【童話読み聞かせ】負けたっていいの
ちょっとおちゃめな魔法のようなことば「ペケロンパ」。童話の読み聞かせを「聞かせよう」。そして、みんなで読み聞かせを「してみよう」。
このペケロンパ・プロジェクトは読み聞かせによって子どもとの暮らしを応援しています。詳細はこちらの記事でご紹介していますので、良かったらご覧ください。
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▼まずは動画で聞いてみよう!
童話家・出村孝雄による読み聞かせの口演の音源を元にイラストをつけて動画にしています。
▼読み聞かせをしてみよう!
このお話の目当て
とかく競争の激しい現代では、劣敗のうき目をみる子が多い。しかし、競争の結果を云々することよりも、真剣にとっくめばそれでよい。たとえその競争に負けても、どの子にも、その子自身の長所のあることを感じさせたい。
読み聞かせのポイント
ウサコは、いつもにこやかな、かわいい女の子ですから、負けたときの表情や言葉も、にこやかさを、くずさないようにしてください。水槽によじのぼったコンタやワンキチが、いばる場面がありますが、この両者のせりふは、いかにも憎らしく工夫して語ってください。
おはなし:出村孝雄 / え:田島和泉 / 著書:出村孝雄 / 制作:Bit Beans
▼おはなし
うさぎのウサコちゃんのところへ、きつねのコンタが、やって来ました。
「ウサコちゃん、遊ぼうよ」
「ええ、いいわ。なにして遊ぶの」
「力くらべしよう」
「コンタちゃん。力くらべって、なにするの」
「ウサコちゃん、ぼく、ここに太いつなを、持って来たんだ……。さあ、このつなで、つなひきをしよう」
コンタは、ウサコちゃんの前に、太くて長いつなを、のばして見せました。
「ほら。ウサコちゃんは、そちらのはしを持ってね。ぼくは、こちらのはしを持つよ……。そして、一、二の三で、このつなをひっぱるのだよ……。ね。さぁ、つなひきをしよう」
「わたし、はじめてだけれど、やってみるわ」
ウサコちゃんとコンタは、つなひきをはじめました。コンタが、
「エーンヤ」
と、かけ声をかけて、つなをひくと、ウサコちゃんも、
「エーンヤ」
力いっぱい、つなをひっぱりました。
「エーンヤ」「エーンヤ……」
声をはりあげて、ひっぱっているうちに、ウサコちゃんは、グン、グン、コンタにひっぱられて、とうとう、つなから手をはなしてしまいました。
さあ、たいへんです。コンタは、ステーンと、しりもちを、ついてしまいました。
「おお、痛い、痛い。しりもち、ついちゃった……。でも、つなひきは、ぼくが勝ったんだぞ。ウサコちゃんの弱虫やーい」
ウサコちゃんは、負けても平気な顔で、ニコ、ニコ、笑っていました。
「コンタさん、強いわねえ。わたし、負けちゃった。でも、わたし、一生けんめい、つなひきしたから、負けたっていいの」
その次の日、ウサコちゃんのところに、犬のワンキチが、遊びに来ました。
「ウサコちゃん。遊ぼうよ」
「ええ、いいわ。なにして遊ぶの」
「かけくらべしようよ」
「かけくらべって、どこまで走っていくの」
「ウサコちゃん。ほら、ずっとむこうに、松の木が立っているだろう。あの松の木の根もとまで、どっちが早いか、競争しよう」
ワンキチは、足もとに、一本の線をひきました。
「ウサコちゃん。ここがスタートラインだ。この線の上に、ぼくとならんで立つんだ」
「はい。ここに立つのね。では競争しましょう」
ウサコちゃんは、ワンキチとならんで、スタートラインに立ちました。
「よーい、ドン」
ワンキチが号令をかけると、ウサコちゃんは、ワンキチといっしょに、走りだしました。
ピョン、ピョン、ピョン。ウサコちゃんは、一生けんめいに走りましたが、ワンキチには、かないません。ワンキチは、すごいスピードで、松の木の根もとに向かって、走っていってしまいました。
「やーい、ウサコちゃんは、おそいなあ。ぼく、もう、松の木まで、来てしまったよ」
ワンキチが、松の木の下で休んでいると、ウサコちゃんが、ピョン、ピョン、走ってきました。
「ワンキチさんは、早いわねえ」
「ウサコちゃんは、おそいなあ。ぼくは、競争に勝ったんだぞ」
ウサコちゃんは、負けても、平気な顔で、ニコ、ニコ、笑っていました。
「ワンキチさんは、早いわねえ。わたし、負けちゃった。でも、わたし、一生けんめいに走ったのだから、負けたっていいの」
また、その次の日です。うさぎのウサコちゃんのところに、犬のワンキチと、きつねのコンタが、やってきました。
「ウサコちゃん、遊ぼうよ」
「ええ、いいわ。ワンキチさん、コンタさん。なにをして遊ぶの」
「競争して遊ぼうよ」
「今日は、なにを競争するの」
ワンキチと、コンタが、顔を見あわせて、かわるがわるいいました。
「さっきコンタくんと相談して、よいことをきめたんだ。ね、コンタくん」
「そうなんだよ。ぼくとワンキチくんがね。象のゾウタおじさんのところの水おけに、のぼっていく競争をするんだけどね。ウサコちゃんも、いっしょにやろうよ」
「えっ、あの鼻の長い、象のゾウタおじさんの家の、大きな水おけへ、のぼっていくの……。ええ、いいわ。わたしも競争するわ」
象のゾウタおじさんの、家の前には、大きな水おけがありました。それは象のからだのように、とても大きな水おけでした。
ウサコちゃんは、ワンキチと、コンタと、水おけのそばに来ました。
ウサコちゃんは、この大きな水おけを、見あげました。
