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哉村哉子
2016年5月2日 22:29
喧嘩をしてしまった。 どうやら音速で春が過ぎてしまったということに気づいたのは、川沿いのローソンで切手を買ったあとのことだった。ゴールデンウィークだから郵便局が閉まっていた。わたしの家は海から離脱して流れている川と海の間に挟まれていて、ある日わたしの家にやってきた友人は、「湿気がすごいでしょう」と言った。冬の間、窓のそばにタオルを置いていると、夜露を搾り取れるほどになった。顔を洗ったら、別の
2016年4月4日 11:48
朝、年下の男の子から連絡があって、少しSkypeをしてもらえないだろうかと言う。わたしは男の子と話をした経験があまりないので――「やりとりをしたこと」はあるけれど、裏庭に腰かけてじっくり話をした経験があまりないので、気が進まないのだけれど、応じる。わたしは彼に多少の友情と、それなりにたくさんの愛着を感じている。できるだけ早ければいつでもいいというので、わたしはその日の午後、日暮れ前を指定する。話
2016年2月16日 22:29
ときどきわたしは病気になる。 わたしは出口のない部屋にいる。体全体が痛く、なかでも脇腹が痛い。喉の奥につかえているものがあり、水を飲んでもそれは落ちていってくれない。夢の中でわたしは森の中にいて、そこは湿っていてどこまでも歩いて行ける。けれどすうっと空が見えてわたしは目をさます。そこはベッドの上で、腕を持ち上げると冷たい空気がある。「何時?」 わたしは尋ねる。「八時」 驚くほ
2016年2月8日 17:07
引っ越しなんてできないと思っていた。 都会と田舎どちらが好きかと尋ねられたら、都会は素晴らしい場所だけれど田舎に住むことしかできないだろうと答えていた。三十年間ずっと。でも実際のところわたしは田舎に住んではいない――都会にも住んではいない。わたしは海のそばの、街と呼んでいいのかわからない程度の、中途半端な場所に住んでいる。八百屋と肉屋と魚屋と米屋があるけれどそれが商店街を作っているわけでもな
2016年2月3日 22:03
梨が食べたいと同居人が言うので、神社を抜けて八百屋に行く。八百屋は神社を挟んでマンションの向かい側にあり、コンビニエンスストアに行くよりよほど近いので、わたしたちはコンビニスイーツやアイスを買うくらいの感覚で、頻繁に果物を買う。 この文章を書いたとき、まだ秋だった。梨のシーズンだった。梨はさほど安くはないので、それは若干手痛い出費だ(なにしろわたしたちはとてもとても貧乏だ)。でも同居人は小鳥
2016年1月27日 09:25
なにをしているの、と同居人はわたしに聞く。質問に答えているの、とわたしは答える。 そこは海のそばの神社の前にあるマンションの一室で、海までは歩いて十五分かかる。そこに行くまでの道のりには肉屋(キロ単位で肉を買うというずるずるドーパミンが出る行為を行うことができるし、冷凍の馬刺しも売っている)、子供とその親だけが入場を許されているごく小さな遊園地、おしなべてなにもかもが高い古道具屋、いつ見ても