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茜唄(上)


茜唄(上)

平家物語の作者らしき人物が西仏という琵琶法師に平家物語の稽古をつける所で各章が始まるこの小説。
今村作品に外れ無し。この小説も面白かった。
主人公は平知盛。平家の棟梁、平清盛の四男である。
清盛の一番のお気に入りだったという。学問も武芸も優れていて文武両道だったが身体が強くない。平家の人物でありながら人望も厚い。
大体の源平物で描かれる平家はどちらかと言うと悪役で描かれることが多い。歴史と言うのは勝者の歴史でもあるわけでそれは仕方がないのだが、
この小説では必ずしも平家は悪役として描いてはいない。
悪名高い「南都焼き討ち」もそれなりの理由があったものとして描かれている。(知盛は反対するも、清盛が汚名は全て自分が負うとして行った。)

物語は各地で源氏の反乱が起き、清盛の体調も日々悪化し、平家の支配体制が弱体化していく中で近衛基実の娘が反乱軍に捕まってしまい、知盛とその従兄弟の平教経が二人で救出する所から始まる。この教経、「王城一の強弓精兵」と言われるくらいの強者で、豪快なキャラクターをしている。今村作品には必ず魅力的な登場人物がいるのだが、私にとっては「茜唄」ではこの教経だと思う。

東国で源頼朝が挙兵し、美濃・尾張でも木曽義仲が反乱を起こす。
追討に向かう平家軍を蹴散らしながら京都に向けて進軍を続ける中、病床で清盛が知盛に宿題を出す。その宿題とは「なぜ頼朝を殺さなかったのか?」
清盛のことである。頼朝を助ければいずれこうなる可能性があったことは
予想できたはず。そして考え抜いた挙句、知盛は一つの答えを病床の清盛に伝える。それを聞いた清盛は安堵の表情を浮かべて、息を引き取る。
その答えとは?

清盛の死後、源氏(義仲)の勢いは益々強くなり、京都に近付く。
これに対して清盛の後を継いだ平宗盛は一門をまとめることができない。
宗盛も無能ではないのだがそれは平時において。それまで清盛というあまりにも大きな存在に一門の者は皆、頼り切ってしまっていたためこういう時にこそ一枚岩にならないといけないのだがそれができない。
結局、平家の命運は知盛に託されることに。
義仲が京都に迫る中、知盛は必ずしも源氏も一枚岩ではないことを逆手に
驚くべき作戦を考える。それは京都を一時引き払い、更には義仲と手を組むというもの。果たしてその作戦はうまく行くのか?
そして暗躍する後白河法皇。源平物では必ず悪役として描かれるお方だが、この小説でも自分の保身、権力欲のためにその都度、一番力のある武士を利用し、利用価値が無くなればあっさり切り捨てる。最初は清盛、次に義仲、更には新宮十郎。挙句の果てに孫でもある安徳天皇を見捨てる卑怯な祖父という描かれ方をしているが、恐らくこの人の立場に立てばそれなりの事情はあったのだろう。

更に西仏と知盛、教経との因縁。上巻だけでも読み応え十分だが、西仏に平家物語を伝授しているのは誰か。知盛はどのような道をたどって壇ノ浦に至るのか。源義経はどのような形で登場し、知盛と交わるのか。など興味は尽きない。下巻を読むのが楽しみである。

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