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ゆるい職場-若者の不安の知られざる理由 (中公新書ラクレ 781) 新書 – 2022/12/8

「マネジメントで困っていることは何ですか?」と尋ねると、かなりの頻度で出てくるのが若手の離職問題です。「せっかく育ってきた若手がまた一人辞めてしまった」と、まったく察知できなかったことにショックをにじませ、だから1on1を導入したいという相談をたびたび受けることがあります。新卒社員の3割が3年以内に退職するという話を耳にするようになってもう何年も経ちました。数字的には今もほとんど変わらないようですが、本書によると、その中身や背景事情がかなり変わってきていることが調査によって明らかになってきたとか。

調査結果データをもとに、複数の視点から説得力のある考察が紹介されているのですが、この変化を正確にとらえずに対策を打っても効果が出ない、あるいは有害にすらなり得るということを教えてくれます。一つ例をあげるなら、会社を好きになってもらうことは、もはや離職を思い留める材料にはならないとのこと。むしろ会社が好きという社員に辞めやすい傾向がみられるとか。そこだけ聞くと「???」なのですが、裏側を紐解いていくと、居心地のよい職場だけれども、このままで成長できるのかしら?という声が漏れ聞こえてきます。若手は「不満」で辞めるのではなく、「不安」で飛び出してしまうというんです。

本書は、統計数字だけでなく、その裏にある声を多数拾いながら、何が起きているのかを仮説として示し、そこからどのような対策が有効なのかについての考察を述べていきます。読み進んでいくと、会社にとって重要なことって「社員を辞めさせない会社をつくることなの?」という問いも湧いてきます。もはや単純なリテンション策は骨折り損になりかねないとも読めてきます。この傾向がますます抗えない世の中の動きだとしたら、力を入れるべきは別な方向であり、従来の形態を維持するためのエネルギー消費は無駄に思えてきます。

結局、企業がやりたいことは事業を成功させることに尽きると考えるなら、貢献してくれる人の所属は社内外を問わないですし、どんな雇用形態でもかまわないわけです。100%自社にコミットしている人だけを限定でプロジェクトを組む必要はありません。どうしても欲しいノウハウが社内にないとき、他社で働くAさんに金曜午前中だけ手伝ってもらったり、切り出したタスクを専門家のBさんに渡して期日まで仕上げてもらったりすればよいこともあります。そして、こうした仕組みを作ろうと思えば、おそらく現存するテクノロジーだけで結構できちゃうと思います。事を困難にしているのは仕組みの設計ではなく、会社とはこういうものだという20世紀の既成概念のほうなのだろうという気がします。

もちろん、こうした働き方は、企業側だけの都合だけで成り立つものではありません。ですから、非雇用者にとっても伸縮自在な働き方を可能にしてくれる安心な仕組みが担保される必要があります。その他、大企業が手を引いたら新人は誰が育てるの? ギグワーカー化が進んだ先の社会保障って? など気になる新たな課題は山積ですが、これはもう後戻りできない潮流なのだろうと思います。総じて私の感想としては、波に抗って転覆を待つよりも、勇気をもってうねりの向こうへ船を進めたい気持ちになりました。

なお、著者であるリクルートワークス研究所の古谷氏のレポートがWeb公開されています。今回取り上げた本は『ゆるい職場』という現象にフォーカスして書かれていますが、より広角に捉えた未来予測が背景にあったことを知ることができ、ますます興味が惹かれます。いわく“労働供給制約社会”に向かおうとしている私たちが気にするべきことは、若者がどうだという話では語り尽くせないテーマであり、その視点で読み返すと、ますます未来の解像度が増してきます。

(おわり)


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