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【ボクシング】2・24アメリカ・オーランドの5試合批評&考察


ベルランガ圧巻のフィニッシュも、序盤の使い方は疑問

☆2月24日(日本時間25日)/アメリカ・フロリダ州オーランド/カリブ・ロイヤル・オーランド
NABOスーパーミドル級タイトルマッチ&WBA挑戦者決定戦12回戦
○エドガー・ベルランガ(26歳、アメリカ=76.15㎏)チャンピオン、WBA8位
●パドレイグ・マックローリー(35歳、アイルランド=76.15㎏)WBA3位

※使用グローブ=SABAS白(ベルランガ)、GRANT白・緑(マックローリー)
TKO6回2分44秒

 かつての「初回KO男」(デビューから16試合連続)もすっかり落ち着き払ったということなのか。5試合連続判定勝利を経て「大人のボクシング」に様変わりしたのか。ベルランガは初回だけでなく、2、3ラウンドもほとんど手を出さず、マックローリーの出方を窺うことに終始した。パンチの強さ、タイミング、角度などをリサーチし、その隙を突いていく、という意図は十分に伝わったが、それにしてもあまりに時間を要しすぎではないか。そんな思いを抱きながら趨勢を見守った。
 が、対するマックローリーも、引き気味のベルランガを警戒し、おいそれとは飛び込んでいかない。思いのほか手を出さないベルランガをかえって不気味に思ったのか、恐る恐る攻めていくといった様相だった。ベルランガはマックローリーのこの姿勢に多少なりとも救われたのかもしれない。

 ベルランガがようやく少し動き出したのは4ラウンド。左フックの相打ちで最初に優ったのはマックローリーだったが、2度目はベルランガが制した。若干ダメージを感じさせたマックローリーに左フックを狙い打ち、サウスポーにスイッチしたマックローリーに右もヒットさせた。

 はっきりと主導権を握ったのは5ラウンドだった。きっかけはやはりジャブだ。ローブローを打ってしまい、試合が中断するハプニングもあったが、ジャブからの展開を作ることに成功し、試合の流れをはっきりと手に入れた。
 こうして自ら試合を作っていくこと、できるならばもっと早いラウンドから主導権を握っていくことが今後の戦いではさらに最重要になってくる。この日のように、序盤をほぼ無為に過ごすなど悠長なことをしていては、相手にペースを握られて取り返しのつかなくなる可能性がある。丁寧に戦うことは大切だが、だからといって貴重なラウンドを流す(本人にはそんなつもりはないのだろうが)という愚は、あってはならないこと。失礼ながら、マックローリーだったからアクシデントには至らなかったと見た方がよい。

 6ラウンドのフィニッシュは圧巻だった。ワンツーからさらに右でマックローリーを追い込むと、ロープを背負い、手詰まりとなったマックローリーの右アッパーに右。何を思ったか、マックローリーは同じタイミングで、続けて力ない右アッパーを打ち上げたが、これも難なくかわしたベルランガの右フックが炸裂。ロープ際にぐしゃりと倒れ込んだマックローリーを見て、クリストファー・ヤング・レフェリーはカウントをやめた。

 試合後、本人だけでなく様々な人の口から「カネロ」の声が上がった。WBAのスーパーチャンピオンをはじめ、4団体王者に君臨するサウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)はビッグマネーを生むスターで、誰もが対戦を望む。だが、ベルランガにはデビッド・モレル(キューバ=WBAチャンピオン)をおすすめしたい。セミファイナルに登場した東京五輪ライト級金メダリスト、アンディ・クルスの応援に来ていたモレルは、ベルランガの偵察も兼ねていたのだろう。放送席の面々は、ベルランガの対向者として「ハイメ・ムンギア(メキシコ)」「デビッド・ベナビデス(アメリカ)」の名を挙げたもののモレルには触れなかったが、才能の点でいえば、ナンバーワンだと思う。

ベルランガ=22戦22勝(17KO)
マックローリー=19戦18勝(9KO)1敗

ザマリッパの意外な強さがクルスの技術をよりいっそう輝かせた

IBFインターナショナル&WBOコンチネンタル・ラテンアメリカス・ライト級タイトルマッチ10回戦
○アンディ・クルス(24歳、キューバ=61.29kg)チャンピオン
●ブライアン・ザマリッパ(26歳、メキシコ=61.29kg)
※使用グローブ=GRANT赤・白(クルス)、RIVAL黒(ザマリッパ)
判定3-0(100対90、100対90、100対90)

 ザマリッパは予想をはるかに超えていく好選手だった。反応が優れ、バランスは良く、体もパンチもスピードがあって、しかもパンチはキレている。初回にいきなり打ち込んだ左ストレートは、並の選手ならもらっていただろうし、場合によっては倒れているのでは、と思わせるほど素晴らしかったが、クルスはいとも簡単にステップバックでかわすと、即座にお返しの右ストレートをヒットしてみせた。

