【掌編】飛行機が怖いんだ
窓の外、飛行機の翼の上にグレムリンが立っている。
ああ、これ、何の映画だったっけ?
キーキー鳴きながら楽しそうにジャンプするそいつと、窓越しに目が合った。
グレムリンは俺に向かって何か訴えるように鳴き続け、さらにばたばたと暴れるように飛び跳ねたりくるくると回る。
飛行機は苦手だ。
何でこんなでかい鉄の塊が空を飛ぶのだろう。
だから、乗り込んだらなるべく早く眠ってしまうことにしている。
目が覚める頃には目的地で、その間は恐怖を感じなくて済む。
そう、俺は飛行機が怖い。
だからこんな夢を見ているんだろう。
──夢か。
夢だな。
翼の上にグレムリン?
あれは、なんて言う映画だったっけ……?
グレムリンは楽しそうにぴょんぴょん飛び跳ね、窓の内側にいる俺に話かけているように見えた。
ごめんな、お前の言葉は分からない。
どうせ夢だけど。
アナウンスの声が遠くから聞こえてきて、ゆっくりと覚醒した。
左手を持ち上げ、腕時計で時間を確認したら、デジタルの数字が到着予定時刻の1時間前を表示していた。
結構眠ったらしい。
隣の席の乗客は、アイマスクとヘッドフォンで低くいびきをかいている。どうやら熟睡しているらしく、アナウンスの声にも目を覚まさない。
変な夢を見た。
窓の外にグレムリン。
──思い出した、あれは確か「トワイライトゾーン」というオムニバス映画だった。
けれど、夢の中で翼の上にいたのは、映画「グレムリン」のギズモの方だった。変身前のかわいい方のやつ。
夢とは不条理だ。
これを悪夢と言っていいのかは少し悩むところだ。
俺は飛行機が怖い。
けれど、翼の上のグレムリン──ギズモは別に怖くない。
キリキリキリ。
どこかで音がする。
シェードの閉まった窓の外から。
隣の乗客のいびきが止まり、その音に気付いた。
俺は、飛行機が怖い。
こんなでかい鉄の塊が空を飛ぶ、ということが未だに納得できない。
けれど、それ、が怖いわけじゃない。苦手、というだけだ。
キリキリキリ。
音がまた、聞こえる。
一旦深呼吸して、心を落ち着けてから、ゆっくりとシェードに手を伸ばす。
キリキリキリ。
キリキリ。
上空1万メートル、広がる青空。
窓の外には足場などあるはずもない。
なのに、シェードを上げた窓の向こう、髪を振り乱した女性の手のひらと顔が貼りついていた。
キリ、キリキリ。
ガラスに押し付けられるようにつぶれた顔が、ぎこちなく左右に動く。骨がきしむような音を立てて、何度も何度も。
俺は飛行機が怖い。
乗り込んだらなるべく早く眠ることにしている。
こんなものを見なくていいように。
キリキリキリ。
ガラス越しに女と目が合った。
女は動きを止めた。きしむような音が止み、覗き込むように俺を見つめ、にたあと笑った。
だから飛行機が怖いんだよ。
俺は溜め息をついてシェードを下ろし、ヘッドフォンをつけてシートに身体を倒し、再び短い眠りにつくことにした。
了
snowさんの怪談三題噺のお題は「キリキリキリ」「飛行機」「覗き込む」です
#shindanmaker#怪談三題噺
https://shindanmaker.com/741540
お題は「診断メーカー」様の診断から。
見出し画像は「ぱくたそ」様(www.pakutaso.com)からお借りしました。
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