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【トークイベントレポート】動物目線の驚異のカメラワークは黒澤明監督『羅生門』の影響!? ヴィクトル・コサコフスキー監督×想田和弘『GUNDA/グンダ』

名優ホアキン・フェニックス(エグゼクティブ・プロデューサー)と“最も革新的なドキュメンタリー作家”ヴィクトル・コサコフスキー監督がタッグを組んだ『GUNDA/グンダ』が、ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか絶賛上映中です。

この度、公開を記念して、12月15日(水)ヒューマントラストシネマ渋谷にて、ヴィクトル・コサコフスキー監督『選挙』『精神』などの「観察映画シリーズ」で知られる映画作家・想田和弘さんのオンライン対談を行いました!

(以下イベントレポート掲載)

動物目線の驚異のカメラワークは 黒澤明監督『羅生門』の影響だった!?


監督:ずっと自分の作品を日本で上映してもらいたいと思っていたので、今日はこのような場を作ってくださってありがとうございます。日本の観客の皆さんだったら自分の作品のことを分かってくれるはずと思っています。この作品を気に入ってくれたら嬉しいです。

想田:日本人は絶対に“わかる”と思う。というよりも、この映画は「国籍」や「人間」というものを超えていて、もっと「生命」「宇宙」「地球」といったものを感じる、非常にスケールの大きい映画だと思います。

監督:とても嬉しいです。想田監督の作品を拝見しましたが、お互いに題材や被写体へのアプローチの仕方などが似ていますよね。今回『GUNDA/グンダ』では動物たちの感覚や視点を重視して撮影をしました。そのためにステディカム(カメラ安定支持機材)のシステムに手を加え、ローアングル、つまりニワトリやブタの視点から撮影したんです。それによって彼らの観る世界を映す撮影になっていると思います。カメラワークについて、私は黒澤明監督の『羅生門』(50)から影響を受けている部分があり、それも感じ取っていただけるのではないかと思います。やはり映画作家たるもの、日本の映画にどうしても影響を受けるものです。

監督:本作製作のきっかけについて、私はもともと「ブタ、ニワトリ、ウシの三位一体」をテーマとした作品を撮りたいと思っていました。誰も真剣に取り合ってはくれませんでしたが、本作のプロデューサーが私を信頼してくれて20年ごしに製作がようやく叶ったのです。
私は都会っ子として育ちましたが、4歳の時に郊外の村で数ヶ月を過ごしたときに生後1ヶ月くらいの子豚に出会いました。一緒に遊んでいるうちに私の親愛なる友人となり、共に過ごした時間は幼少期の最も大切な思い出です。しかし、ある日子豚は夕食のテーブルにあがりました。私はそれ以来お肉を食べるということが想像もできなくなってしまいました。

毎朝4時起きで現場にスタンバイ!
撮影のカギはいかに彼らと“ファミリー”になれるかどうか


想田:観客の皆さんが気になっているであろう、撮影の謎を聞いてみたいです。僕自身もドキュメンタリーを作る人間として、普通は他人の作品でも大体どういう風に撮ったのかというのは想像がつくのですが、どうしてもわからないところがあり、僕の想像の範囲を超えた技術や工夫をして撮っている部分があると感じました。
ステディカムを改良してローポジションから撮れるようにしたとのことですが、それだけではなく、ドローンも使っているだろうし、何よりも非常に狭いはずのブタ小屋の中でカメラが動くのが不思議です。手前に柱があって、柱をなめながら、しかもカメラがブレずに安定した動きで動く。これは無理なんじゃないか、と思ってしまいますが、どういう風に撮られたのでしょうか?

監督:仰る通り、ステディカムだけではありません。土を少し掘って、見えないようにはしていますがトラックを引いて、動けるようにしたりと、そういったコンビネーションでカメラの動きを作っています。そして、今の時代、誰もがスマホを持っていて、カメラを使うことができる。だからといってみんなが映画を作ることができるわけではないと思っています。映画監督であるからには、プロフェッショナルなレベルを保つ撮影をしていかなければいけません。そして、撮影を通して常に観客へのサプライズを用意したいと思っているので、毎回映画に取り掛かるときに、どんな風に撮影したら驚いてもらえるかを考えながらアイデアを練っています。

動物のキャスティングには半年ほど時間をかける予定だったのですが、リサーチの旅で最初に訪れた農場で、母ブタGUNDAに出会い、彼女の方からこちらに寄って来てくれたんです。そこでプロデューサーに「メリル・ストリープを見つけた。もう(キャスティングは)大丈夫だ」と伝えました。そこで彼女が妊娠していることも知りました。
そして、彼女が実際に暮らしている小屋と似たようなデザインの小屋を制作しました。ただ一つ違うのは、360°カメラのレンズの部分が中に入れる隙間がある構造にしたことです。人が入れなくてもレンズがどこからでも入れられることによって、内部を撮影することに成功しました。
もう一つの鍵は、いかに彼女たちとファミリーになれるか、ということです。撮影に入る1週間前から現場に入り、(GUNDAの方から寄ってきてくれるけれど)こちらからもアプローチをしました。毎日、GUNDAと子供たち全員が眠るまで農場にいて、彼女らが起きる前の朝4時から現場でスタンバイをしておく。そうすると、彼女らには私たち映画スタッフが環境の一部だと感じてもらえるようになります。それが撮影の一つのゴールでした。今回撮影したニワトリは、捕らわれているカゴから初めて解放された瞬間を撮影したため、草に初めて触れるあの感じも、お湯に触れてしまったかのような恐る恐るした様子に見て取れたかと思います。