 派手なボディワークを使うわけではないものの、ディフェンス力の高さは誰が見てもはっきりとわかるだろう。クルスはディフェンスでリズムを作る選手で、7ラウンドにリズミカルにガード&ブロックし、攻撃につなげていったシーンは特に象徴的だった。
 彼の場合、反応が良いのは当然として、それを飛び越えた“予測”の的中率が極めて高いことが、防御術につながっているとみる。下手をすれば、ザマリッパが打つ前からそこに来ることを想定し、腕やグローブを持っていって待ち構えているような瞬間すらある。攻撃パターンを読み切っていることはおろか、そのように攻撃することを仕向けるコントロールが利いているのだろう。

 圧倒的なスピードがあるが、パンチの速度をゆるめたり、ステップインのパターンをいくつも持っていたりと攻め口は多様。ストレート軌道で打ち出すが、実はアッパーに変化する右は秀逸だった。これをまともにもらわなかったザマリッパが素晴らしかった。

 那須川天心(帝拳)と同様に、自他ともにKOを求めるのかもしれないが、何かのきっかけや弾みでバタバタと量産していくはずだ。あっという間のフルラウンド。むしろフルラウンド魅せてほしいと思える選手だ。

クルス=3戦3勝1KO
ザマリッパ=17戦14勝(5KO)3敗

左フック封じられ苦闘のギヤソフ。健闘カノに不運な裁定

WBAウェルター級挑戦者決定戦12回戦
○シャクラム・ギヤソフ(30歳、ウズベキスタン=66.62㎏)1位
●パブロ・セサール・カノ(34歳、メキシコ=66.39㎏)5位
※使用グローブ=EVERLAST黒・桃(ギヤソフ)、REYES赤(カノ)
負傷判定11回終了3-0(109対99、109対99、109対99)

 11回終了間際、クリンチ際のカノのパンチにナーバスになっていたギヤソフが、慌ててカノを押し込んで倒す。その際、カノが右足首を痛めて続行不能となり、この回までの採点で勝敗を決することになる。そうして読み上げられたスコアはいずれも10ポイントと大差がついていたが、私の目には決してそのような内容には映らなかった。

 3ラウンド、両者が右から左ボディブローを返す相打ちを演じると、ギヤソフのブローが一瞬早く刺さってカウンターとなり、カノがヒザをつく。その際、同時にマウスピースも吐き出して時間稼ぎをする(※外れたマウスピースはきちんと洗浄して入れ直さねばならないという世界共通のルールがある)したたかさもみせたが、それ以外にもカノの巧みさが目についた。

 左腕を下げ気味に構えるギヤソフの得意技は、ジャブ軌道で伸ばした左腕を、グローブだけ返して平行移動させ、拳のインサイドで打ついわゆる“ロシアン・フック”だが、カノはこれを徹底したガード、カバーで抑え込んでいった。唯一決まったのは8ラウンドのカウンターのみで、それ以外はほぼパーフェクトにシャットアウトした。ギヤソフはこれを封じられて、まったくリズムに乗れていなかった。
 そしてカノは、メキシカンらしい上手い防御を使いながら、入るタイミング、打ち出すタイミングを手を変え品を変え試みて、右ストレート、オーバーハンド(ボラード)をヒットさせていったのだ。

 カノを呼び込んでカウンターを狙う。ギヤソフはそれらしい仕種を見せ続けたが、ジャッジは“まやかし”にあってしまった。左フックを決められないストレスを常に抱え、精神的に圧迫されていたのはギヤソフだった。

 9ラウンドに、ギヤソフがクリンチをした際に、小さな空間をうまく利用してカノがショートの左フックを滑り込ませた。アゴを打ち抜いてダメージを与え、追撃の右フックもテンプルをかすめてギヤソフがヒザをついた。しかし、ルイス・パボン・レフェリーはカウントを数えなかった。右フックをラビットパンチと見誤ったのだろう。カノにとってはあまりに不運な裁定だったが、このときギヤソフに芽生えた恐怖心が、11ラウンドのプッシングにつながったのだと思う。レフェリーによっては反則を取る行為だったから、ギヤソフはここでも救われた。

 無敗をキープした形のギヤソフだが、あまりにクリーンなボクシングに行き詰まりも見えた試合だった。

ギヤソフ=15戦15勝(9KO)
カノ=46戦35勝(25KO)9敗1分1無効試合

拓真vs.石田の“ネクスト”にバルガスが圧勝で名乗り出る

WBAバンタム級挑戦者決定戦12回戦
○アントニオ・バルガス(27歳、アメリカ=53.39㎏)2位
●ジョナサン・ロドリゲス(25歳、アメリカ=53.57㎏)3位
※使用グローブ=RIVAL白(バルガス)、GRANT白(ロドリゲス)
TKO7回終了

 ダウン応酬となったものの、バルガスの強さだけが目立つ試合だった。

 初回、ロドリゲスが思いきりよく飛び込んで右オーバーハンドをヒットすると、両足を硬直させたバルガスがキャンバスに倒れ込んだ。前戦でカリド・ヤファイ(イギリス)を痛烈に倒した再現のようなシーンだった。

