ドラッカー『非営利組織の経営』第IV部「ボランティアと理事会」を読み説く
「河童の目線で人世を読み解く」市井カッパ(仮名)です。
「すべての組織と人間関係の悩みを祓い癒すために」をミッションに社会学的視点から文章を書いております。
御覧いただき、ありがとうございます。
今回は不定期連載しておりますドラッカー『非営利組織の経営』の読み解き、第IV部です。
前回の記事はこちら
第IV部、日本語のタイトルは「ボランティアと理事会」ですが、英語ですと、People and Relationship となっており、副題に、your staff, your board, your volunteers, your community とついています。直訳すると、人と関係性、スタッフ、理事、ボランティア、コミュニティ、ということで、どこまでも「人」がこの部のテーマであることがわかります。
この第IV部の全体を見てみましょう。
第1章 人事と組織
第2章 理事会とコミュニティ
第3章 ボランティアから無給のスタッフへの変身|レオ・バーテルとの対話
第4章 理事会の役割|デヴィッド・ハバートとの対話
第5章 人のマネジメント|まとめとしてのアクション・ポイント
では、一章ずつ見ていきます。
第1章 人事と組織
第1章の原題は、People Decisions で、これは直訳すると「人々の決断」となります。日本語訳では、これを人事と訳しているようです。そして文章の内容も、確かに人事に関することが書かれているような気がします。
第III部第2章に、人について、下記のような言及がありました。
これを受けて、この章では適切な人事について語っています。日本語版には細かく小見出しがついていますが、実は英語版にはついていないものもあります。今回は、この小見出しを抜き出すことで、サマリーを作成してみましょう。
人事の原則:すでにいる人材から多くを引き出す
人を育てる:人は失敗することによって育っていく
強みに焦点を合わせる:挑戦するものには機会を与える
ミッションを感じさせる:仕事を労働にさせてはならない
リーダーを育てる:特にボランティアには責任を与えなければならない
チームを編成する:メンバーの強みを知り。その強みを鍵となる活動に割り当てる
トップの継承:辞めていく人のコピーを後継に据えてはならない
小見出しの後に、そこで言われていることのうち、普通じゃないこと、インパクトのあったことを書き出してみました。こうすると、ドラッカーの主張がよくわかる気がします。
ドラッカーが繰り返しているのは、非営利組織のまさに組織の形の部分です。エリート扱いしてはいけない、階層を作ってはいけない、仕事が遅かったり失敗するのは仕方がないが、挑戦しない人には辞めてもらう、など、組織がかなり柔軟で、変化に対応できるような組織をイメージしているようです。リーダーシップのあるボランティアが責任を持って活動するような組織。気を付けたいのは、ここで言う責任とは、Responsibility つまりは行動責任。責めを負う、という意味ではなくガンガンいっていいよ、という意味です。そしてもうひとつ。トップもリーダーもチームも同じなのですが、まずは仕事に焦点を合わせ、そこに人を配置する、ということ。そして成果で判断すること。
この章のまとめ部分を引用しておきましょう。
第2章 理事会とコミュニティ
この章の英語版は、The Key Relationship ということで、キーとなる関係性、重要な関係性、という意味です。この章はごくごく短い章です。印象的な文章を抜き出しておきます。
非営利組織が成果をあげるには強力な理事会を必要とする
理事会は資金集めに自ら中心的な役割を果たさなければならない
理事とは地位ではなく責任である
理事会は対立する
非営利組織においてはあらゆる関係が双方向でなければならない
スターは脇役と共にあり、脇役に助けられる存在である
あらゆる関係を双方向のものにしたとき、あらゆる問題が靴の中の小石でしかないことが明らかになる
ボランティアこそコミュニティに生き、かつミッションを体現する存在である
非営利組織は、コミュニティにおいて自らを代表するものとして、彼らボランティアを訓練しなければならない
理事会の話、関係性の話、ボランティアの話が出てきています。
強力な理事会の人選が資金開拓のマーケティングの第一歩、という話は、第II部でも出てきました。
しかし、日本の非営利組織では、まだまだ「地位」としての人選が多く、コミットメント度が低い「名ばかり理事会」が多いのも事実ですし、代表者が理事として理事会に入ってしまっているところも多いです。ドラッカーが想定しているような、理事会とCEOが別に存在し、協力しあうという組織形態は、なぜか日本ではあまり受け入れられてはいないようです。
ちなみに「靴の中の小石(a pebble in one's shoe)」というのは英語の慣用句のようで、小さいんだけど目に見えておらず、全体にまで影響を与えているようなもののことを言うようです。単に靴を脱いで取り除けばいいだけの話なんですけどね。
この双方向の話、前の部で、意見対立=信念対立という話がありました。ここにポジションが入り込むと、どちらが正しいか、という話になり、この対立は解消しないどころか、対立があることすら隠れてしまうかもしれません。そしてそういう隠れた対立というのはたいていの場合、組織の生産性を著しく下げるものです。
第3章 ボランティアから無給のスタッフへの変身|レオ・バーテルとの対話
教会の話です。簡単に言えば、教育プログラムを作ることにより、単なるボランティアがもう少しコミット度の高い無給スタッフになったよ、という話ですが、言いたいことはわかりますが、この表現は日本の労働基準法的には少し問題かもしれませんね。宗教というテーマだから成り立つ話かもしれませんが、人はお金ではなく成長を求めて非営利組織の扉を叩くのだ、というのは、ひとつ抑えておきたい観点かもしれません。
第4章 理事会の役割|デヴィッド・ハバートとの対話
こちらも神学校の話です。ドラッカーの言っている強力な理事会、働くCEO、その間のパートナーシップが大事、という話です。ただ、日本の非営利組織では、理事会の中にCEOが入ることもあり、これはドラッカーならどう考えるのか、聞いてみたいところではあります。
第5章 人のマネジメント|まとめとしてのアクション・ポイント
この第IV部のまとめです。最初に非営利組織と企業の違いが書かれていますので、確認のために引用しておきましょう。
まさに非営利組織の経営の難しさ、面白さはここの特殊性に表れています。ここから導き出されることが、下記のような文章になって表現されています。
ここまで見てくると、どうしてドラッカーがあれだけ、ミッションが大事だ、成果が大事だ、と言ってきたのかがよくわかります。非営利組織は確かにコミュニティかもしれませんが、それは寄付を中心とした、他人の援助によって成り立つ組織です。社会に何らかの成果を出さないで、仲良しクラブをやるために寄付をしてくれる奇特な人は居ないでしょう。
そもそも世の中に貢献できずして、何ゆえ非営利組織で働かなければならないのか!
この言葉を胸に、一緒に楽しく困難を乗り越えて、意義のある活動、すなわち成果を出しているからこそ、そこが市民社会にとって意義のあるコミュニティになる、ということでしょう。
ということで、いよいよ最後の第V部に続きます。
現場からは以上です。お読みいただき、ありがとうございました。
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