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「象の最期」

暗がりつつあるテントのなかで、
象は初めて暴れることを決意した、
どうしてだろうか、自分の体に纏わり付く金と銀の装飾たちが、
それから前脚の下を転がっているボール、
なんだこれは、なんだここは、

ついさっき、象の体をきれいに撫でた飼育係も、
毎夜のように、象に玉遊びを仕向ける調教師も、
怯えた顔で後ずさる、逃げ出そうと後ずさる、
こんな簡単なことに気がつかなかったなんて、
考えることを知らされずに生きてきたなんて、

象は鎖を立ち切った、それはまるきり造作もないことだった
人は象の力なんて知りはしない、
知っているつもりはするが、本当のことは何も知らない、

混乱している、悲鳴をあげる、
逃げ惑う、悲鳴が燃える、
我先に、自分が先だと、
人人が人人を掻き分ける、
誰かが転んだ、その背を誰かが踏みつける、
いつになっても変わらないその風景、

遮るものを蹴り弾いて、
僕はその舎を破いてやりたい、狭く閉じた世界を壊そう、
僕を遮る何もかもを蹴飛ばす以外にここから出られる術はないだろう、
象はまぶたに景色を描いていた、
どこかで視たはず、地平線を獣が走る、

果ての果てまで続く草原、
点々と、立つ緑の少ないひょろり高い樹、
流れる澱みのない乾風、
目を開ける、
そんなものはどこにもない、
想い描いた景色はない、

象は慌てた、鉄球を引きずって、
車輪のついた鉄の箱に足をかけ、
少しでも遠くまで見渡してみる、
草原はなく、象は故郷をただ想った、
家族や共に生きた群れを想った、
これは悪い夢だろう、そう想っていたかった、

気づけば銃をかまえて睨む人人に囲まれていた、
一人が弾き金をひくのを合図に、
象の体には数百の鉛が突き刺さった、
獅子の歯より重く鈍い痛みと蛇の毒より麻痺のある熱が象の体を締め付ける、
そして象は力を奪われ横たわれる、
目を閉じる、
抵抗などしないが、執拗に撃ち続けられた、
可哀相だと涙を見せる少女がいたが、
僕は静かに眠り、
やがて、心だけは草原に帰って行った、
やっと眠れると象は思った、

photograph and words by billy.

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