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ドラッカー『非営利組織の経営』第I部「ミッションとリーダーシップ」を読み説く
ドラッカー『非営利組織の経営』第I部「ミッションとリーダーシップ」を読み説く
お読みいただきありがとうございます。
前回のこちらの記事で、準備が整った感がありますので、これから数回に渡り、ドラッカーの『非営利組織の経営』を読み解いていきたいと思います。
今回の記事では、第I部「ミッションとリーダーシップ」を読み解きます。
と、その前に、目次から、この本の構成を確認しておきます。この本は全5部からなっていまして、それぞれの部が全5章で成り立っています。そのうち1つか2つが対話と言いますか、対談になっていて、最後の5章はまとめになっています。ドラッカーの他の本と比較しても、テキストとして、とてもわかりやすい構成と内容になっています。
ということで、第I部です。日本語ですと、「ミッションとリーダーシップ」という名詞2つになっていますが、原著ですと、”The Mission Comes First: and your role as a leader”となっていまして、若干、ニュアンスが違います。直訳すると「使命が第一:そしてリーダーとしてのあなたの役割」となります。
そして日本語版の第I部の第1章のタイトルが「ミッション」です。
第1章 ミッション
ミッション、という言葉はドラッカーが1973年に著した『マネジメント』で登場した言葉で、官僚主義への批判からマネジメントに必要な役割として示されています。
一般に官僚主義と呼ばれているものは、自分たちが目的であり、組織は手段であると錯覚したマネジメントのことである。これは、マネジメント、特に市場の試練にさらされていないマネジメントがかかりやすい病いである。その病いを予防し、悪化を防ぎ、できれば治すことが、マネジメントの第一の仕事であり、マネジメントに関する第一の仕事である。
ミッションについてはこの後、マネジメントの役割として語られています。
マネジメントには、自らの組織をして社会に貢献させるうえで三つの役割がある。それら三つの役割は、異質ではあるが同じように重要である。
(1)自らの組織に特有の目的とミッションを果たす。
(2)仕事を生産的なものとし、働く人たちに成果をあげさせる。
(3)自らが社会に与えるインパクトを処理するとともに、社会的な貢献を行う。
ドラッカーが非営利組織に着目するはるか前に、組織には「社会的な貢献」をうたっているというのは注目すべきポイントかと思います。もう少しこの部分を見ていきます。
(1)マネジメントには、第一に、それぞれの組織に特有の目的とミッション、社会的な機能を果たす役割がある。企業において、それは経済的な効果をあげることである。企業と公的サービス機関の違いは、この社会的な機能にある。他の機能に違いはない。(中略)病院、教会、大学、軍においては、経済は制約条件にすぎない。
この時代のドラッカーは、あまり政府(ガバメント)セクターと非営利セクターとの区別をしておらず、あくまでも営利企業に着目していたことがよくわかります。
さて、『非営利組織の経営』に戻りましょう。前書きで、ドラッカーはこう時代の変化を書いています。
今日の非営利組織は、非営利組織には収支なるものがないからこそマネジメントが必要なことを知っている。(中略)自らのミッションに集中するにはマネジメントを知らなければならない。
さて、ここで『非営利組織の経営』の第1章に戻りましょう。
いきなり、冒頭の文章が痺れます。
非営利組織とは一人ひとりの人と社会を変える存在である。
かっこいいのですが、イメージがつきにくくもあるので、補足を入れます。この部分については、前書きにもう少し意図が書かれています。
企業は、顧客が買い、払い、顧客のニーズが満たされたとき役割を果たす。政府は、自らの政策が意図した成果をもたらしたとき役割を果たす。非営利組織は、人を変えたとき役割を果たす。非営利組織が生み出すものは、治癒した患者、学ぶ生徒、自律した成人、すなわち変革された人の人生である。
これを見ると、ドラッカーは『マネジメント』で括っていた「病院、教会、大学」を非営利組織の一部である、と認識しているように思います。ただ、さすがに「軍」は政府セクターということでしょうか? この「非営利組織が人を変える」という話は、前記事で『ポスト資本主義社会』での記載されていたことと一致します。
第1章の冒頭の続きです。
したがって考えるべきは、いかなるミッションが有効であっていかなるミッションが無効であるかである。(中略)ミッションの価値は文章の美しさにあるのではない。正しい行動をもたらすことにある。
