【ボクシングコラム2023-vol.3】“不測”の負傷を考える

 プロ野球、中日ドラゴンズの岡田俊哉投手が、東北楽天ゴールデンイーグルスとの練習試合での投球の際、着地した右足首(岡田は左投手)を捻り、脛も捻りながら倒れ、そのまま身動きも取れなくなる負傷。スタッフが駆けつけたものの担架で運ぶこともできず、救急車がグラウンド内に入って来、搬送される事態となった(※その後の診断で右足大腿骨骨折と判明)。

 マウンドはご存じのとおり土でできている。それまで投げてきた投手たちのスパイク跡に引っかかったのか(通常、後続の投手は自らならすが)、着地した右足で踏ん張ることができなかったのか、本当のところはわからない。着地に失敗して倒れるという選手は以前にもいた(「こける」という感じで笑い種で済んでいたが)が、極めて稀なシーンであることはたしかだ。

 ボクシングに当てはめて考えてみた。

「パンチを出す際に、前足を捻って倒れるようなもんだなぁ」と。やはりそんな場面は試合では見たことがない。が、絶対にありえないとは言い切れない。ひょっとしたら、どこかのジムでの練習中に、起きたことがあるかもしれない。

 考えられるのは、踏ん張る足が負荷に耐えきれなかったという場合。キャンバスに足を取られた、滑ったという場合。後者は試合でもよく見かける。外国人選手に多く見られるが、シューズの裏側が擦り切れていて滑るとか、松脂をつけていないとか。いずれにしても、ボクシングの場合は自ら倒れて負傷する以上に、相手に攻撃される競技だから、なおさら非常に危険。まるでアイススケートのように両足がスーッと滑っていく選手も見かけるが、セコンドはもちろんのこと、試合役員の方々はそこのところ、しっかりとチェックしていただきたい。

 ピッチャーが自らの投球フォームを崩して負傷する。厳しい言い方をする者は、「体がなってない」というのだろう。が、ショッキングなシーンを目の当たりにして瞬間的に思ったのは、スポーツ選手の一挙手一投足の凄さ怖さだ。「鍛え方が足りない」というよりも、鍛えている以上の負荷がかかった……と見えたからだ。

 そう考えると、われわれ傍観者は当たり前のように何気なく見ているが、彼ら彼女らの一歩一歩、1発1発は常にそういう不安がつきまとうということだ。尋常ならざる領域に入っているからこそ、である。

 すっかり運動不足の私たちが、走り出した瞬間にピリッとヒザや腿をやるのとはわけが違う。自動販売機で買ったコーヒーを取ろうとしてぎっくり腰になるのとは次元が異なる。

 ボクシングの“不測の負傷”といえば、代表的なのは「拳を痛める」だが、これはもう、誰もが通るだろう道。骨折してたって、あの人たちは試合を続け、打ち続ける。アゴを折って12ラウンド戦い抜いた選手もいるが、「打たれるほうが悪いんです」と意に介さない。ボクシングはそういう競技だから、と自身を責める。

 最近よく見かける本当の“不測”は脱臼だ。「パンチを打って肩を外すなんて鍛え方が足りん」って怒る人もいるのだろうが、100%以上のものを試合になって出したと考えると、ボクシングの試合の、ある種異常なテンションに想像を膨らませてしまう。
 自ら打って脱臼するのは自分のせいと言えるだろうが、ボクシングの場合、相手に肩を打たれて起こる可能性だってある。いや、脱臼を狙ったわけではないにしろ、「肩にダメージを与えるために敢えて打つ」という戦術は実際にある。だからなおさら恐ろしい。

 試合の中の“不測”にかぎらず。毎日の練習、その一つひとつに常に「ギリギリ」が付きまとう。そう考えると、試合に臨む選手たちの日々の積み重ねの尊さを思わざるをえない。

 試合にはケガが付き物。ボクシングは拳の負傷に加え、カットも往々にしてある。野球でいえば、デッドボールがあり、打球が当たることもある。でも、あの人たちは言う。「アドレナリンが出てたから」ってあっさりと。

 なんだよアドレナリンて。われわれ書く者でいえば、睡魔を消すための『眠眠打破』か。はたまた顔を洗う冷水か。え、『レッドブル』? あれは畏れ多くて買えません。

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