「この水おけ、屋根にとどきそうね。中に水が、はいっているのかしら」
すると、ワンキチがいいました。
「水おけだから、水は、はいっているさ……。な、コンタくん」
「そうだよ。ゾウタおじさんは、からだが大きいから、たくさんの水を、飲むんだよ。だから水おけも、大きいのさ。この水おけへ、よじのぼって、水を飲んだって、いいんだよ。さあ、競争して、この水おけへ、のぼってみよう」
ウサコちゃんと、ワンキチと、コンタは、大きな水おけの下に、ならんで立ちました。ワンキチが、
「それでは、ぼく、号令かけるよ。よーい……」
と、いったとき、もうコンタは、のぼっていこうとして、おけに足をかけました。
「コンタくん、ずるいぞ。よーいで、のぼっては、いけないんだ。よーい、ドン、といったら、のぼっていくんだよ」
ワンキチに注意されて、コンタは、びっくりして、足をひっこめました。
「では、もう一ぺんやりなおし。では、号令かけるよ。よーい……。あっ、いけない。またコンタくんが、おけに足をかけたよ」
コンタは、またびっくりして、足をひっこめました。
「コンタくん。こんど号令より先に足をかけたら負けにするよ。いいかい」
「ワンキチくん、だいじょうぶだ。こんどは、号令のかかるまで、じっとしているよ」
「では、ほんとに号令かけるよ……。よーい……ドン」
さあ、ウサコちゃんも、ワンキチも、コンタも、大きなおけに、よじのぼっていきました。
「ヨイショ、ドッコイショ。ヨイショ、ドッコイショ」
のぼっていくうちに、ウサコちゃんは、おくれてしまいました。ワンキチとコンタは、ウサコちゃんを、あとにして、グン、グン、のぼっていきます。
ウサコちゃんは、それでも一生けんめいでした。
「ヨイショ、ドッコイショ。ヨイショ、ドッコイショ」
かけ声をかけて、のぼっていったのに、ウサコちゃんの足がすべりました。
あっ、あぶない、あぶない……。とうとう、ウサコちゃんは、ステーンと、すべりおちて、しりもちを、ついてしまいました。
「おお、痛い」
水おけから、すべりおちたウサコちゃんは、おしりをさすりながら、起きあがりました。大きな水おけの上の方では、ワンキチとコンタが、同じくらいの高さのところを、
「ヨイショ、ドッコイショ。ヨイショ、ドッコイショ」
と競争しながら、よじのぼっていきます。
とうとうワンキチとコンタは、大きな水おけの上まで、よじのぼりました。
ワンキチとコンタは、下にいるウサコちゃんを、見おろしました。
「やあい。ウサコちゃんは、ここまで、のぼれないよう……。な、コンタくん。ウサコちゃんは、どんな競争にも勝てないな」
「ほんとだ。ウサコちゃんは、いつも競争に負けているよ……。やあい、ウサコちゃんなんか、だめだあい」
ワンキチとコンタは、ウサコちゃんを、さんざんばかにしましたが、ウサコちゃんは、平気な顔でした。
「いいの、わたし。一生けんめいに、のぼろうとして、負けたんだから、しかたがないの」
水おけの上にあがったワンキチが、コンタにいいました。
「コンタくん、ぼくらいっしょに、ウサコちゃんに勝ったんだから、大きな声で、バンザイしよう」
「うん、ワンキチくん。では、やろう」
ワンキチとコンタは、声をそろえて、
「バンザーイ」
と、叫んで、手をあげました。
そのときです。あっ、あぶない。ワンキチとコンタは、手をあげたとたんに、大きな水おけの中に、ザブーンと、落ちてしまいました。
水おけの中には、水がいっぱいはいっています。ワンキチもコンタも、せが立ちません。
「助けてえ。助けてえ」
と、呼びつづけました。ウサコちゃんは、おどろきました。
「これはたいへんだ……。ほっておいたら、ワンキチさんもコンタさんも、水につかって死んでしまう……。どうしよう……。あっ、よいことがあるわ」
ウサコちゃんは、象のゾウタおじさんを、呼んできました。
「ゾウタおじさん、たいへんです。この水おけの中に、ワンキチさんとコンタさんが、落ちてしまいました。おねがいです。助けてやってください」
ゾウタおじさんは、あわててしまいました。
「助けるって、どうして助けるんだい」
「ゾウタおじさん。そら、その長い鼻で、水おけの水を吸い出してやって……。それから、その鼻で、ワンキチさんとコンタさんを、水おけから出してやってね……。さあ、早く、早く」
ゾウタおじさんは、
「ああ、よしよし。それっ」
長い鼻を、水おけの中に入れると、水をグイーッと、吸いあげて、シューッと、外へ出しました。
グイーッ、シュー。グイーッ、シュー。水おけの中の水は、吸いあげられて外へ出されました。
水おけの外にいるウサコちゃんが、大きな声でいいました。
「ワンキチさん、コンタさん、早く、ゾウタおじさんの鼻につかまって、早く、早く」
ワンキチとコンタは、ゾウタおじさんの長い鼻の先に、グルリと巻かれて、水おけの中から、助け出されました。
ワンキチとコンタは、ウサコちゃんの前で、ペコン、ペコン、頭をさげました。
「ウサコちゃん。助けてくれてありがとう。競争に負けたからといって、ばかにして、ごめんね」
でも、ウサコちゃんは、いばりませんでした。
「いいの。わたしは、ただ一生けんめいに、ゾウタおじさんに、助けをたのんだだけなの」
ウサコちゃんの前で、ワンキチとコンタは、なんべんもなんべんも、
「ありがとう、ありがとう」
と、いって、頭をさげていました。
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