【掌編】雨の匂い
雨が嫌い。
くせっ毛はどんなに必死でブローしても、1時間もすれば湿気で広がり、うねる。
傘をさして歩くのが苦手で、いつも靴を汚してしまう。落ちる雨粒と、歩くたび水たまりを跳ね上げて、靴下までじわりと染みる。
混雑した電車の中は蒸れた匂いでいっぱいになり、濡れた傘が足元に貼りつき不快になる。
雨には昔からいい思い出がないから、気分も上がらない。
下校中、突然降り出した雨に、隣で、彼が覗き込むように空を見ていた。
「止みそうにない」
土砂降りに変わった雨が、周りの音をかき消す。隣に立っているから、その声だけはかろうじて聞き取れた。
「しばらく足止めだ」
シャッターの閉まった商店の細い軒下、アスファルトを叩くように落ちてくる雨粒が、足元まで跳ね返る。ここに駆け込む前にすでに全身濡れている今は些細なことだ。
雨が降る。大きな音を立てて、周りから音を奪う。
肩が触れた彼の顔が近づいて、目を閉じた。
どこもかしこも雨の匂いがする。
唇が離れて目が合ったら、彼が笑った。
雨はいい思い出がないから嫌い。
なのに、こんな小さなことで。
責任とって一緒に好きになって。
優しい笑顔で、また雨の日にキスをして。
了
snowさんは『責任とって』もしくは『雨の匂い』というお題で、500字小説を書いてみてください。
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https://shindanmaker.com/746629
どちらのお題も回収しました。
スペース込み500文字。