【詩】と音楽 「ふたつ星」

帰り道、歩いて
坂道、足を投げて
腰かけた坂道、
眼下に広がる街
君は
僕らは恋人ではなかったが
君は先に腰かけて
ふたり並んで腰かけて
足を投げて
並んで寝そべった

薄明るい夜空を見上げて
君は僕に尋ねた
「あそこに見えるふたつ星
取るならどっち」
少し待ってと僕は考え
「恋人じゃないけど、今だけ」と
右にいる君に腕を回した
君は何も言わず

「決めた」僕は
「君は」と尋ねると
「私は右」と。
「あ、同じだ」と僕。
「何の証拠もないけどさ」と
同じであることを伝えた。
君に理由を聞くと
「私には自分の方向があって
いつも右を選ぶことにしている」
僕は
「運命を切り開く方向だね」と。

君は僕より
背が低かったので
取るなら手が届きやすい方を
選ぶと思った
選んだものが同じなら
同じだねと言い
違ったなら
ふたつ取れたと
言ったのかも知れない

何ともなく
他愛ない話を少しした後
ふたりは起き上がって
帰り道を
右へ下って行った


エピローグ

なぜあなたは
どっちの星を取るなんて
あのとき聞いたの

あなたの質問に答える前に
右腕をあなたの右肩に
ずうずうしく回した後
言葉のない時間に耐えかねて
僕は答えたのだった

たぶん僕には
あなたがどちらを選ぼうと
良かったのだと思う
同じ時間を喜び合えたなら

そしてたぶん
あなたにも僕の答えは
どちらでも良かったのかもしれない
僕にはあなたが
右を選ぶことにしているということを
告げたかったのだと思えた

つまならないおまじない
だけど秘密のおまじないを
冗談っぽく告げるように

だから僕も
その冗談に半分乗ったかのように
でもそれを勇気づけるように
答えたんだ

そのあとのおしゃべりは
内心僕が少し受けている衝撃を
ごまかすためだったかもしれない

ほどよく話が尽きて
坂を下りて帰途に着いた
ふたつ星を見たとき
君は大切な何かを確認したかったんだね
そして君はそれを確認したんだと思う





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