。その考えた痕跡がしっかり見える良い広告だと思います。個人的にも大好きです。休校で学校にいけない。友だちとも遊べない。ヒマしている子どもの時間に「情操教育」のネタを提供。子育てをする親としては「一緒にやろう」と声をかけたくなるし、「ガリガリ君、いい教育ネタをありがとう」ってなりますよね。じつに良い新聞広告だなと思っていました。(ちなみに、こういう関西企業の面白い広告は、電通関西の古川雅之さんってクリエイターが絡んでいることが多いです。)
でもでも!
このガリガリ君よりもっと好きなのは(これもたしか古川雅之さん)
キンチョーの新聞広告「超難解折り紙」(2017年)
この広告を折り紙として折るとどうなるか・・・
そぉ。みなさん大嫌いのアイツ!Gとなります。日々、害虫と向き合うキンチョーだからこその広告となっています。(※検索<キンチョー 広告>と打てば、数々の名作広告と出会えます。)
ちなみに、コチラはみなさんご存知ですか?
広告の左上にある文言にしたがって数字をつないでいくと…ある文字が浮かび上がってきます。知らない人はぜひ、下記サイトで体験してみてください。(くすっと笑える言葉が、浮かび上がってきますよ。)
キンチョーが様々な面白い広告、尖った広告を打てる訳は、CMや新聞広告をとおしたブランディング、キャラづくりが徹底されている点にあります。(ここも継続の力!)もう僕が子どもの頃から展開されている広告が多数ありますから、すごいですよね。そして必ずどこかに、関西ノリの笑いが仕込まれていることが秀逸です。まさに関西人を表現したような企業。見事ですよね。
ほかにも関西発の企業には、こんな企業がいくつかあります。例をあげすぎると長くなるのでひとつに絞りますが、例えば日清。
日清の安藤社長は「食品業界のビートたけしになりたい」
ということを数年前に話していた言葉は、僕の記憶に鮮明にあります。
めちゃくちゃ要約すると「何を言っても許されるような存在になりたい」ということだったのですが、たしかに、そういうキャラとしてブランドがしっかり表現されている企業だと感じます。(例にあげたい広告が多すぎますが割愛します!ぜひ検索を!)
他に、こんな二次利用を狙った広告も。
森永製菓「チョコボール50周年記念すごろく」(2017年)
この広告は「チョコボールの歴史を切り口に愛着を深めてもらう」といった以外には、社員にも好評だったそうです。これだけたくさんの商品がひとつのビジュアルで、コンパクトにまとまったかたちで世に出ることがないということから、営業担当からは『豆知識として使える』『商談に役立つ』と大変喜ばれたそうです。
やばいな。。。6番まであるのに、まだ2番目だ。がんばります。
3.意外性(お堅い、保守的な新聞なのに)
ランサーズ新聞広告「#採用やめよう」(2019年)
人材不足が叫ばれる日本社会に対して「逆転の発想で”働き方”について考えよう」「古い日本の画一的な労働観をやめよう」ということを大胆に訴求した新聞広告です。
※こちらの広告に込められた想いについては下記リンクにあずけます。
ここでアイデアの引き出しに入れておくべきなのは、紙面への掲載の仕方。一瞬「あれ、ミスプリント?」と思わせるデザインです。
新聞の一面を広告をおさえたからといって、確実に広告を見てもらえるほど購読者は甘くありません。いたって広告に対する視線は残酷です。そんな読者にどうやったら見てもらえるか。どうしたら一歩踏みとどまって考えてもらえるか。しっかり考えられたいい例だと思い掲載をしました。
次にあげる広告も同様ですね。
クリーニング モリ(2019年)
こちらも一瞬「あれ?奈良新聞どうした?白紙?」と立ち止まらせるところからスタートしていますよね。でもよく目を凝らしてみると、クリーニング企業の広告ということで真っ白な新聞広告を掲出。「広告も真っ白じゃないと落ち着きませんでした」というコピーで説く流れ。大胆ですよね。
ちなみに制作者の西島知宏さんの話によると「うちの新聞だけ白紙で届いた」みたいな苦情も何件かあったようです(笑)
