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【ボクシング】ムラタヤと村田昴。深すぎる匠の技に魅せられた
☆3月25日(日本時間26日)/アメリカ・カリフォルニア州フレズノ/セイヴ・マート・センター
スーパーライト級10回戦
○レイモンド・ムラタヤ(アメリカ)WBCライト級33位
●ウンベルト・ガリンド(アメリカ)
KO9回2分40秒
バランスが良く、ストレートパンチャーの雰囲気を立ち上がりから匂わせていたガリンドの攻撃を、ムラタヤは相変わらずの卓越した防御技術でかわしていく。ちょっとしたヘッドスリップや、立ち位置のずらしはもちろんのこと、特筆すべきは肩からグローブまでの腕全体を使ったガード、ブロック、パリングだ。相手が次に何を仕掛けてくるのかすべてまるっとお見通し。まるでそう言わんばかりの反応の良さで、パチンパチンと止めていく。
14勝11KO2敗1分。ガリンドは世界的には無名ながら、パフォーマンスを見れば一筋縄ではいかない相手と分かるのだが、その伸びやかなブローをいとも簡単に。そしてディフェンスでリズムを築くと、ガリンドのしなやかな右に、これまた瞬時に右を合わせてみせるのだった。
これはモノが違う。そう思いかけた矢先のこと、ガリンドのプレスを涼し気に受け止めてロープを背負ったムラタヤが、右ショートフックを食ってキャンバスに落下したのだった。
右ストレートでボディーを打ちにいき、これをワザと外す。そうして左フックを顔面に返し、意識を二枚重ねにしておいての右フック。さしものムラタヤも、これに引っかかってしまったというわけだ。いや、反応が良すぎるからこそ陥りやすい罠だった。
これがプロ17戦目。これまで16勝13KO無敗としてきたムラタヤにとって、おそらく初めてのダウンだったろう。しかし、まったく動じることなく立ち上がると、何事もなかったように、それまで同様の振る舞いを続けた。
23歳という若さながら策士ぶりを発揮したガリンドは、2ラウンドにも右を決めてみせ、総攻撃を仕掛けてくる。けれどもムラタヤはもう貰わなかった。防御でしっかりと立て直すと、ジャブの上下、右ストレートの上下、この両ブローをまるでパズルのように組み替えて、ガリンドへの反撃を開始する。そして3ラウンドに入ると、ウィービングからガリンドの死角へと回り込んで、左ボディーブローを突き刺し始めたのだった。
4ラウンドにはこのボディー打ち2連発でガリンドをしゃがませると、その後は防御で築いたリズムを体に刻みながら、テンポの上げ下げを含めた攻撃を淡々と繰り返す。ワンツー、ワンツースリーと、連打の回数も変えていくムラタヤに対し、ガリンドは必ずフォーまで打つのだが、そちらは滑らかさを欠いた。
7ラウンドには流れるような連打が止まらない。そうして手詰まりになってきたガリンドに9ラウンド小さなパンチを回転よく繰り出す。これは“餌撒き”だった。
まんまと引っかかったガリンドが、これに右のリターンブローを入れようとしたところへ、左ボディーブロー一閃。追い込まれていたガリンドが、すっかり心の余裕を失って強振。バランスを乱したところへのカウンターだ。ムラタヤは、様々に仕掛けを凝らし、バランスが乱れる瞬間を待っていたのだった。
片ヒザを着いたままカウントアウトされたガリンド。ダメージもそうだが、ムラタヤの完璧なボクシングに白旗を上げたのだろう。が、彼も将来を期待できる選手。この試合は相手が悪かったとしか言いようがない。
個人的に久しぶりに見たムラタヤにはすっかり魅了された。この日のメインに登場したホセ・カルロス・ラミレス同様、ロバート・ガルシア・トレーナー仕込みだろう(右足をサイドへずらして打つ)左ボディーブローが際立った。メキシカンが継承し続ける、ポジションチェンジをともなう美しい技。あの辰𠮷𠀋一郎も得意とした形だ。
☆3月25日(日本時間26日)/アメリカ・カリフォルニア州フレズノ/セイヴ・マート・センター
スーパーバンタム級4回戦
○村田 昴(帝拳)
●ホセ・ネグレテ(アメリカ)
KO1回1分47秒
この日のトップランク・プロモーション興行のオープニングに登場した村田が鮮やかな一撃を披露した。
サウスポーの村田は、前進してくるネグレテをフットワークでいなしたかと思えば、一転して足を止めて前の手の駆け引きにネグレテを食いつかせる。
右ジャブを多用して、左はまるで隠しているかのようにまったく打たず、前の手に意識を集中させたところで左ストレートをボディーに2発。さらにまた前の手に集中させておき、今度は左アッパーをボディーへ。この3発のタイミングを敢えて同じにしておいて、今度は左ストレートを同じタイミングで顔面へ。
ボディーを打たれると思い込んでいただろうネグレテは、もんどりうって倒れると、びっくりしたかのように飛び起きて、リング内をガクンガクンと彷徨ってストップされた。
わずか107秒。左はたったの4発。しかし、それを可能にした右は何発打っただろう。その伏線があればこその匠の技だった。
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暁視GYOSHI【ボクシング批評・考察】
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