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【ボクシング】女子ミニマム級王座統一戦。自由度あふれるエストラーダが堅実ルプレヒトを攻略

☆3月25日(日本時間26日)/アメリカ・カリフォルニア州フレズノ/セイヴ・マート・センター
WBA-WBC女子世界ミニマム級王座統一戦10回戦
○セニエサ・エストラーダ(アメリカ)WBAチャンピオン
●ティナ・ルプレヒト(ドイツ)WBCチャンピオン
判定3-0(100対90、100対90、100対90)

 23勝9KOのエストラーダ。12勝3KO1分のルプレヒト。無敗の王者同士の一戦は、エストラーダの完勝に終わった形だが、ジャッジの評価とそれによる印象とは異なる感想を抱いている。3ラウンドまではルプレヒトが上回っていると見たからだ。

 エストラーダ157cm、ルプレヒト147cm。身長差10cmの両者には、骨格自体の違いも感じられ、同じ階級とは思えないものがあった。エストラーダもそれを肌で受け取っていたのだろう。出だしから豪快な左右フックでルプレヒトを脅かすどころか潰しにかかっていると見た。

 けれどもこれまで5度防衛しているWBCチャンピオンは、気圧されるどころか「待ってました」とばかりの振る舞いをした。ガッチリとガードを固めながらエストラーダの強襲を受け止めて、頭上に逃がす。そればかりではなく、ビッグパンチの合間を縫って、真っすぐに伸びるジャブ、右ストレートをカチンカチンと合わせていったのだった。

 エストラーダの先制攻撃はいつものこと。それを見せて観衆だけでなく、ジャッジにインパクトを与える。彼女の優れた戦略のひとつだが、その派手さに目を奪われてしまうと、試合の流れや趨勢を見誤ってしまう。
 彼女がサウスポーへのスイッチを頻繁に繰り返すのもまた、過分に“魅せる”ことへの執着があり、それで相手を戸惑わせることができればそれで良し、自分のリズムもどんどん良くなっていくという一石何鳥にもなる戦法で、プロ意識の高さのひとつでもある。
 だが、ルプレヒトは見抜いていた。左構えのエストラーダは、左ストレートをしっかりと打ち抜けない。どうしても肩と腕が開くフック系になってしまう。だからそこへショートストレートやフックを合わせた。手数と迫力で印象点を稼いだエストラーダだが、両腕を胸前に置いただけで顔もボディーも隠れてしまい、打つスペースがなく、しかもコンパクトなパンチを合わせてくるルプレヒトに、手強さを感じたはず。実際に、そんな表情を浮かべてもいた。

 だからはっきりと戦い方を変えた。4ラウンドからは、激しくステップを刻み、左右へのサイドへの動きやルプレヒトの真横や後ろへの回り込みを見せるようになっていった。また、無理に顔面を狙わずに、狙っていると見せかけてガードの上を叩き、かすかに空いたボディーへ左右フックをガツガツと打ちこんでいったのだ。

 まさに魅せるスタイルだ。足の組み換えを続け、相手を幻惑する。縦横無尽に動き回り、それに目を奪われると、多種多様なパンチが飛んでくる。しかも、その手数は圧倒的。打ち返す時間を寸分も与えてくれない。自由奔放。この言葉がエストラーダにはふさわしく、人を惹きつける部分でもある。

 個人的に彼女の最大のストロングポイントは、ボクシングをサッと切り替えられる判断、決断と、それを体現できる対応、応用力だ。迷いが寸分でも生じれば、この日の相手ルプレヒトのような猛者ならば、必ずつけこんでくる。しかし、特に5ラウンドからのボクシングは盤石だった。左構えの左にルプレヒトが合わせてくることを察知すると左を打つことを控え、速い右ジャブを連発して対応した。普通ならば、サウスポーになることをやめてしまうだろうが、それをできてしまうのも心の強さである。
 そして、小さい相手に対してボディーを狙う怖さ。それを払拭という以前に抱いていなかった点。これがあっぱれだった。ルプレヒトはここまでボディーを打たれたことはなかっただろう。きっとかなり意表を突かれたはずである。

 それでもルプレヒトは強者だった。ボディーを打たれても怯む素振りが一切なく、そこへカウンターを狙い続けた。スピーディーに動き回るエストラーダを、最後の最後まで追いかけ続けた。惜しむらくは、彼女自身にボディー攻撃がなかったこと。身を翻し続けるエストラーダに幻惑されてしまったのだろうが、そこを突破すれば、また違った展開に持っていけたかもしれない。それをさせなかったWBA王者が1枚上手だったのだろう。

 大差で敗れてしまったルプレヒトだが、ボディーワークでリズムを刻み続け、かわしまくり、強振しない美しいブローは非常に参考になる。体格の不利を、逆転の発想でアドバンテージにしている。初黒星を喫したが、彼女がこの試合を経て、どんな発想を加えてくるのか楽しみだ。

《ESPN+ライブ視聴》

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