 しかし、バルガスは決して取り乱すことなく落ち着いていた。2ラウンドに入っても、ダウン前までの展開を変えなかった。ゆったりじわじわとロドリゲスに圧をかけ、堅いブロッキングでロドリゲスが瞬間的に叩きつけてくるブローを弾き返す。そして、射程距離に入ると分厚い連打を叩きつけていく。対照的に、バルガスの連打はロドリゲスのガードも弾き飛ばしてしまうような凄まじい威力を感じさせた。特に左フックは切れ味、重みともに素晴らしく、ロドリゲスの右目周りはあっという間に腫れ上がってしまった。
 この回、バルガスは右フックでロドリゲスにヒザをつかせたが、ダウン状態のロドリゲスに左アッパーを見舞ってしまった。ラウンド終了直前だったこともあり、ロドリゲスは難を逃れ、クリストファー・ヤング・レフェリーは3ラウンド開始とともに、バルガスに減点2を宣告した。

 それでもバルガスの心は揺るがない。自信満々にじわじわとロドリゲスを追い、どんどん心身へダメージを与えていく。4ラウンド、距離を詰めていくバルガスにロドリゲスが左フックでアゴをかすめると、バルガスはふたたびガクガクとヒザを揺らせたが、大勢に影響はなかった。必死にガードするロドリゲスに、再三再四6発7発と重い連打を叩きつけて圧倒。ロドリゲスは、フットワークを使って距離を取り、瞬間瞬間で飛び込んで打開を図ったが、バルガスの堅いガードを崩せなかった。

 7ラウンドもバルガスが圧力をかけてロドリゲスを攻めまくる。と終了10秒前の拍子木が鳴ると、スッと下がって距離をとる。ロドリゲスはこれに一瞬気を抜いたのか、次の瞬間、跳びかかるようにして放ったバルガスの左フックがアゴを打ち据えると、背中からキャンバスに落下。なんとか立ち上がってコーナーへ戻ったロドリゲスだが、セコンドに入る父が説得して棄権した。とても賢明な選択だった。

 軽快さや、見た目のスピードはロドリゲスが上回っているように思えたが、バルガスは全体的にゆったりとしたテンポを作りながら、ハンドスピードとのギャップで幻惑するタイプだ。目立たないが、タイミングのズレと踏み込みで放つ左ジャブは、何度もロドリゲスの顔面を跳ね上げていた。そして、自分の間合いに入ってから打ち出す左右フックの猛連打が脅威だ。これを空振りさせられればリズムに乗れないだろうが、遠い距離からは決して無茶打ちをしないから厄介なのだ。

 前日に、ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)をKOし初防衛に成功した井上拓真(大橋)は、すでに昨年の挑戦者決定戦に勝った石田匠(井岡)とのV2戦が既定路線。バルガスは、その次の挑戦者ということになるが、強敵だからこそ、やりがいもあろう。

バルガス=20戦18勝(10KO)1敗1無効試合
ロドリゲス=20戦17勝(7KO)2敗1分

新鋭リベラが大差勝利もドミンゲスも奮闘

WBA&WBCコンチネンタル・フライ級王座決定戦10回戦
○ヤンキエル・リベラ(26歳、プエルトリコ=50.73㎏)
●アンディ・ドミンゲス(25歳、メキシコ=50.62㎏)
※使用グローブ=EVERLAST黒(リベラ)、RIVAL白(ドミンゲス)
判定3-0(99対91、99対91、99対91)

 東京五輪フライ級プエルトリコ代表リベラが、同国選手特有の華麗なポイントアウト・スタイルを披露した。サウスポースタンスから左へのサイド移動を繰り返し、真横のポジションから放つ左が、通常の角度とは異なって有効。最近ファイター化しつつあるが、オスカル・コヤソ(WBOミニマム級チャンピオン)の好調時に似たボクシングだ。

 しかし、敗れたもののドミンゲスも好ファイターだった。セコンドにイスマエル・サラス氏を従える彼は、リベラの速い連打の間隙に右フックを差し込んで抵抗。ポイントを完全にリードしていたリベラの気の緩みもあったろうが、9ラウンドには右のオーバーハンドを立て続けに決めてリベラを棒立ちにし、ダウン寸前に追い込んだ。あれだけヒットを奪いながら、ストップに持ち込めないリベラのパンチの軽さは、今後ネックになるかもしれない。

 リベラは前足(右足)の内側でキャンバスを蹴り、左サイドへと動いていくのが特徴的で、これでリズムを取っている。連打の速さに目を奪われてしまい、ドミンゲスもパンチを追うのに必死だったが、リベラの右足を自由にし過ぎた。ボクシングはもちろん両拳で戦う競技だが、それを形成する両足の戦いでもある。リベラの右足を機能させない策があれば、リズムを狂わせることができ、別の展開を作りさせたかもしれない。

リベラ=5戦5勝(2KO)
ドミンゲス=11戦10勝(6KO)1敗

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