舞台「プロデューサーズ」前編-最高に楽しくて笑えるミュージカル
11月中旬、舞台「THE PRODUCERS」(以下、プロデューサーズ)を観劇した。WEST.の濵田崇裕さんと神山智洋さんがW主演をしたブロードウェイミュージカルである。
私自身が濵田さんと神山さん(通称:はまかみ)でWEST.に沼った人間なので、感想を前後編に分ける予定だ。前編(今回)は全体的な感想を中心に、後編は濵田さんと神山さんについての感想を書きたいと思う。
※がっつりネタバレを含む
※あくまで個人の感想なので、悪しからず。
ストーリーは公式サイト参照
STORY|東急シアターオーブ ミュージカル『プロデューサーズ』
舞台発表時から続く期待
舞台を知った瞬間、これは絶対観に行きたいと思っていた。
人気のブロードウェイミュージカルであり過去に何度か日本でも上演された演目、しかもWEST.の濵田さんと神山さんという「完全に振り切れた時に強い二人」が主役……絶対面白くなるだろうと確信していた。
ミュージカル初挑戦の濵田さん、9年ぶりで実質初挑戦のような神山さん……と二人のミュージカル経験のなさは少し気になったが、歌が上手いのは知っていたので「なんとかするだろう」とは思っていた。
(必ずしも「歌が上手い=ミュージカルもできる」という訳じゃないうえに、濵田さんと神山さんの声質はミュージカル独特の発声との相性はあまり良くないかも……とは思っていた。詳細はまた後編で触れるかも)
公式ホームページのストーリー概要と4年前に上演された「プロデューサーズ」のダイジェスト動画は見たが、事前情報はあまりなしで観たかったため、映画版もSNSでの感想もほぼ見ずに観劇した。
はまかみの雑誌祭りは読んでいたが、内容に関してはそこまで触れていないのでどういう感じになるかは未知数だった。
観劇後の感想
めちゃくちゃ面白かった。そして楽しかった。ミュージカルでもこんなに楽しかったり笑えるものもあるんだっていう驚きもあった。
どうしてもミュージカルって劇団四季とか宝塚歌劇団のイメージが強いから「格調高い」イメージはあったが、今回はそういう感じじゃないのも意外。
あと気にしていた濵田さんと神山さんの歌についても、良かったと思う。
「ミュージカル独特の発声の上手さ」という点だけで見ると伸びしろはあると感じたが、普通に歌は上手かったので場数を踏めば化けそう感があった。
小瀧さん主演のデスホリの時は「物語の世界観と演者の歌・演技をじっくりと味わう」という舞台だったが、プロデューサーズは「たくさん笑ってミュージカル自体を楽しむ」という舞台だった。一概にミュージカルだと言っても、これだけ観劇スタイルも変わるのも面白さなのだと思う。
ここからは全体的に見て良かったところを。
分かりやすいストーリー展開とマックスとレオの仲の良さ
落ちぶれたミュージカルプロデューサーであるマックスが、会計士(マックスにプロデューサーになるように誘われてすぐ仕事を止めるが)のレオとともに最低の脚本・演出家・振付師・女優や俳優を集めて「史上最低のミュージカル」を作ろうと画策する話だ。
史上最低のミュージカルは完成したのだが、二人の思惑を外れてなぜか大成功してしまい、粉飾決算がバレマックスは警察に捕まってしまう。しかし、レオはそんなマックスを裏切り、女優のウーラとリオに飛んで結婚する。その後、レオはマックスの裁判時に戻ってきてマックスに情状酌量の余地があると弁明するが、普通に二人とも捕まる。刑務所の中で新しいミュージカルを作り、釈放後にそのミュージカルを上映し、二人のブロードウェイプロデューサー人生が続いていく……そんなハッピーな話だった。
観劇後の「マックスとレオ、二人でずっとお幸せに」感が凄い。
マックスとレオの友情を感じる仲の良さと息の合い方が凄く、二人の幸せを願っている自分がいた。勿論レオとウーラのラブストーリーやラブシーンもあるのだが、それ以上に終始マックスとレオの仲の良さの印象が強い。
濵田さんと神山さんが同じグループのメンバー同士だから阿吽の呼吸ができるという強みもあるだろうが、二人ともマックスとレオとしての演技を細かくしてるからだろう(長くなるので後編で)
魅力的なキャラクター達
全編を通して見やすいと思ったが、それぞれの登場人物のキャラクターが明確で分かりやすいっていうのも大きかったと思う。
老婦人を愉しませてお金を集めている下品で口が悪くて色男のマックスは、濵田さんが演じることで彼自身の面白さやチャーミングさと合わさって「悪いことしているけどどこか憎めない愛らしい人」になっていたと思う。あとマックスはコメディからシリアスまで演技の幅が広い役だが、どっちも上手くて演技力の高さを感じた。あとワルい役や表情をしている時の濵田さんって妙に色気が出ていて魅力的だなと思う。
強迫神経症もちで変人だけど夢への真っ直ぐさが眩しいレオも、神山さんが全力で面白おかしくかわいらしく演じてて、身長170cmある30代男性なのに小動物みやバブさを感じさせるの普通に演技が上手いと思った。神山さんって「キャラクター造形が明確で自分とは離れた役」が上手い印象あるので、今回は得意分野だった気がする。あと「かわいい」を全うしている時の「あざとさ」を消すのが上手い人だよなと思う。
