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決算書のデジタル授受(金融機関)
2024年11月に、野村総研から面白いレポートが公開されました。
金融機関が受領する紙の決算書を並べるとハワイに到達する長さになるとのことです(笑)
これは金融機関だけでなく、補助金申請や企業統計アンケートの提出など、企業が外部に情報を提出する場合は、ほとんどが紙なので同じような状況です。ハワイどころの騒ぎじゃなく地球を1周すると思います。
実は、弊社の経営データプラットフォーム「bixid」のシステム開発に着手した、1つのきっかけがこの「決算書のデジタル授受」にあります。
1:金融機関の決算書関連処理
金融機関は、与信や融資の「定量的」判断のために融資先から決算書を定期的に入手しており、関連当事者を含めると以下のような処理をしています。
※金融機関:今回は銀行・信用金庫・信用保証協会を指します
(金融機関)融資先に決算書の提出を依頼
(企業)決算書のコピーやPDFを準備 ※会計事務所に依頼するケースも
(企業)金融機関に決算書を送付 ※持参・郵送・メール
(金融機関)担当者が内容を確認 ※書類不備等
(金融機関)決算書を本部処理センターに送付
(金融機関)OCR・手入力にて「融資管理システム」に登録 ※チェック
(金融機関)決算書のコピーやPDFを保管
2:決算書関連処理にかかるコスト
基本「紙」なので、コピー、郵送、手入力、連絡など色んなコスト(負担)が発生しています。PDFは紙ではありませんが、「データ」ではなく電子「ファイル」なので「データ化が必要」です。
レポートにもあるように、「直接的」に決算書の処理に掛かる時間は30分程度とされています。しかし、これは金融機関スタッフが直接作業をしている時間と想定でき、先に記載した工程では企業側の時間コストや印刷コスト、郵送等に関わるコストなど、多くの副次的なコストが発生しています。
以前、弊社が複数の金融機関に時間コストも含めた実質的なコスト計算をしてもらったところ、レンジがありますが、1件処理するために¥4,000 ~¥13,000のコストが掛かっており、平均値は約¥7,000でした。
このコストは「建設的で前向きな投資コスト」ではなく「単純なマイナスコスト」であると言えます。
3:会計システムと金融機関
現在、多くの会計システムベンダーは方法は様々ですが、金融機関から会計仕訳の元となる預金入出金情報を「データ」で受領して、仕訳を自動作成する機能を提供しています。データチェーンにより、効率化合理化が進んでいます。
■金融機関→企業会計
(現在)
・預金入出金データ → 仕訳データ → 決算書データ
(以前)
・預金入出金データ → 紙の通帳 → 仕訳データ → 決算書データ
■企業会計→金融機関(決算書)
(現在)
・決算書データ → 紙の決算書 → 融資審査データ
以前は、お互いにデータを「紙」にして渡していたのですが、現在は金融機関からデータをもらって決算書データを生成するのに、金融機関には引き続きデータを「紙」にして返しているのは、少し皮肉な状況と言えます。
4:紙の決算書のやりとりを続ける理由
「決算書データをそのまま金融機関に渡せばいいじゃないか?」と誰もが思うところですが、以下のような阻害要因があり、PDFや紙のOCR処理が主流です。
■企業要因
・紙でもPDFでもすでに形になっているからそのまま渡した方がラク
・決算データを渡す「手段」がない
・データで渡す「インセンティブ・理由」がない
・会計事務所が代わりにやってくれるのがラク
■金融機関要因
・決算データを受領する「手段」が少ない
・受領手段が複数あるとオペレーションが統一できない
・決算データを受領できても、「形式がバラバラ」
・非対面強化のため、今は金融機関ポータル構築の優先順位が高い
・金融機関内のシステムの改修コストが膨大
■その他要因
・日本固有の多種多様な会計ソフトの存在:形式がバラバラ
※規格統一の試みは過去にありましたが、その話はまた別途。。。
5:会計データ標準化技術とbixid
弊社は、もともと「会計データの標準化」に関する特許技術(特許第5261643号)を開発しており、この技術を活用した「財務維新」というオンプレ型のシステムを提供してまいりました。(対応会計ソフト数は150ソフトを超えています)
つまり、日本に存在するほとんどの会計ソフトの「年1の決算データ」だけでなく、毎月の「試算表データ」と日々の「仕訳(取引明細)データ」を統一規格にしたデータを生成して活用するサービスを提供してきました。
そんな2017年に、この会計データ標準化技術を「紙での決算書のやりとりを解決するソリューションに活かせる」という構想のもと、当時の電通国際情報サービス(現:電通総研)と「会計データのデジタル授受」のサービスを構築することになりました。それが現在のbixidの開発のきっかけです。
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※プレスリリース:ISID_20170515_ABLINK.pdf
6:決算書のデジタル授受への挑戦
当時は「Fintech(フィンテック)」という言葉が流行し、今では当たり前に使われる「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉がまだまだ日本では目にしない時期でした。当然、コロナ前で今のようなデジタル化の意識は圧倒的に低かったと言えます。
そんな中、決算書のやり取りに関する課題を解決するべく、金融機関を巡っていました。この構想自体、ネガティブな意見はなく「そうするべきだ」という共感がある一方で、先に挙げたような阻害要因との衝突することになります。bixidは企業側の阻害要因とバラバラな会計データの要因はクリアできます。しかし、金融機関側の受け入れ態勢が一番大きなハードルだったのは事実と言えます。
しかし、この領域への世の中の関心自体は高く、われわれは日本IBMと共に一大プロジェクトに参画することになりました。現在、このプロジェクトは様々な事情により終了しておりますが、弊社はいずれ来るであろうタイミングに備えています。
※IBM Japan Newsroom - ニュースリリース
7:これから
bixidは、「単なる決算書のデジタル授受のためだけに利用するプラットフォーム」では、当事者である企業およびサポートする会計事務所が利用するものにはならない(普及しない)という信念のもと、2017年より開発を進化させてまいりました。
企業は会計データを企業経営(未来のための会計)に活用でき、会計事務所は対企業サポートのための月次決算の定着化・監査の合理化・付加価値ソリューションとして活用できるものとして進化を続けています。
いつか、企業と会計事務所が日常的に自分たちのために利用する「ついで」に金融機関にも必要データを送信できる。金融機関は企業への支援(モニタリング)に集中できるようになる世の中を目指して、引き続き尽力してまいります。