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Sweet Stories Scrap マンスリー Vol.4 2020/11
noteマガジン「Sweet Stories Scrap(SSS)」はnoteに発表されている短編小説から、独断と偏見で選んだ『ステキな小説のスクラップブック』。月イチで批評を記事にして配信中。みんなのお気に入りの書き手もぜひ教えてくれよなっ✌
先月「めっきり秋らしくなった」って書いたのに、11月なのに『夏日』が続いたりして「まったくどうなってるんDA!」とか思ってたら、急にめっちゃ冷え込んだりして。皆さん、体調は大丈夫ですか?
さて、今月の3作品。
アンコールの響かない街で/The Lotos-Eaters
時間にすれば、とあるジャズライブで最後の曲のリクエストを募ってから、曲が奏で始められるまでのほんの短い間のストーリー。その間に、書き手の頭に巡った情景が淡々。
この「Sweet Stories Scrap(SSS)」の連載を始めて今回で4回目だが、たった一人で選んでいるので、どうしても選ばれる作品には傾向がある。その一つが「結末の解釈を読者に委ねる」というもの。この作品もその一つ(というか今回選んだ作品はほぼそのパターンだ)。
偶然、解釈が幾通りにも取れるようになっちゃったのかといいとそうではないはず。書き手としてあえて、言い切らない。描き切ってない。それは読者を信じることでもあるし、読者を試すことでもある。読んでてちょっとヒリヒリして、書き手と読み手の間にコール・アンド・レスポンスが成立したような気になるんだよね。えっ、ならない?
「誰かひとりでも、この曲をずっと心に留めていただけたら嬉しいです」
「誰かひとり」って『僕』(この小説の書き手)のことなのかどうかは、明示的には書かれてはいない。ただ、その後に続く「どこかで聴いたことのあるメロディが」の一節で、この曲が『僕』の大切な一曲であることは何となく読者に伝えられる。
ほら、「いちばんたいせつなことは、目に見えない」って狐も言ってるじゃん。あれと一緒だよ。全部言っちゃうのは野暮なの、野暮。
いつか同じ景色を。/サカエ コウ。
これぞ、ショートショートの醍醐味。
あと数行読みたい。何なら数ページ。いやいや、短編小説ぐらいには長くしてもらっても良いんじゃないか。そう思わせたら書き手冥利に尽きる。この一遍は超短いのに4段構成。それぞれが起・承・転・結に見事に当てはまる。
3段目はわずか15文字。なのに、主人公の期待が失意に変わる様子が伝わる。秋の庭の情景、先生への思慕――そういった情報を、2つの前段でしっかりと読者に伝えているからだ。
秘密/月町さおり
怖いのが苦手。映画も高い所も。なのに選んじゃった。
冒頭のテンポが説明が過剰なような気がするくらいゆっくりで、読んでいて少しダレそうになった頃に物語が動き出す。実はこの「説明」がストーリーに現実味を与えていて、後半の展開の荒唐無稽さを消してるんだと思う。その作者の思惑とそのとおりに描き切れる筆力のバランスが良い。
やっぱりこれ、ミステリー小説、なんだろうなあ。短いのによくこんなに上手くかけるなあ。
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お別れの曲は、今回選んだ作品『アンコールの響かない街で』の中で演奏されていた曲。女性トランペッターの音色が秋の夜に優しい。曲を聴いてから、もう一度作品を読み直すのもまた良きかな。
じゃあ、また。
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