【童話読み聞かせ】てんぐ風
ちょっとおちゃめな魔法のようなことば「ペケロンパ」。童話の読み聞かせを「聞かせよう」。そして、みんなで読み聞かせを「してみよう」。
このペケロンパ・プロジェクトは読み聞かせによって子どもとの暮らしを応援しています。詳細はこちらの記事でご紹介していますので、良かったらご覧ください。
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▼まずは動画で聞いてみよう!
童話家・出村孝雄による読み聞かせの口演の音源を元にイラストをつけて動画にしています。
▼読み聞かせをしてみよう!
このお話の目当て
柔よく剛を制すということばがありますが、やさしい心や知恵が、すさんだ人の心をやわらげることを暗示してみました。
読み聞かせのポイント
この話に出てくるクマタロもトラキチも、力だけを自慢する無邪気な子ども、てんぐは大男であるが、間抜けのものとして扱えばおもしろくなると思います。
おはなし:出村孝雄 / え:工藤美咲 / 著書:出村孝雄 / 制作:Bit Beans
▼おはなし
山の上に、動物の幼稚園がたちました。
山の木を切ってつくった、美しい幼稚園でした。
幼稚園には動物の子どもたちが、みんな、おぎょうぎよく、こしかけています。園長先生は、メー、メー、やぎの、ヤギ先生です。
ヤギ園長先生は、白いあごひげをなでながら、にこにこです。
「では、これから、名まえを呼びます。呼ばれたら大きな声で、ハイ、とへんじをしてください。では、呼びますよ。くまのクマタロくん」
「ウー、ウォー」
「いけませんねえ。ハイ、というんですよ。いいですか……。くまのクマタロくん」
「ハーイ」
「はい、よろしい。つぎは、とらのトラキチくん」
「ウー、ウォー」
「いけませんねえ。もう一度、とらのトラキチくん」
「ハーイ」
「はい、よろしい。つぎは、うさぎのピョンコちゃん」
「ハーイ」
「おや、おや。ピョンコちゃんは、じょうずに、へんじができましたね」
そのときです。山の方から「ウォー、ウォー」と、変な声が聞こえてきました。それといっしょに、ヒュー、ヒュー、ものすごい風が吹いてきました。
「あっ、この風は」
と、いって、ヤギ園長先生は、首をかしげました。
動物幼稚園の子どもたちは、さわぎだしました。
「あ、てんぐ山のてんぐの風だあ、てんぐ風だあ」
「そうだ、そうだ。ウォー、ウォー、といって、ヒュー、ヒュー、吹いてくるのは、てんぐ風だあ」
たてたばかりの幼稚園が、地しんにあったように、ユラ、ユラ、ゆれはじめました。子どもたちは、声をそろえて、いいました。
「てんぐ、てんぐ、てんぐ山の大てんぐ。 風を吹かすのやめとくれ。
山の木は、もう切らぬ。 風を吹かすのやめとくれ」
と、どうでしょう。風はパッとなくなりました。
てんぐ山には、鼻の高いてんぐがいて、山の木をたくさん切ると、おこって、ウォー、ウォー、と大声をたて、ヒュー、ヒュー、風を吹かすのだそうです。
山の動物たちは、幼稚園をつくるのに、てんぐ山の木を、たくさん切ってしまいました。それで、てんぐが、はらをたてて、風をおこしたのでしょう。
ある日のことです。
くまのクマタロと、とらのトラキチ、それにうさぎのピョンコちゃんは、栗をひろって歩いているうちに、このてんぐ山にきてしまいました。
てんぐ山のてっぺんは、ふかい森になっていました。クマタロは、山の上の方を見ながらいいました。
「トラキチくん、ピョンコちゃん。てんぐ山のてんぐは、そんなに強くないんだってさ。ただおこると、鼻のいきが風になって、吹きまくるんだと。だから、あの高い鼻を折ってやるか、低くしてやれば、風を吹かすことが、できなくなるそうだよ。」
これを聞いて、とらのトラキチが、
「それなら、ぼくたちの方が強いよ。てんぐの鼻を折ってやろう」
と、いって、てんぐ山の上の方を、にらみつけました。
うさぎのピョンコちゃんは、
「もし、あべこべに、てんぐにやられたらどうするの、おやめなさいよ」
と、とめようとしました。
でも、クマタロも、トラキチも、いうことを聞きません。
くまのクマタロは、
「ぼくが、てんぐの鼻を折ってやる」