この章の結論部分も見てみます。
非営利組織には、機会、卓越性、コミットメントの三本柱が不可欠である。ミッションには、これらの三つの要素を折り込まなければならない。さもなければ、目標は到達されず、目的じゃ達成されず、いかなる成果も得られないことになる。やがては組織内の人を動かすこともままならなくなる。
実は英語版のこの第1章のタイトルは、”The Commitment”となっています。上田先生はこれを「ミッション」という風にわかりやすく直してくださっていますが、本当は「覚悟を決める」とでも言った方がいい内容になっています。それでは何にコミットメントするのか? それがミッションということになります。
この章で、ドラッカーは良いミッションとはどういうものなのか、について語っています。まとめると下記のようになります。
・ミッションは行動本位であり、組織で働く者全員が自らの貢献を知りうる
ようにするものでなければならない
・ミッションは永遠のものでよいが、目標によって具体化されていなければ
ならない
・ミッションには、機会、卓越性、コミットメントの3つの要素を盛り込ま
なければならない
第2章 イノベーションとリーダーシップ
翻訳版の第2章のタイトルが、「イノベーションとリーダーシップ」になっていますが、英語版ですと、”Leadership is a Foul-Weather Job” となっています。直訳すると「リーダーシップは悪天候の仕事である」となり、本文では、下記のように書かれています。
幸か不幸か、いかなる組織にも危機はくる。必ずくる。その時がリーダーに頼る時である。リーダーにとって最も重要な仕事は、危機の到来を予測することである。(中略)暴風雨を予期し、先手を打たなければならない。それがイノベーションである。
イノベーションの中身については第II部のマーケティングのところで触れられますので、どちらかというとここはリーダーシップのお話です。ドラッカーが見出しにメッセージを込めがちなのに対して、翻訳の上田先生はコンセプトを抜き出しがちなのが面白いですね。
この章では、リーダーの選出と役割について書いています。
・リーダーを選ぶには、強み、状況、真摯さを見る
・優れたリーダーは「私」とは言わない いつも「われわれ」と考える
・リーダーとしての能力は「人のいうことを聞く意欲、能力、姿勢」「自ら
の考えを理解してもらう意欲」「言い訳をしない」「仕事と自分の分離」
・リーダーとは仕事を通じて自らを作り上げるものである
・リーダーたる者の重要な仕事の一つが、個別的な問題と全体的な問題、短
期的な問題と長期的な問題など、2つのもののバランスをとることである
・リーダーが決定する前には人と相談しなければならない
・リーダーとは、部下や同僚に責任を持つ存在である
第3章 目標の設定 │ ヘッセルバインとの対話
ここでは、「あらゆる女の子のために」というガールスカウトの創立者の言葉をマイノリティ人口の増加という機会にあてはめ、協力者を選んで成果を出した、という話が対談形式で語られます。ミッションを具体的な目標に落とし込む事例になっています。
第4章 リーダーの責任 │ マックス・ドブリーとの対話
組織から人を集める能力を借りている存在であるリーダーには人を育てる責任がある、ということが対話で語られています。リーダーは人を変えようとするのではなく、才能を理解し、可能性を理解し、自己実現の機会を約束せねばなりません、とのメッセージは深いです。
第5章 リーダーであること │ まとめとしてのアクション・ポイント
さて、この第I部のまとめです。これまで見てきたように、この第I部では、ミッションとリーダーシップについて書かれていました。
ドラッカーは最初に考えるべきはリーダーシップではない、と言い切ります。非営利組織はミッションのために存在するのだから、まずはミッションである、と。そして長期の目標を立て、行動し、成果を出す。リーダーは模範になるべきであり、常に優先順位を考えなければならない。そして、そのためにも見直す必要のあるミッションは見直しから始めなければならない。(ちなみにドラッカーは現代の学校のミッションは古くなっているので見直しが必要、と言っています。日本も未だに明治時代引きずっている気もしますので、かなり同感です。)
ここまでリーダーの役割について細かく語り、その上にあるものとしてミッションの重要性を語ったドラッカーですが、この第I部の最後の最後のところで、どんでん返しのような結論になります。
ということは、どういうことになるのか?
