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「ある朝」

ある朝、それは12月の長い夜が過ぎた後、
愛し合いたかった、誰かと、誰でも良かった、
口笛が凍り落ちそうな、生温い月の下、
海を眺めて飲んだコーヒー、渡る鳥たち、その嬌声はまるで讃美歌、誕生日のよう、
ラジオのなかは戦時下のメリークリスマス、
聴かずに済むよう慌ててブーツの底で蹴る、
いつの日からか、灯台から光は消えてしまって、
そこには白い蛇が住み着いているって歯のない漁師がどうでもよいと笑いもしない、
もうすぐ街を離れる大道芸人たちは、遠くの空にぼんやり浮かぶ熱気球が揺れているのを探して続けて見つけられない、
枯れ落ちたる最後の葉の一枚が、路上を転がってゆくのを見つけて、
僕はここから離れようと決めたんだ、

ある朝、それは風の消えない美しくもない12月、
隠せなかった、不愉快を、何故かは知らない、
吐息は行く先失くして落ちた、昨日みたいさ、
消えた女が残して行ったサンゴのピアス、赤い口紅、使い果たした夜の残り香、
通りを走る、子供たちが揺らす傘が花に見え、
それからどこかの犬が吠え、窓辺の鳥たち、そこから逃げた、
いつの日からか、光の在処をまた忘れてしまったみたいで、
俺はどうやら、街を離れるときが来たんだと、
古い歌で魔物を祓って、部屋に残る空洞には新聞紙を投げ込んだ、
枯れた一輪、その花は、いつから咲いて、いつ枯れたのか、誰も知らない、
海は今日も続けるだろう、永遠を、

ある朝、ある日、ある夜に、
名前のつかない全ての事象に火をつけて、
俺は行くんだ、ここではないどこか遠くへ、なにもかもを捨ててでも、
永遠なんざ知らないって叫んだ記憶、そこには燃えたる亡霊たちが泣いていた、
行けるだろうか、どこへでも、
行けるだろう、どこにでも、


photograph and words by billy.

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