でも反響があるっていうのはいいこと。広告の「賛否率」というのは意識して制作しないといけないですが、7:3くらいまでなら攻めるべきとヨシモト個人は考えています。案件にもよりますけどね。
「あるべきものがない」とか「ないべきものがある」みたいな仕掛けが、最近は減ってきています。広告が拡散されるネガティブな点をクライアントが懸念するなど理由は様々ですが、その時代の流れに呑みこまれるのでなく、こういう方向で企画をしてみようと決め切って立ち止まってみると、誰もいない荒野に立てる。そんな戦略もありのかなと考えています。表現におけるブルーオーシャンってやつです。新聞メディアが弱ってきてるからこそ、そういったチャレンジが受け入れられそうなんですけどね。
【マメ知識】最近、朝日新聞からチャレンジングな広告が多く出ている傾向にあります。事実、朝日新聞、読売新聞の広告がけっこうバズっています。では、なぜ日経新聞だとバズりが少ないのか。それは日経新聞は通勤中に読まれるもので、状況的に「スマホで写真を撮る」という行動までいたらないという点にあると分析されています。
4.日付(その日出す意味/訴求力が強まるメッセージ)
「安室奈美恵 916運動~25年間の感謝を伝える全国プロジェクト~」
安室奈美恵さんが引退した9月16日。ファンから!安室さんへの感謝を伝える新聞広告が朝日新聞の朝刊全国版に4ページにわたって掲載(実は、これも朝日新聞なんですよね)。ファンが新聞広告の掲載料金をクラウドファンディングによって集め、賛同した4846人のファンの名前をメッセージとともに載せています。引退の日だからこそ、メッセージがより強まりますし、僕が安室ちゃんなら絶対泣いちゃいます。
同じように、企業ではない個人が新聞広告を活用して、その日付を意識してメッセージを送ったパターンがコチラです。
カープ新井選手引退記念企画「結局、新井は凄かった」
野球好きの人なら知っている黒田投手から送られたメッセージです。メッセージ面には、青色のマーカーで新井選手がスランプだった時の見出しなど辛口で厳しさをのぞかせる面がピックアップされていますが、もう一面でしっかり褒める。全広島ファンが泣ける広告に仕上がっています。
でも個人的には、こういう企画がさきほどの安室ちゃんのようにファンの中から出てくる日本社会になると、もっといい社会になってくるのでは?と思っています。黒田ファンの人がいたら、すいません。
ささっと次へいきます。
奈良新聞の新聞広告
3月8日「国際婦人デー」にあわせて掲載された広告。日本の”女性地位向上”について訴求された広告となっています。この広告は2007年にリリースされていて広告業界では有名なものになるんですが、2020年にも同じ切り口の広告は掲載されています。
こちらが2020年版。やっぱり"女性の地位向上"の課題って根が深いですよね。まだ日本に女性総理は誕生していません。
つぎの5番目の話ともかぶりますが、新聞を筆頭とした権威あるメディアが社会問題を訴え続けていくことって大事だと思っています。なかなか声をあげずらいことなのかもしれないけど、誰かが、どこかの企業が口火を切らないと何も始まらない。
広告は”きっかけづくり”の側面もあります。根本的な課題解決につなげることは難易度の高い技です。けど、口火を切る手段としては最適だと僕自身は考えているので、口火を切るようなツールを、自社からたくさん生んでいきたいなと企んでいます。
その他、日付を活かした広告といえば「お正月広告」が真っ先にアタマに浮かぶかもしれませんが、それは掲示するだけで、感想、解説は割愛しますね。もういろんなところで語り尽くされていますよね。
★新聞をキーワードにした動画”おまけ”★
ヨーロッパの鮮魚小売店”METRO”の施策
「THE DAILY CATCH」
※八百屋さんでも活かせないかなと思っています。
まずはリンク先の動画をご覧ください。
ぜんぶ英語のナレーションでしたけど、意味わかりました?
こちらを解説すると課題はこうです。
【課題】ミラノで売っているドーバー海峡の魚の鮮度がいいことを伝えられるいい方法はないか?
それに対する解はこちら、
【アイデア】獲れた日の新聞に包んで売ったら、一発で新鮮だとわかる!
