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「アイヒマン」

君は旅をしてたんだ、それは長い長い旅だった、
擦り傷だらけの爪先が、いまでも次踏む一歩を探してる、
それなのに、着地点が見つからないまま唯々歩く、
自身の手足を傷つけまわる、まるで気狂い、滑稽なる道化のよう、

仕方がないさ、僕だって、君だって、
名前さえ与えられない小さくひ弱な独りの生き物、

もどかしくも頼りない、温い雨がぽつりぽつりと地表を濡らす、
氷が張れば鉄の嘴を持つ鳥が、こぞって魚を突くんだろう、

黄色いポストに飛び乗った、裾を引きずるベルボトムが独裁主義者の名を叫ぶ、
貧民街なら今日も明日も何処かの聖人君子が焼きに来るんだ、
退屈しのぎか掃除のつもりか、どちらにしても他愛のない遊戯らしい、

削れて薄い、透けた踵の藁編み靴を擦って歩く
心細くて泣いてしまいそうで何度も夜を耐えてきた、
そんなことを繰り返す、這うよう歩く荒れ地にも、
見上げた夜には星一面が咲いている、目覚めた朝には花一面が咲き誇る、

雪の窓を叩いた風と君の言葉の在り処はどこか、
「明日はどこへ旅に出るの?」
「風が背中を押すほうへ」
泥水を飲み、手を洗って顔を洗う、そんな日々を憶えてる、
そんな日々を生きると知ってる、腹を空かせた犬が汚れたものでも食うように、

軽やかに土を蹴り、気に食わないあいつの顔が汚れりゃいいのに、
仕方がないさ、僕だって、君だって、
名前さえ与えられない小さくひ弱な独りの生き物、

photograph and words by billy.

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