今日の日はさようなら。
「違います…」
車から降りた瞬間に、走り寄って来たカメラマンの一斉のフラッシュと勢いに押されながら、わたしはその言葉を繰り返していた。
付き合っていた相手が、たまたま有名人だっただけで、普通の恋愛と変わりなかった。何が違うのか。
うまく彼の事務所が交渉したのか、情報が漏れる事もなかった。
それにしても、頭痛が酷い。
暫くは、静かにして居なくてはならない。
透明人間になる。というか、続けるにしても相当な覚悟も精神力も必要だろう。夢を追い続ける人をさらに追う事は困難な状況にもなるだろう想像はつく。好きならば、その思いだけで走り抜けられる?物事には、あの小説のように冷静と情熱の間が確実に存在するものだ。
人の気持ちも時間も常に変化する。
「ライブを観に来て欲しい」と渡されたチケットを握り会場に向かう。
関係者枠の席はあまりにも目立つ。彼もその席を気にしているはずだ。そんな席を用意したのだから、それが答えなのかも知れない。完全なプライベートが無くなる生活さえ納得出来るならば、(そもそも完全なものなど、この世にはない)一緒に居られるのかもという淡い希望も、観客の熱気と歓喜で一瞬で飛んだ。足に力が入らない。後方の扉付近の女性に声を掛けて、自分の席と無理を言って替わってもらい、脱力し抜け落ちた殻のように座る。
頭が痛くて、ふらふらする。
何曲目かで、聴き覚えがあるメロディが流れ始めた。スポットライトに照らされた彼が穏やかに歌う。やっぱり音楽を愛している人だ。ハンカチを手にして静かに席を立った。もう身体に充分に力が入る。彼からは分からないはずなのに、彼と一直線に目が合った。(ような気がした)もちろんステージ上で歌っているのだから、それ以上は何もない。
今日の日は、さようなら…
また会う日まで…
会場の扉を出て、どのように帰宅したのか?
思い出そうとするのだけど、覚えていない。
ん?
此れって夢か現か?
どっちだったかな?
そういえば、頭痛でもないのにね。
(新年度に向けて惰性な関係や感情もスパッと切り捨ててみたら、目眩や頭痛がパッと消えた驚き。不必要なものは潔く手離す。やはり精神衛生は生きる上で大切である。夢から目覚めると学びが降りてくる時がある、面白い)
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