これを把握した上で、もう一度見てみてください(笑)
嫉妬しちゃいますよね。ほんとに。クリエイターやめたくなっちゃいます。どうやったら考えつくのか。その思考回路が欲しくなります。きっと些細な体験から発想されているんでしょうけど。どんな経験をしたらたどり着くのか。ひたすら気になります。
ちょっと新聞の特長を利用したアイデアに脱線しました。続けます。
5.権威性(新聞に出す意味/記念にもなる)
Yahoo!の号外ジャック
平成から令和へと元号が変わった時に出された号外です。この画像も朝日新聞ですが(朝日のまわしものみたいになってきました)、産経新聞や読売など号外新聞24紙をジャックして、この広告は掲載されていた広告です。
号外にも広告を掲載できるのが個人的には驚きでした。実際、新聞社は決まっている出来事があれば、その日を目がけて広告を売っているそうです。
でもこの広告、ちょっと疑問に思いませんか?
情報のリアルタイム反映では新聞の号外にも勝るYahoo!が、どうしてこの新聞広告を活用したのでしょうか?
ぜひその意図は、いろいろ想像してみてほしいんですけど、冒頭の見出しにも書いたように「記念になる日」ということが、ひとつの広告チャンスになっています。号外って、みんな群がりますよね。あんなに普段は新聞を無視している世代でも。印刷されている新聞を所持しておきたいという欲望が人間の中にはあるってことです(欲って深い)。
そして、翌日4月2日付の新聞には次の広告を掲載しているので、戦略的にPRを仕掛けている点がにくいですね。
6.社会的メッセージとの親和性が高い
日経新聞に掲載されたゴディバの新聞広告(2018年2月1日)
バレンタインにチョコレートを用意してきた日本の女性をねぎらいつつ、男性に対しても「義理チョコ、無理しないでと伝えてほしい」と呼びかけた広告。バレンタインは、純粋な気持ちを伝える日であり、社内の人間関係を調整する日ではないとメッセージされています。
けど、ここで制作者として考えてみてほしいこと。
これで「GODIVAのチョコが売れるの?」っていうのは、ひとつ議論、思考をしてみてください。この広告はどんな課題を解決しているのでしょう?チョコレート市場を考えてみながら考えてみると味わい深くなります。
吉本の考えは、GODIVAは高級チョコなんだけど<安牌なチョコ><義理チョコ>というポジションから脱したいという問題がGODIVAの中にあったんじゃないかなと想像しています(あくまで想像なんで、そこそこに受け取ってください)。ぜひ、吉本の考えに流されず、想像してみてください。こういった新聞広告から課題を想像することも思考の訓練ですから。
新聞広告の特徴は、広告の前後にニュースがあるということです。例えば、バレンタインに関する街の声みたいな記事が掲載されている中、GODIVAのような広告があるとどうでしょう?相乗効果ありそうですよね。加えて、日本の権威層とよばれる50〜60代にも読まれやすいメディアですから、与える影響力が大きくなります。
さてさて、最後とします。長々とすいません。
PANTENE「さぁ、この髪でいこう。#Hair We Go」
2019年のトレンドワードとして「ブラック校則」という言葉が出てきた時に、PANTENEが社会へ問うた広告です。(こういったときに、トゥモローゲートもチャンスはありますよね。)
全国の現役中高生・卒業生・先生の男女合計1000人を対象に「髪型高速へのホンネ調査」を実施。そこから得た回答をもとに「#この髪どうしてダメですか」キャンペーンを新学期が始まる2019年3月から実施。キャンペーンの一環として『学生の髪型高速へのホンネで作られた質問広告』を新聞広告として掲載。日本の髪型校則について、社会全体で考えるきっかけを提供した広告です。
なにか社会問題が浮かび上がってきたとき。その解決は政治に求められることもありますが、企業のサービスや商品で解決できることが多くあります。そういったとき即座に立ち上がれるかどうか。PANTENEのような広告を見ているとそう感じます。
以上、個人的に好きな新聞広告をピックアップし、新聞広告の特長やメリット、可能性について書かせてもらいました。
新聞をとることがなくなった今、新聞広告を目にする機会は少ないかもしれませんが、毎日いろいろな声が新聞をとおしてあがっています。それは記事もしかり、広告もしかりです。ぜひ、そんな声にも敏感にアンテナをはりながら、制作にも反映していけたらと強い会社になると思います。楽しいですよ。新聞って。
最後、この動画はおまけです。ヨシモトのくどい文章のお口直しにどうぞ。