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【読書】子どもから大人まで貫くドラマ、森絵都さんの世界。

児童文学と呼ばれるジャンルがある。文学のジャンルについて詳しくないので、よく分からないのだけれど、簡単に言ってしまえば子ども向けのお話だ。児童文学は、童話やおとぎ話、昔話とはちょっと違う気がする。ジュブナイルという言葉もある。調べてみようとしたところ、あまりにも奥が深そうだったからやめた。

子ども向けの小説が幼稚かというと、そんなことはない。純粋であるがゆえに、大人のこころも揺さぶる。逆に大人向けの小説は汚れているから子どもには向かない。そこで考えた。難しさは汚れのひとつではないか。考えなくてもいいことを考える複雑さは、透明な水晶の玉についた汚れに似ている。年齢とともに、汚れを年輪として積み重ねた存在。それが大人だ。

森絵都さんは、児童文学におけるトップ作家のひとりである。第31回講談社児童文学新人賞を受賞の『リズム』がデビュー作とのこと。まだ読んでいないが、中高生のバイブルらしい。

最初に読んだ森絵都さんの作品は『みかづき』だった。西加奈子さんの『サラバ!』を読んでめちゃくちゃ感動して、さまざまな世代を超えた大河小説のようなものを読みたいと思って探したところ、大河小説のリストのなかにこの本を見つけた。

『みかづき』の物語は、小学校用務員を務めていた大島吾郎が塾を立ち上げるところから始まり、波乱万丈の人生を送る。教育産業を舞台としている。子どもに関わる世界ではあるが、大人のビジネスの世界が展開される。

児童文学じゃない『みかづき』という小説から森絵都ワールドに突入したのだが、その後、星にまつわるタイトルつながりで『宇宙のみなしご』『つきのふね』などを読み、とにかくストレートに伝わる文章に打たれた。全体的に読みやすい。読みやすいけれど深みがある。とりたてて飾った表現がないにも関わらず、感情の中心がくっきり際立つ。そんな描写に共感した。

代表作の『カラフル』を読んだとき、ああ、これは少年少女(かつて少年少女だった大人たち)のこころをつかむ小説だな、と思った。

『カラフル』のあらすじを簡単に紹介すると、自殺を図った中学三年生の主人公が「おめでとうございます!抽選にあたりました!」という天使の声を聞き、人生をやり直すチャンスをつかむ。魂のホームステイ期間を得る。

しかし、期間内に自分の罪を思い出さなければ不合格、この世から消え去らなければならない。やり直し人生を命じられたホームステイ先の小林真の身体を借りて体験する家族はぐちゃぐちゃで、彼は学校でも孤独な存在である。しかし、さまざまな出来事を通じて変わっていく。

他人の身体に入れ替わるテーマで思い出したのは、大林宣彦監督が『転校生』として映画化した山中恒さんの児童文学『おれがあいつであいつがおれで』だった。

なぜ自分は自分で他人になれないのか?というのは、少年時代からの疑問であり、そんなことを考え続けるのは古い言葉でいえば中二病(?)なのかもしれないが、少年少女のみなさんにとっては、永遠のクエスチョンなのかもしれない。その自分とは何か、あるいは客観的に自分をとらえるというテーマを直球ストレートで描き切っているのが『カラフル』である。

『カラフル』に登場する天使のプラプラは、なんとなく天使らしくないのだけれど、天使の登場する映画も好きだったことから、この作品にも好感を抱いた。『ベルリン・天使の詩』と、そのリメイクである『シティ・オブ・エンジェル』とか。『素晴らしき哉、人生!』を観ていないので、いつか鑑賞したい。『カラフル』は『ホームステイ ボクと僕の100日間』としてタイで映画化されているようだ。冒頭を少しだけチェックした。Amazonオリジナル映画のほか、アニメにもなっているらしい。さすが人気作品。

ところで、最近『DIVE!!』を読んだのだが、これは凄い。水泳の飛び込みでオリンピックをめざす中学生の坂井知季、高校生の富士谷要一と沖津飛沫の三人が中心となる物語で、それぞれの登場人物の人生が丁寧に描かれ、コンクリート・ドラゴンと呼ばれている飛び込み台の上の緊張感が半端なく伝わってくる。スポーツビジネスをめぐる社会的な背景や問題にも触れられていて、リアリティがあった。津軽で育った沖津飛沫と年上の彼女のエピソードに、ちょっとうらやましかったりもした。

もちろん中高生が読んでも面白いだろう。しかし、大人が読んでもいける。つまるところ、極上のエンターテイメントは年齢を問わないのではないか。大人になれない大人が多いとか眉を顰めるひともいるかもしれないが、ゲームにしてもアニメに映画しても、こころを打つ作品に境界はない。年齢の境界はもちろん、国境もないはず。

本離れが進んでいる。先日は「1か月に読む本がゼロという人が6割」というニュースを読んだ。しかし、物語を体験できるのであれば、別に活字ではなくてもよい気がしている。こころを躍らせるものは、ゲームでもアニメでも実写映画でもいい。仮想空間でも構わない。

あらゆるメディアの核としてあるのが、小説であり物語だ。そんな物語メイカーのひとりとして、森絵都さんに期待している。まあ、自分は本を読むけどね。活字で追う物語、本と過ごす時間はとても楽しいものだから。

2024.9.20 Bw

ここから先はX(旧Twitter)に投稿した森絵都さんの読了本の感想です。


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