英語をロクに話せないセクシーでかわいらしさのあるウーラも、王林さんが魅力的に演じていて、美しさとセクシーと歌声の迫力が素晴らしかった。あれだけ下ネタを言うのに「美しさ」で下品さをチャラにするの相当ビジュアルが強い。歌も演技もミュージカル初挑戦だと思えない堂々としたもので、レオに対する恋心とか優しさとかの表現も細かくて良かった。オーディションのシーンとか、レオが大声でパニックになりかけてもすぐになだめてるし、基本的に肩に手を添えてて「めっちゃいい女性だな」って思った。
演出家のロジャーとアシスタントのカルメンのゲイカップルも面白すぎて、登場したり一つ一つの挙動で毎度爆笑をかっさらうのかっこよかった。ロジャーとカルメンの二人が並ぶだけで微笑ましく、高身長のお二人なので歌声だけでなくビジュアル的にも迫力があって素敵だった。
特に、ロジャー役の新納さんが素晴らしかった。ロジャーは劇中劇で主人公を演じたりするので歌も多い役なのだが、どの歌も圧巻の歌声だった。
また、二幕の「ヒトラーの春」という劇中劇のなかで観客に語り掛けるアドリブシーンがある。毎公演で数分間のアドリブ(小道具を使ったりすることもできずにマイク一本でのアドリブ)が求められるのは相当ハードルが高いことだと思うが、毎回観客を笑わせているのはさすがだった。本当に上手い方なのだと思う。
他にも、ヒトラー愛好家の脚本家であるフランツや、マックスに融資する老婦人のホールドミー・タッチミーなど、個性的なキャラクターが多数登場するため、見ていて飽きなかった。
コメディの「間」と「テンポ」の上手さ
一番驚いたのは、序盤からボケがちゃんと観客にウケていたことだ。
序盤はどうしても観客も「この作品はどういう感じなんだろう」と様子見してしまって結構スベリがちな印象なのだが、普通にウケていたのは凄い。
しかも本作は下ネタやブラックジョークも登場する。こういう笑いは一歩間違えると観客が白けやすい気がするが、そこまでいやらしさもなくウケていたのは演者の力だろうなと思った。
色々とドラマや映画や舞台やらを観ていて「コメディって本当に難しんだろうな」と思うところは多々あるのだが、そのなかでもわりと重要なのが「間」と「テンポ」だと思っている。
それぞれのボケをどれぐらいの長さでやるのか、ボケ同士の間隔をどれだけ空けるか……これがズレるだけで面白さが変わってしまうのだ。
間が短すぎたりテンポが早すぎると、笑いどころが伝わらなかったり観客がついていけなくなる。間が長すぎたりテンポが悪いと間延びしてダレる。
この「自分が好きな間やテンポ」は人によっても違うし、正解もない。
だからこそ「コメディは難しい」と言われるのだと思っている。
ただ、今回はその塩梅が非常に上手いと思った。
パッと見で分かる変わった動きやブラックジョークの時はテンポよく、ロングトーンのボケやちょっとした小さな動きは観客が気づくまで続けてじわじわと笑わせる……その間合いやテンポが絶妙だったと思う。
アンサンブルが支える登場人物の多さ
観劇して思ったが、とにかく登場人物が多い。
冒頭でマックスのミュージカルを観に来る観客・ロジャーお抱えの専属チームのメンバー・おばあさまランドの老婦人・オーディションを受ける人・劇中劇に登場するキャストと観客・裁判所で働く人・囚人……場面展開が多いうえに華々しいシーンも多いからだろうが、アンサンブルで登場する人の数が多い印象があった。
観劇後「これは何人ぐらいでやっているのだろう」と思ったが、プログラムを読む限り18人と知って驚いた。二十数人いらっしゃるかと思ってた。
おばあさまランドで十数人登場していた記憶があるけど、その後の一幕ラスト曲で別衣装になっている方とかたぶんいらっしゃる気がする。きっと、アイドルのコンサート並みの早着替えされているんだろう。
メインキャスト・アンサンブルの聴きやすい声
あと、個人的には「みなさん聴きやすい声だな」と思った。
私は少し耳が過敏(というか神経質?)なのか、苦手な声・聴いていて疲れる声がある。これは話し声と歌声どっちにも言えることであり、声を聞いてすぐ「この人の声ちょっと苦手だな」「この人の歌をずっと聴くのはしんどいかも」と思うことがあるのだ。
(感覚的すぎて説明しづらいが、耳に残ったり刺さったりするイメージ)
歌番組(特にミュージカル)では基本的にこの声に出会うので、自身でも「ちょっと自分の耳が弱いだけでしょうがない」とは思っているのだが、本作ではその声はしなかった。
本公演は休憩を含んで3時間超になるが、観劇終わりに「疲れた」という感覚が弱かったのはたぶんこの影響が大きい。
何度でも観たいほど楽しかった
最後に。感想冒頭にも書いたが、本当にこれは楽しいミュージカルだった。
この舞台は何度でも観たい、そう思うほど素敵なものだった。
(小瀧さんのデスホリも本当なら何度か観劇したいほどよかったが、観劇後に追加購入しようとした時にはすでにチケットが完売していた……発表時点で「これは面白いだろう」と予感したものは複数回観る前提で早々にチケットを取っておいた方がいいと学べていい経験になったと思う)