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【本】人間らしさとは何か



スケールが壮大で、視野を広げてくれる1冊。

これまで人間らしさを考えるとき、私の尺度はせいぜい現代人(ホモ・サピエンス)の範疇(30万年前くらいに誕生)だったが、本書では700万年前まで遡って人間らしさを探究している。700万年前というのは、人間がチンパンジーとの共通祖先から枝分かれしたときだ。

枝分かれのあと、人間の祖先もチンパンジーの祖先もそれぞれ独自の進化を遂げてきた。何度も枝分かれして、その都度、私たちの祖先は現在の私たちの人間らしさにつながる特徴を獲得してきた。受け継いだものがあって今の私たちがいる。

サルから枝分かれして、私たちは、二足歩行を始めた。地球全体に分布していることも、サルとは大きく異る特徴だ。

こうして本書では、枝分かれするごとに獲得していった特徴を述べていく。直立することで喉が発達して複雑な音を発することができるようになった、発汗機能や靭帯が発達したことで長距離走が得意になった、気候変動で肉食を始めたことで脳が大きくなったなど。

なんだか、今の自分たちがあるのは奇跡としか思えなくなる。

こうした人類共通の特徴を見ると、私たちはもっと共通点に着目してもいいのではないかと思う。人は互いに分かり合えないとはよく言うし、そうだとも思う。でも、他の生き物からすると、音楽とかファッションとか生存とは無関係の「どうでもいいこと」も人間はする。普段は忘れているが、ベースは同じだよね。喜ぶことも、悲しむことも結構似ている。

また、現代人はもっと謙虚であるべきだとも思う。高度技術を開発して、世の中は日進月歩を繰り返しているが、その礎はこうした進化の歴史があってのことだ。現代人が縄文人より優れていたわけではない。経済力や技術力がある国の人が他よりも偉いわけでもない。

ほんの200年前くらいまでは、人間とサルには共通の祖先がいるなんて誰も思っていなかった。ソクラテスとか、孔子とか、デカルトとか、パスカルとかの偉人が、到達できなかった「科学的人間観」に触れられることは、現代を生きる私たちの特権であると思わせてくれる本だ。

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