#13 まわる回るよ、目がまわる
2022年1月後半、学校の授業は「運営管理」が終わり、4科目目の「経済学」がスタートした。
喉頭癌のため声帯を切除して声が出せなくなった父の、病院やケアワーカーさんたちの対応、会社関係の対応、父のわがままで引越しすると言い出した複数の不動産会社との対応、そんな自由奔放な父のそばにいる母のメンタルケア。そして、自分自身の仕事をこなしながら慣れない難しい勉強。知らず知らず、私の体も疲れがたまっていたようだ。
経済学の最初の授業を終えた金曜日の夜、ああ、また難しい科目だなーと思いながら、いつものように復習をして眠りについた。
夜中3時頃、ふと目が覚めた。覚めたといっても意識はあるが目を開けていない、夢と現実の間。なんだか、違和感を感じた。
あれ?乗り物に乗ってる感覚…夢かな?
恐る恐る、目を開けてみると、見慣れた天井がすごいスピードで動いていた
視界に入るすべてが右から左へとすごいスピードで移動し、端までくるとまた右から左へ移動。これをビュンビュンと繰り返している。
な、、なんだこれは!!
びっくりして、起きあがろうにも体をまっすぐに立っていられない。
そして、だんだんその世界を見ているだけで、船酔いのように気分が悪くなってきた。
こ、これは、もしや、、めまいでは、、、
はじめての経験すぎて、どう対処していいのかわからない。
とりあえず、トイレへ行こうと思っても、まっすぐに歩けないので、壁づたいに、狭い部屋をゆっくりと進んだ。
眠ればきっと治るだろうと、再びベッドに戻る。
しかし、恐ろしいことに目を瞑っていても、ぐるぐると世界が回る感覚が止まらない。しかも、向きを変えるとそれがひどくなる。
なんとも言えない不快感に耐えながらベッドでじっとしていたら、ぐるぐるが少しおさまってくることもわかり、寝返りをうたないように、頭の両側をクッションでかため、真上を向いてとにかく朝が来るのを待った。
細切れに少し眠ることができた私は、朝、ゆっくりと起き上がると、ぐるぐるが少しやわらいでいることがわかった。
ただ、頭を横や上下に動かすと、激しく大きくぐるぐると動き出す。
あぁ、なるほど。真正面だけを向いていれば、歩くこともできる。
歩けそうなので、かかりつけの耳鼻科へ電話した。
“かかりつけの耳鼻科”というのも、2年ほど前に耳の閉塞感が続き、病院で耳掃除をしてもらおうと訪れた耳鼻科。そこで耳の中を診てもらったが、まったく耳垢は無く、検査をすることになった。
そこで、「これは、メニエールやね」と言われた。
メニエールは聞いたことがある。めまいを発症する耳の病気だ。
「え?でも先生、私めまいなんてしたことないですよ?」
というと、「患者さん、みんなそれ言うねんけどね、めまいだけが発作じゃないのよ」と教えてくれた。
そして、この病気は治すことができない。ということも。
内耳にリンパ液が溜まることが原因と言われているため、発作が出ないようにするという意味で、体のリンパや水分を流しやすくするという漢方薬を処方され、毎月定期検診を受けることになった。
その“かかりつけの耳鼻科”に電話すると、「もし来院できそうなら、来てください」ということだったので、
腰痛持ちのおじいちゃんのように、そろりそろり、頭を動かさず、ただ正面だけを見つめてゆっくりと20分ほど歩いて耳鼻科へ辿り着いた。普段なら10分なのに…
病院では、「発作の状況をみたいので、ちょっとごめんね」と言って、目にカメラをつけた状態で、頭を横に90度ブンっと倒された。
そして、カメラに映った目の動きを見せてもらうと、私の目玉はびっくりするくらいの速さで、横にビュンビュンと動いているのがわかった。
しかし、これまた治療法がないという。めまい体操なるものを教えてもらい、自然に治るのを待つしかない。ということで、乗り物酔いの薬だけ処方され、ゆっくり休むように言われた。
難しい経済学がスタートしたばかりだったから、勉強したいのに、今日は大人しくしておいた方が良さそうだ。
せっかくの土曜日だったけれど、ベッドに横になり、頭の両側をクッションでかため眠りについた。おかげで、その日の夜にはめまいの発作はおさまった。
試験まであと6ヶ月ー
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