と、いって、トラキチやピョンコちゃんを、あとにして、どんどん、てんぐ山のてっぺんをめざして、走っていきました。
トラキチも、ピョンコちゃんも、そのあとについて、のぼっていきました。
クマタロは、てんぐ山のてっぺんの、森のそばにくると、大声で呼びました。
「こらあ、てんぐ。出てこーい。ぼくは、幼稚園でも力の強い、くまのクマタロだ。てんぐなんかにゃ負けないぞ。さあ、さあ、出てこーい」
すると、どうでしょう。森の中で、ザワ、ザワ、音がしたかと思ったら、
「わしは、てんぐじゃ」
出てきたのは、鼻の高い、まっかな顔をした、てんぐでした。
クマタロは、てんぐの前に、すすんでいきました。
「やあ、てんぐ。このあいだは、よくも、ぼくたちの幼稚園に、てんぐ風を吹かせたな。この悪いてんぐめ。さあ、その鼻を折ってやる」
クマタロは、てんぐの鼻に、とびかかりました。
ところが、てんぐは、ヒョイと、からだをよけてしまいました。
「なに、なに、くまのクマタロ。このてんぐの強さを知らないのか……。では、てんぐの強さを見せてやろう。ほら、ウォー、ウォー」
と、どうでしょう。てんぐの鼻から、ヒュー、ヒュー、風がおこって、あっと、いうまに、クマタロは、吹きとばされてしまいました。
そこへ、とらのトラキチが、やってきました。
「こら、てんぐ。ぼくは、とらのトラキチだ。クマタロよりも、ぼくのほうが強いんだ。幼稚園でいちばん強いんだぞ。さあ、その鼻を折ってやる」
トラキチも、てんぐの鼻に、とびかかりました。
てんぐは、ヒョイと、からだをよけると、
「うむ、こんどは、とらのトラキチか……。では、てんぐの強さを見せてやる……。ほら、ウォー、ウォー」
声をたてたら、てんぐの鼻から、ヒューヒュー、風がおこって、トラキチも、吹きとばされてしまいました。
くまのクマタロと、とらのトラキチが、てんぐ風に吹きとばされてしまうと、そこへ、うさぎのピョンコちゃんが、やってきました。
「てんぐさん、こんにちは。わたしは、うさぎのピョンコちゃんというの」
「なに、うさぎのピョンコ……。なにをしに、このてんぐ山へきたのだ」
「てんぐさんは、てんぐ風を吹かす、強いてんぐさんでしょう。だから、その強いてんぐさんを見たくて、この山にきたの」
すると、てんぐは、とてもうれしそうな顔をしました。
「うん、わしは強いぞ。いまも、クマタロと、トラキチを、吹き飛ばしてやったばかりだ」
「でも、てんぐさんは、鼻が高すぎますねえ。もっと低くすることはできないの」
「できる、できる。くしゃみをすれば低くなるさ。でも、鼻が低くなったら、てんぐ風を吹かすことが、できなくなるからな。くしゃみは、ごめんだ」
耳の長い、ピョンコちゃんは、にっこり笑いました。ピョンコちゃんは、
「そう、くしゃみをすると、鼻が低くなるのね。鼻が低くなると、てんぐ風が吹かないのね」
と、いいながら、てんぐに近づいていきました。
ピョンコちゃんは、“そうだ。てんぐの鼻を、くすぐってやろう。くすぐってやれば、くしゃみをする。くしゃみをすれば、鼻が低くなる。鼻が低くなれば、てんぐ風は吹かないのだ……”と、考えました。
長い耳をしたうさぎのピョンコちゃんは、その長い耳で、てんぐの鼻を、クチュ、クチュ、クチュ、くすぐりました。
鼻をくすぐられたてんぐは、大きなくしゃみをしました。てんぐは、あわてました。
「あ、くしゃみをすると、鼻が低くなる……。ああ、くしゃみが出る……。ハハハ、ハクション……。ハハハ、ハクション」
と、どうでしょう。てんぐの鼻は、ぐんぐん、低くなってしまいました。
てんぐは、
「ウォー、ウォー」
と、大声をたてましたが、てんぐ風を吹かすことが、できません。くしゃみをしたら、鼻が低くなったばかりか、まっかな顔も、色がさめて、やさしい人間の顔になってしまいました。
それから、てんぐ山のてんぐは、くまのクマタロ、とらのトラキチ、うさぎのピョンコちゃんといっしょに、幼稚園へきました。
てんぐ山の木でつくったりっぱな幼稚園で、動物の子どもたちと、なかよく遊んだというお話です。
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