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クズ男には『逃げるA』(書評)


『逃げるA』(坂井恵理著、文芸春秋社、2024年)

「自分はクズ」と思う男、クズ男を散々見て来た女性はぜひ本書を


逃げるA』は、文春オンラインで 2023年 8月から 2024年 4月にかけて連載されたマンガを単行本化した作品である。

自分はクズだ、という自覚がある男はぜひ読んで欲しい。私もそうだ。

本書は、そんなクズ男の心をえぐる作品である。

刃は鋭利で冷たいので、深く刺されたはずなのに、大きな痛みはない。

しかし傷は消えない、そんな感覚が残る。


また、今まで散々クズな男に出会って来た女性も、ぜひ読んで欲しい。

「読後、胸がすく!!!!」と文春オンライン掲載時に大反響!というキャッチコピーは、本物だ。


セックスと避妊、その裏側


セックスと避妊は悩ましい問題である。

セックスは生が気持ちいい。

粘膜と粘膜が直接触れ合う気持ち良さは、何モノにも代えがたい。

ゴムを間に挟むと、すべてが台無しになってしまう。


しかし、生にはリスクがある。

病気はとても怖いが、今回は措く。

もう一つのリスクは、妊娠だ。


セックスは生殖行為であるので、妊娠をリスクと言い切るには呵責が残る。

が、セックスを「遊び」「愛情表現」「性欲の解消」ととらえるならば、間違いなくリスクだろう。

本書を読めば「女だってセックスを楽しんだんだから平等だろ」なんて言えなくなる。

男は「気持ち良かった」で終わるが、女性はそれでは終わらない。


ピルを毎日飲むのも、負担である。忙しければ飲み忘れることもあるだろう。そのとき、妊娠の恐怖が襲う。

疲れて帰った日、お酒を飲んだ日、旅行、出張──。毎日いろいろあるなかで、薬を飲み続けるのがどれほど大変か、少し想像すれば分かるはずだ。


本書に登場する、産婦人科になかなか行けない女子高生の心理が痛い。

「だってまだそんなにしてないし」

「ちょっと遅れてるだけ」

「ダイエットしてると半年くらいこないことあるらしいし」

この間、男は悩まない。



「生理が来ない」という言葉の裾野には


私は今まで、女性から「生理が来ない」と言われたことが 2回ある。
その時は冷や汗をかいた。

しかし経験上、生理が来てから「実は…」と言う女性の方が圧倒的に多い。
たぶん何も言わないままの女性はもっと多いだろう。

だからほとんどの場合、女性が心を悩ます間、男はのうのうと、ふだん通りの生活を送る。

私は、リスクを避けるため、今まで大抵のケースで避妊をしてきた。
もちろんコンドームを使う。

しかし、両手で収まるくらいの人数だが、気が緩んで生でしてしまったこともある。

なかには「彼女」もいたし、行きずりやワンナイトの相手もいた。
もし相手が妊娠していたらと考えると、空恐ろしい。


「逃げた側」の物語


本書は、相手が妊娠した後、「逃げた」男の物語である。

若年妊娠、中絶、赤ちゃんの遺棄事件、未婚の母など、「逃げられた側」の物語やニュースは、よく目にする。

しかし、「逃げた側」の物語を知る機会は少ない。



主人公は、美人の妻、2人の娘、会社での高い地位と高年収を持つ、ハイスペックなビジネスマンだ。

名前は安藤。

程よく整った容姿、紳士的な態度、上品で清潔感のある身なり、優しそうな風貌のエリート男。

表面上は恵まれた家庭生活を保っているが、マッチングアプリを使って浮気を繰り返す。

専業主婦の年下妻は安藤の行動を察しているが、何も言えないでいる。

世間によくいる「逃げそうな男」の一つの典型例で、とてもリアリティを感じる。

彼のような男は、「逃げられた側」の物語に思いを馳せることはない。

安藤と、彼とセックスした女性たちを中心に、話はオムニバス形式に似たかたちで淡々と進む。

しかし、次第に点と線が繋がり、物語は中盤から、ある人物の登場によって暗転する。

女たちは、安藤さんの闇をぶちまける穴ですか?

この言葉には、ハッとする。

特にクライマックスは圧巻だ。ぜひ最後まで読んで欲しい。

150ページほどなのですぐ読み終わる。しかし、いろいろな台詞や画が心に深く刻まれる。何とも言えない、読後感。



「逃げる男」の時限爆弾


私は全くエリートでもハイスペックでもないが、少し環境が似ているところがある。

そこそこの暮らしと金回り。そこそこの家があり、人からはたまに「美人」と言われる妻、可愛い2人の子どもがいる。

そして、浮気を繰り返している。

妊娠させて逃げたことはないが、「何かから逃げている」のは共通かもしれない。

「逃げたツケ」の爆弾は、安藤と同じく、いつか爆発するのだろうか。


安藤と私は、女性に対する目線が決定的に違う。

すると、爆発後の展開は違うのか、それとも同じ帰結か。


しかし、さすが文芸春秋社。面白いマンガを世に出した。

性教育も裏テーマになっている。

こんな本当の性教育が、必要かもしれない。


ネットで検索したら「ネット乞食」という言葉に出くわしました。酷いこと言う人、いるなー。でも、歴史とたどれば、あらゆる「芸」は元々「乞食」と同根でした。サーカス、演芸、文芸、画芸しかりです。つまり、クリエイトとは……、あ、字数が! 皆様のお心付け……ください(笑) 活動のさらなる飛