1215イベント② (1)

カメラを通して被写体をリスペクトするということ


監督:私にとっては撮影の技術より被写体をリスペクトをしているどうかが非常に重要です。それが人であろうと、ブタであろうと関係ありません。カメラはリスペクトを表すひとつのツールと考えています。例えば、日本の首相を撮るときと同じくらいにリスペクトを持って撮影に挑みました。リスペクトというと、私は日本人の空間へのリスペクトというものを感じています。日本とロシアの人口は同じくらいですが、土地の大きさはロシアが約100倍あります。空間の限られている日本では、個人同士の空間が尊重されていると思います。ロシアには、ひとりひとりの空間が十分にありすぎて、そのような意識がもともとありません。映画の企画として、「同じくらいの人口の2つの国だけれど、土地の広さに大きな差がある。その二つの視点で個人的な空間とそれに対するリスペクトの差」というテーマで撮ってみたら面白いんじゃないでしょうか。興味のあるプロデューサーはぜひご連絡ください。

ラストシーンでGUNDAが私たちに語りかけたものとは

(※以降、ラストシーンのネタバレ記載あり)

想田:この映画の中で特に印象的且つ強烈だったのは子ブタたちが連れていかれるシーンですが、監督は子ブタたちの姿は見せませんでした。あれは非常に効果的な選択であったと思うのですが、なぜそうしたのでしょう?また、GUNDAが子供たちを探す長回しがすごく緊張感があって、それがグンダの気持ちをひしひしと伝えて来るなと感じました。あのとき実際に連れ去られたのですか、それとも音だけで処理をしたのでしょうか?

監督:通常、子ブタの99%は10日~2週間ほどで母ブタから離されてしまうそう。8ヶ月くらいまでで屠殺場に連れていかれてしまうのですが、この映画の舞台となった農場のオーナーの方はブタに対して思い入れがあり、普通のコンクリートの檻のようなところではなく、小屋を建てて20メートル四方くらいのスペースを設けて通常より長い、2ヶ月ほど子ブタと母ブタが共に過ごせるように飼っている農場でした。ラストシーンはGUNDAの行動にまったく介入せず、ある程度距離を置いて撮影し、編集もしていません。どのカメラで、どのレンズで、どのポジションから撮るというのはとても重要な選択でした。今回は敢えてズームで撮っていません。ズームすることで観客に感情を押し付けたくなかったからです。そして、共に時間を過ごし、関係性を育んできたのでGUNDAの方からこちら寄ってきてくれるだろうと思っていました。このシーンはミディアムレンズで撮影をしましたが、彼女は実際にこちらにやってきて、こう語りかけました。「あなたたちは何をしているのか」と。僕には、はっきりとそう言っているのが分かりました。

最後に、2020年から1年間で、世界的にブタは150億匹、ニワトリは6600億匹、ウシは5000万匹、ほかにもアヒルや七面鳥や魚、たくさんの動物が食用として殺されています。加工したり冷凍したりして搬送され、料理され、食事になりますが、それは自分としては理解しがたいことです。例えば水にアクセスがない人が10億人いるとします。ウシは人間に比べると10倍の水が必要になります。人間でも水が不足しているのに、その人間の食事となるためのウシに10倍の水、そして飼料を用意しなければいけないというのが個人的には腑に落ちないのです。
生き物は殺したくないし、できれば皆さんが菜食主義になれば世の中はもっといい場所になると思う。そういった思いも含めて最後に僕のメッセージを、この映画を受け取ってもらえたら嬉しいです。

◇ ◇ ◇

母ブタ“GUNDA”と農場に暮らす動物たちの深遠なる世界。
イマジネーションを刺激する【93分】未踏の映像体験。

ある農場で暮らす母ブタ GUNDA。生まれたばかりの子ブタたちが、必死に立ち上がり乳を求める。一本脚で力強く地面を踏み締めるニワトリ。大地を駆け抜けるウシの群れ――。迫力の立体音響で覗き見るその深遠なる世界には、ナレーションや人口の音楽は一切ない。研ぎ澄まされたモノクロームの映像は本質に宿る美に迫り、驚異的なカメラワークは躍動感あふれる生命の鼓動を捉える。ただ、そこで暮らす生き物たちの息吹に耳を傾けると、誰も気に留めないようなその場所が、突如 “無限の宇宙”に変わる――誰も観たことのない映像体験が待ち受ける。
斬新な手法と叙情豊かな語り口で描かれる映像詩に、名優ホアキン・フェニックスがエグゼクティブ・プロデューサーに名乗りをあげ、世界の名だたる映画作家たちが大絶賛!これまでに国内外で100 以上の映画賞を受賞し、“最も革新的なドキュメンタリー作家”と称される、ヴィクトル・コサコフスキー監督渾身の傑作ドキュメンタリー『GUNDA/グンダ』をスクリーンで体感せよ!


ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほかにて絶賛上映中!

【公式SNS】 Twitter / Instagram / Facebook 

【公式サイト】https://bitters.co.jp/GUNDA/




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