ドラッカー自身の言葉を引用しましょう。
あなたはCEOではないかもしれない。週に三時間のボランティアかもしれない。スカウトのリーダーかもしれない。しかし、いまやあなたがリーダーである。非営利組織のボランティアであるということは、社会のリーダーであるということである。
ここまでのところで、リーダーとして書かれていたのは、どこかの組織の誰かの話ではなく、この本を読んでいる読者自身であった、ということをドラッカーは言い出します。なんということでしょう!
続きを読んでみます。
単に投票し税金を納めるだけでなく、みなが能動的に働くという昔のような市民社会をいまわれわれはつくりつつあるということこそ、心躍るまったく新しい事態である。企業がそのような社会をつくることは難しい。参加型マネジメントについて多くのことが論じられているが実現は遠い。企業では実現できないかもしれない。障害が多すぎる。(中略)ところがわれわれは、これを、ひとりひとりの人間がリーダーである非営利組織について実現しつつある。(中略)こうしてわれわれは、非営利組織を通じて明日の市民社会をつくりつつある。その市民社会では、みながリーダーである。みなが責任をもち、みなが行動する。みなが自らは何をすべきかを考える。みながビジョンを高め、能力を高め、組織の成果を高める。
非営利組織で働くということは、あるいはボランティアすることは、自らの関心と価値観に従い、社会や世界を少しでも良い方向に変えるために主体的に行動することです。非営利組織はこうしたリーダーばかりで構成され、それが新しい市民社会となる、とドラッカーは言っています。
これがまさに、ドラッカーが『非営利組織の経営』に込めた願いであり、この書籍の目的でもあるのでしょう。
最後にドラッカーは読者に行動を促して、この第I部を締めくくっています。
したがって、もはやミッションとリーダーシップは、読んだり聞いたりするものではない。実践するものである。よき意図と知識を、成果をあげる行動へと転換するものである。来年ではなく、明日の朝転換するものである。
お勉強してるんじゃねーよ、行動しようよ、というドラッカーの強力な呼び掛けですね。
もともと、この『非営利組織の経営』はまさに、このセクターに関わっている方が読むことを想定されているかと思います。途中、ドラッカーは、「非営利組織では、性急さよりも鈍重さによる失敗のほうが多い」(P.29)とも書いています。リーダーシップとは考えることではなく、行動することなのだ、というドラッカーの強いメッセージを感じます。
さて、あなたが非営利組織に現在、関わっていなくても、問題・課題と考えていたり、関心のある社会課題というのは存在しているでしょう。
それに対して何か行動を起こすことがリーダーシップであり、その行動の指針となるものがミッションになります。
では、あなたがこの生涯を通して実現したいミッションとは何か?
実は『非営利組織の経営』の第V部第5章、最後の章に「何によって覚えられたいか」というドラッカーの問いが出てきます。そして「この問いを問わなければ、人は焦点をなくし方向を失い成長を止める」(P.238)と厳しいことを言っています。これはまた、最後のところで触れたいと思いますが、実はこの第I部の結論は最終章につながっていくのだ、ということだけ、ここでは示しておきたいと思います。
まずは、あなたのミッションを考えてみてはいかがでしょうか? そこからあなたのリーダーシップが生まれてくるのです。
第I部はこの辺で。第II部に続きます。
現場からは以上です。
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